デジナタ連載 砂原良徳 × Technics Sound Trailer|堅実で品があるオールラウンドな「SL-1200GR」体験

日本が世界に誇るオーディオメーカーTechnicsの魅力を深く広く伝えるべく、サウンドシステムごと全国を旅しているTechnics Sound Trailer。この車の中には、今回の取材に合わせて同社のシンボルと言えるターンテーブルSL-1200シリーズのSL-1200GRをはじめ、スピーカーやアンプなど計100万円を超えるシステムが構築されていた。

Technics Sound Trailerが今回訪れたのは、福岡の5月の恒例イベントとして人気の野外フェス「CIRCLE '19」の会場。音楽ナタリーではこのイベント当日に、出演者である砂原良徳にTechnics Sound Trailerを体験してもらい、Technicsやアナログレコードの魅力、彼が考える “いい音”論などを聞いた。

なお、今回砂原が試聴したのは、細野晴臣「フィルハーモニー」収録の「プラトニック」と、高橋ユキヒロ「Saravah Saravah!」から「C'EST SI BON」の2曲。いずれも砂原自身がマスタリングを行ったアナログバージョンだ。

取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 佐藤早苗

Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

パナソニックがTechnicsブランドの移動式試聴室として開発したトレーラー。音の躍動感、歌い手の息遣い、楽器から放たれる音色、指揮者が動き出す前の緊張感など、Technicsだからこそ表現できる音楽の世界をリスナーに体験してもらうべく作られた。トレーラーではTechnicsの主要ラインナップすべてが試聴でき、試聴音源もハイレゾ音源からCD、レコードまで幅広く取りそろえている。

SL-1200GR

SL-1200GR

アナログレコード再生の楽しみを音楽ファンに届けることをコンセプトにした、Technicsのダイレクトドライブターンテーブルシステム。世界中のユーザーに愛用されたSL-1200シリーズの新たなスタンダードモデルで、SL-1200Gのよさを継承しつつ、新たに開発された専用のコアレスダイレクトドライブモータを搭載している。

高校生の頃、 SL-1200は“欲しいもの”だった

──「プラトニック」「C'EST SI BON」の2曲を聴いて、砂原さんは「だいたいわかった」とおっしゃっていましたね。まずは試聴を終えたばかりの新鮮な感想をお願いいたします。

説得力のある音でした。まあ、これだけの機材がきちんとセッティングされているわけですからね。“低音の底”がすごくしっかりしているという印象で。ボトムの形が見えるというか、感じられる。自分がマスタリングしたときの表現がしっかりと伝えられていました。僕、普段は自分のスタジオのモニタースピーカーで音楽を聴いているんですけど、モニタースピーカーの音って剥き出しというか普段着っぽいんです。でも、今日試聴した音は“よそ行きの正装”っていうか。キレイで品がある。それと堅実です。浮気な感じがしない。

砂原良徳

──リスニング用のオーディオ機器には、会社によって音の方向性の違いというか、“社風”みたいなものがありますからね。砂原さんはその点でTechnicsというブランドにどういったイメージをお持ちですか?

確かにオーディオシステムって、例えば「ジャズならどこのアンプがいい」みたいなことを言われたりするんですけど、Technicsはオールラウンドで、ジャンルや流行に左右されない印象ですね。 “俺は俺”じゃないですけど、今回試聴して改めてそういうタイプだと感じました。昔はどこの家庭でも、オーディオ機器に部屋のけっこうなスペースを割いていたんですよ。僕の家にもアンプ、EQ、スピーカーなどがそろっていました。だから昔からいろいろなオーディオメーカーの機器がありましたけど、その中でもTechnicsは堅実で、それでいて今でもしっかりメーカーとして残っています。それはすごいことなんじゃないですかね。

