ナタリー PowerPush - 砂原良徳

機械による、人間のための音楽

ジャンルが「New Age」なのは、僕がやりました

──リズムの話ですと、「Beat It」や「Physical Music」は、アルバムの中では動的なトラックで、例えばDJに使う人がいてもおかしくないとは思うんです。ただ、電子音楽を集団で楽しむ習慣がないのといっしょで、この音楽を自分以外の誰かと共有している絵というのが、あまり思い浮かばないんですよね。そういう意味でも、すごく不思議な立ち位置の音楽になっていると思います。

少なくとも、クラブではないですね。かけられるかもしれないけど(踊らせるという)機能は果たさないと思う。例えば小杉武久とかデヴィッド・テュードアの音を、トリッピーだからといって、フェスには使わない感じというか。このアルバムは間違いなく、僕という個人から、不特定の個人に向けられたものですからね。

──で、そんなCDをiTunesに読み込ませると、ジャンルが「New Age」になっているという(笑)。

(笑)。それ、僕がやりました。

──正しく電子音楽の系譜にあるなぁ、と感動しました。

そこまでアカデミックなものかと言われれば、そうでもないとは思うんですけどね。もう、自分の音がしっくりくるのはそのぐらいのものなんですよ。「Techno」じゃないし、「Electronica」じゃないし……って消していったら、もう、思想なんかを含めた「New Age」ぐらいしか残っていなかったっていう。結構あるジャンルの中から「New Age」を選ばなきゃいけない状況っていうのも、不幸なことだと思うけど。

──あのカテゴリを自分でつけられるとしたら、どんな言葉をつけますか?

うーん、やっぱり「Electronic Music」とか「Computer Music」になっちゃうのかな。音楽を指す言葉ではなく、手法を指す言葉にしておくぐらいにしておかないと、絶対にハミ出る部分があるから。余計な言葉で余計な先入観が入るぐらいなら、いっそブランクにしておきたい気持ちがありますね。

僕が生きているうちは、あの服装は新しくも古くもならない

──アーティスト写真に変化がないのも、余計な視覚要素を入れないためですか?

そうです。顔が見えると、音の聴こえ方が変わりますからね。あと、これはみんな気付いていないと思うんですけど、あれは「同じ」なんじゃなくて、「今回もこれでいく」なんですよ。「僕は今後も和服を着たままやっていきます」という意思表示なんです。なぜ和服かといえば、和服のモダニズムを信じているからですね。少なくとも、僕が生きているうちは、あの服装は新しくも古くもならないし、なおかつ歳を重ねるごとに馴染んでいってくれると思うんです。今の服に、そういうものはありませんからね。

──なんだか砂原さんって、今後はシャーデーとかSONIC YOUTHみたいな存在になっていくのかな、という気がしますね。

(笑)。どういう意味ですか?

──一定のファンが、いつも新譜を心待ちにしていて、出たら出たで、音が変わっていないことに安心するようなアーティストというか。

あぁ、そうですね。もう、僕や僕の音楽が、ガラッと変わるということはないでしょうね。今後、活動の流れがわからないくらいに断絶した内容の作品を出すことはないと思います。でも、緩やかな変化というのは期待してもらってもいいと思いますよ。確かにシャーデーぐらいの変化はしていくと思います(笑)。「LOVEBEAT」を作ったときに、「機械で作った機械の音楽」という確固たる方向性が定まった反面、それを磨いていくだけの職人になるというのは、まだ少し早い気がしたんですよ。より普遍的なものを作るには、まだまだ探求が必要だと思ったし。で、今回のアルバムでは、「LOVEBEAT」からの進化、その手応えを感じられたのと同時に、さらに新しいことに手をつけてしまったという実感もあるんです。まだやり切れていないどころか、むしろ始まってしまった、みたいな気持ちでいるんですよ。

──その新しいことというのは、具体的に、どんなことなんでしょう?

それをスラスラと言葉で説明し始めたら、このインタビューは、全部が嘘ってことになりますよ。

インタビュー風景

5thアルバム「liminal」 / 2011年4月6日発売 / Ki/oon Records

  • 初回限定盤 KSCL 1666-7 [CD+DVD]3360円(税込) / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 KSCL 1668 [CD]3059円(税込) / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. The First Step (Version liminal)
  2. Physical Music
  3. Natural
  4. Bluelight
  5. Boiling Point
  6. Beat It
  7. Capacity (Version liminal)
  8. liminal
砂原良徳(すなはらよしのり)

砂原良徳

1969年生まれ、北海道出身のサウンドクリエイター/プロデューサー。1991年から1999年まで電気グルーヴのメンバーとして活躍し、日本のテクノシーンの基盤を築き上げる役割を担う。

電気グルーヴ在籍時よりソロ活動を始め、1995年に「Crossover」、1998年に「TAKE OFF AND LANDING」「THE SOUND OF '70s」という3枚のアルバムを発表。脱退後は2001年にアルバム「LOVEBEAT」をリリースしたほか、スーパーカーのプロデュースやリミックス、CM音楽を手がけるなど多方面で独自のセンスを発揮。特にアーティストの魅力を倍増させるアレンジやリミックスには定評がある。2007年3月には自身のキャリアを総括するベスト盤「WORKS '95-'05」を発表した。

2009年7月にキャリア初のサウンドトラック「No Boys, No Cry Original Sound Track」をリリースしたのを期に、「SUMMER SONIC 09」「WORLD HAPPINESS 2009」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO」といった大規模な夏フェスに参加するなど、活発な活動を展開。2010年4月にいしわたり淳治とのユニット“いしわたり淳治&砂原良徳”としてシングル「神様のいうとおり」を発表したのち、7月にはシングル「Subliminal」を、2011年4月には待望のフルアルバム「liminal」をリリースする。

さらに、2009年11月に発売された電気グルーヴのシングル「Upside Down」収録の「Shangri-La (Y.Sunahara 2009 Remodel)」の“リモデル”を手がけたほか、2010年11月発売のagraphのアルバム「equal」のマスタリング、同じく11月発売のCORNELIUSのアルバム「FANTASMA」リマスタリング盤にてリマスターを担当。アーティストとしてのみならず、エンジニアとしての手腕も高い評価を獲得している。