クライマックスの「残ってる」とそのバーター

──8曲目「よるの向日葵」はピアノ1本と歌のみで、ひりひりとした緊迫感がありますね。

さっき1曲を除いて「自分と対峙する」という観点で曲を選んだと言いましたけど、その1曲が「よるの向日葵」なんです。これは「残ってる」のバーターとして選んだ曲で……。

──バーター？

バーターは言い方が悪いですね（笑）。「残ってる」の前にどんな曲を入れたらクライマックスに持っていけるか、考えてみると難しくて。ほかの曲はどれも当てはまらなくて、過去の曲をいろいろ聴き返していたら、昔書いたこの曲が耳に止まったんです。すごく純情で一途な主人公の歌で、今回のアルバムのテーマとはちょっとずれるけど、「残ってる」に素敵につなげてくれるかなと思って選びました。入れてみたら、周りにいるスタッフや友達の女の子がみんな好きだと言ってくれて、入れてよかったなって。これはピアノを弾いてくれた伊澤一葉さんの力が大きいと思います。直球で切なくなっちゃう。

──もともとこのぐらいシンプルなアレンジで考えていたんですか？

いえ、もともとはバンドアレンジで考えてました。なんですけど、「残ってる」を出したとき、伊澤さんに「残ってる」のピアノと歌だけのバージョンを作ってもらって、それがすごく好きだったから、アルバムの中でも1曲伊澤さんのピアノだけの曲が入れたくて。伊澤さんのおかげで素敵になりました。

──なるほど。では「残ってる」は当初からアルバムのクライマックスに配置することを想定していたんですね。ご自身でもよく書けたと思う曲が高く評価されたことは、自信につながったのではないでしょうか。

はい。これまでも「綺麗」とか「がらんどう」とか「シーラカンス通り」とか、自分で上手に書けたなと思う曲はいくつかあって、「残ってる」だけが最高というわけではないんですけど、この曲が評価されたのはうれしいです。

──蔦谷さんも「関ジャム」で指摘されていましたけど、吉澤さんが昔からルーツとして挙げている井上陽水さんの楽曲「帰れない二人」を想起させるアレンジになっていますね。

「帰れない二人」の主人公は帰れないままですけど、きっと朝には帰ったと思うんです。きっと学校とか仕事とか、生活があるはずで。「残ってる」はその生活の続きを書いてみようと思って書いたんです。それが大々的に出ちゃうとちょっと恥ずかしいんですけど（笑）、そんな気持ちもあったというぐらいで。

──「残ってる」でクライマックスを迎えたアルバムは、10曲目の「最終回」で幕を下ろします。ハッピーエンドとは言えない幕引きですが、吉澤さんはセルフライナーで「ひらきなおり生きてゆく滑稽さと強かさを、アルバム最後の歌に託しました」と解説していますね。

最初は「残ってる」で終わらせようと思っていたんですけど、アルバムを通して……メッセージというのは特にないですが、女性をテーマに考えたとき、聴いた人が明日からの未来に向かえるような、送り出すような形で締めくくりたいなと思ったんです。いろんな形の主人公の正体を最後にバラすような、ひっくり返すような曲が入れたいなと思って。

次のテーマは“リア充”？

──「女優姉妹」は狙い通りのアルバムになりましたか？

思っていたよりはさわやかと言うか（笑）、軽やかに仕上がったかなと思います。「残ってる」で知ってくれた人が初めて聴いたとしても、聴きやすいものになったかなって。

──12月の弦楽四重奏とピアノ編成による「みつあみクインテットツアー」を経て、来年には今作を携えてのツアー「女優ツアー2019」が予定されていますが、ライブはどんな感じになりそうですか？

「女優ツアー」と名付けたものの、今までもライブでは小芝居をやってきたので、今回はどうしようかなと……「女優ツアー」で小芝居を入れるのはちょっと恥ずかしいなと思ったりして（笑）。ツアーのバンドメンバーにはアルバムに参加してくださっている方も多いので再現度も高いと思うし、今回も好きな人が集まってくれたので楽しみです。

──そして「女優姉妹」に端を発する3部作はすでに構想ができていると。次作について予告編的に明かせる範囲で話すとしたら、どんなものになりますか？

なんだろうなあ……リア充、みたいな感じです（笑）。引きこもりから外に向かってますね。できあがったら全然違うかもしれないですけど（笑）。