──堅実に続けてるメーカーだと。

「Technics Sound Trailer」内の様子。

まあ、堅実じゃないと長く続かないですよ。流行りを追いかけてなくなった会社もいっぱいありますから(笑)。そういえば昔、「♪テクニークス」というサウンドロゴがありましたよね。いまだに覚えています(笑)。それと、Technicsといえばターンテーブルのイメージも強いです。SL-1200の前の機種、僕も持ってますよ。高校生の頃にDJカルチャーが台頭してきて、最初は自分の家にある普通のターンテーブルでもレコードをこすればスクラッチの音が出ると思っていたんですけど……どうやらそうじゃなかったみたいで(笑)。DJをやっている友達の家に行ってみたらSL-1200が2台あって、「これじゃなきゃダメなんだな」と知りました。でも高校生からしたらけっこう高くて。だから当時の自分からしても、“欲しいもの”でしたよね。そのうち1990年代くらいに2台買ったんです。とにかく僕らの時代にDJをやっていたら無視できないというか、これ以外のターンテーブルは選択肢もなかったと思うんです。どこの現場に行っても置いてあるし。

アナログレコード向きの曲がある

──今は音楽の聴き方やフォーマットもいろいろですが、砂原さんはどうやってリスニングを楽しんでいますか。

今はデジタル音源を聴くことが多いです。アナログレコードはたまに聴くくらいで、ターンテーブルも1台だけにしていて。だからアナログレコードを聴くのは、“ぜいたくな時間”って感じですよね。出し入れも大変だし。あと、値段も高いから趣味としてもぜいたく。今って1枚、3700円ですか? 昔は2800円だったんですけど、それでも高いと思っていましたもん(笑)。

──そうですか(笑)。とはいえここ数年は、若い人中心にアナログレコードの人気が高まっていますよね。アナログレコードの魅力を挙げるとしたら?

高橋ユキヒロ「Saravah Saravah!」
細野晴臣「フィルハーモニー」

アナログレコードには物質としての魅力もありますよね。触ることができると安心感があるし、あとはジャケットの大きさ。もともとレコードのジャケットって、こんなにビジュアル的に面白いものではなかったと思うんです。最初の頃は文字だけ書いてるとか、歌手の顔の写真が載ってるだけだったりして。でも、音楽のイメージを拡張させるために今のようにデザインされたものになっていったと思うんです。それで、音楽にビジュアル……っていうか、“顔”みたいなものができてきたんじゃないかと。今はCDもだんだんと減ってきて、そのぶん“顔”のようなものがなくなってきたと感じています。昔のほうが音楽と“顔”が一致するというか。音楽の世界観を拡張するという意味では、ジャケットがあるほうが今よりも効率的だったのかな。ジャケットにはそういう力がありますよね。

──確かに、昔の名盤のほうがパッとジャケットが浮かびます。

あとはさっきも言いましたけど、アナログレコードはいろいろ手間がかかる。出したりしまったり、拭いたり。そのうえに、重たい。これらはマイナスポイントに思われるかもしれないですけど、でも楽しみってけっこう面倒なことの中にあると思うんです。音楽制作もそうだけど、手間をかけて育てた子供って愛おしいじゃないですか(笑)。それと僕、本当のアナログ好きって、今の若い世代でレコードが好きだと言っている人たちだと思うんですよね。僕たちの時代は普通にあった時代だから、ある種ノスタルジーもあるのかもしれない。でも今の子たちはそういったものがなくアナログレコードに接していますから。当時を知らずに好きだと言っている人たちの意見が一番信用できるんじゃないかな……だから今日僕が言うことは全部信用しないでください(笑)。

──いやいや(笑)。サウンド的な魅力というと?

砂原良徳

やっぱり温かさがありますよね。ウオームな感じ。デジタル音源は冷たいコンクリートみたいな質感とでも言うのかな。今日、試聴していてもそれは確かに感じて、アンプに真空管が入っているんじゃないかと思ったくらい。スタッフの方に聞いたら、真空管は入っていないということでした。ただ、そういった温かみのあるサウンドは魅力ですけど、個人的にはそれが何よりも価値があるかと言われたらそうでもないと思っています。温かみのある質感が好きな人もいれば、冷たいコンクリートみたいな質感の音が好きな人もいる。だから選択肢だと思いますし、アナログレコード向きの曲、デジタル音源向きの曲もありますから。今回試聴した中で言えば、アナログ向きなのはユキヒロさんの作品。ああいう音楽は生楽器と空気の音が大事なので、そこの部分に魅力がある作品ならアナログレコードで聴くのがいいんじゃないかな。