吉澤嘉代子|ここからが新章の始まり

吉澤嘉代子インタビュー

わりと元気なここ最近です

──アルバムとしては1年8カ月ぶりですが、吉澤さんはその間、シングルを3作発表しました。メジャーデビューからミニアルバム4枚、フルアルバム3枚とアルバム単位でのみ作品を発表していた吉澤さんが、なぜこのタイミングでシングルを出すことになったのでしょうか。

レコード会社の意向です。

──(笑)。そもそも「シングルを出してアルバムにつなげて……」という発想はなかったんですか?

なかったですね。でも「屋根裏獣」(2017年3月発売の3rdフルアルバム。参照:吉澤嘉代子「屋根裏獣」インタビュー)が仕上がる前ぐらいかな? バカリズムさんの「架空OL日記」というドラマの主題歌の話をいただいて。

──それが1stシングルになった「月曜日戦争」ですね。吉澤さんは第9話で銀行員OLとして出演もされました(参照:吉澤嘉代子、バカリズム主演ドラマでOLに)。

はい。それで「シングルを出しましょう」と言われて……会社の方針に従いました(笑)。

──シングルを出したことと関係あるかわかりませんが、この1年8カ月の間は、今まで以上にメディアへの露出が多かったように思います。テレビで観る機会も増えたし、シングルのほうがプロモーションの機会が多いのかなと思ったのですが。

あー、そうですね。

──デビューしたての頃はメディアに出たりステージに立ったりしているとき、すごく不安そうな印象だったんですけど、最近は楽しく仕事をこなしているように見えます。実際はどうですか?

そうだと思います。アルバム3枚が内省的な目線の作品だったこともあって、自分のモードも自然と内にこもっていくような感じだったんです。その次……今回のアルバムですけど、テーマは前からすでに決まっていたので、今はこのアルバムのモードに支配されていると言うか。タイアップ曲でお題をいただいたり、外に向かっているような感じがありましたね。わりと元気なここ最近です。

──タイアップ曲だと今まで以上に関わる人が増えるでしょうし、初めて会う人とコミュニケーションを取ったりする機会も増えたんじゃないかと思いますが、そういうことも楽しめた?

楽しかったですね。いつもは自分の中からお題を見つけて主人公を設定して、という作り方だけど、タイアップだと大喜利みたいな。楽曲提供もモデルがいるうえで作れるので、お題があるのは楽しいですね。

「残ってる」が受け入れられなかったらもうダメだと

──シングルは「月曜日戦争」「残ってる」「ミューズ」の3作がリリースされましたが、中でもバラード曲の「残ってる」はこれまで以上に広く吉澤さんの名が浸透する楽曲になったのではないかと思います。ご自身ではどう実感していますか?

シングルを発売してすぐに反響があったわけではなくて、あとでじわじわという感じだったんですよね。変な言い方ですけど、自分でも上手に書けたなと思う曲だし気に入っていたので、これが受け入れられなかったらもうダメだと思ってたんですよ。自分が作っているものが世間とズレすぎてるんじゃないかって。だから発売してすぐはやっぱりダメなのかなって少し落ち込みました。

──じわじわと火が点いて、テレビ朝日の「関ジャム 完全燃SHOW」で蔦谷好位置さんが具体的な解説を交えて絶賛したことからさらに広がった印象です。

受け入れてもらえてホッとしました。「残ってる」はずっとシングルで出したいと思っていたんです。「このアルバムに入れない?」という提案があっても「いや、今じゃない」ってずっと守ってきて、いつかしかるべきタイミングで出すんだって。シングルで出すほど派手な曲ではないと思うんですけど。

──この曲をきっかけに吉澤さんに興味を持った人も多いと思うんですよね。ストレートに胸を打つバラードなので、「残ってる」から入った人が「ケケケ」(2014年10月発売のメジャー2ndミニアルバム「幻倶楽部」収録曲)や「麻婆」(「屋根裏獣」収録曲)のようなひょうきん路線の曲を聴いたときどう思うのか気になりますが。

そう! そうなんですよ。どう思うんだろう……。

──吉澤さんはこれまで企画盤を除くミニアルバム3枚、そしてフルアルバム3枚と、すべてデビュー前から構想を練っていたコンセプトに沿って作ったとおっしゃってましたよね。

今もそうで、だいたい3枚分は考えてますね、常に。

──今作が次の3作品の第一歩になると。そのテーマは人からお題をもらって作るシングルとも共存できるものだったんですか?

はい。今回のアルバムは女性の“性(せい)と性(さが)”がテーマで、これまでは内省的なものを描いていたけれど、今回は他者としての女性を描いているんです。つまり自分とは違う要素が入ってきているんですよ、今。これからは対人関係……恋人や家族の関係を描いた作品を書きたいと思っています。

“女性”とは

──「月曜日戦争」はイラスト、「残ってる」は後ろ姿の頭部のみ、「ミューズ」は安達祐実さんと、シングルのジャケット写真は見事に吉澤さん自身の存在が薄められていますよね。「女優姉妹」もまた4人の女優のみが写って吉澤さんの姿はありません。それは今のテーマと関係あるのでしょうか?

今回はアルバムのテーマを第一にしたものですね。どんなジャケットにしようかなと去年からずっと考えていて、年末に「若草物語」や「ヴァージン・スーサイズ」みたいな姉妹モノはどうかなと思い付いて。ライブでも姉妹モノの設定はずっとやりたいと思っていたんですけど、なにせ1人なので難しくて。でもジャケットでなら表現できるかもと思って、アートディレクターの方に「女優4人に出演してもらうことはできますか」と相談しました。

──では昨年末の段階でアルバムタイトルが先に決まっていた?

いえ、タイトルはけっこうあとで決まりました。姉妹というのはジャケット写真のイメージに引っ張られた感じで。女性を書いたアルバムを、ひと言で表すには語りきれないなと思って。

──吉澤さんが考える“女性”とは?

振る舞い、ですかね。女性としての振る舞いには傾向があるのかなと思いますけど、それも時代が作っていると思うんですよ。時代性を剥ぎ取ったときに何が残るかと言うと、男性と女性の違いを表すのは……ちょっと難しいですね。でも女性は好きです。昔はちょっと怖いと思っていたけど、大人になってみると、信用できる女の人にたくさん出会えた。だから「これだから女は信用できない」みたいな言葉に当たると、その人は女の人との出会いに恵まれてこなかったのかなあと。男も女もないのに。


2018年11月7日更新