音楽ナタリー PowerPush - ビッケブランカ
音楽だから伝えられる8つの物語
ビッケブランカが1stミニアルバム「ツベルクリン」を10月15日にリリースする。ファルセットボイスとピアノサウンドのアンサンブルで話題を集めてきたビッケブランカが満を持してリリースする今作には、雰囲気の異なる8曲が収録されている。
ナタリーでは彼の魅力に迫るべく、単独インタビューを実施。“ビッケブランカの音楽”はどのようにして作り上げられたのか、そのルーツやピアノとの関係性などから紐解いていく。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / 上山陽介
ルーツはSMAPとマイケル・ジャクソン
──まずはアルバム完成おめでとうございます。いろんなタイプの楽曲が詰め込まれた作品ですよね。
ありがとうございます。僕もバラバラだなと思います。
──どの曲も耳なじみのいいポップなメロディですんなりと耳に入ってきました。
僕はこれまで1つのジャンルを掘り下げるんじゃなくって、メロディがいいなと思う曲をひたすらに聴いて育ってきたんですよね。ロックだろうとR&Bだろうとバラードであろうと“いいメロディ”があればその曲が気に入りました。だから僕の曲は全部メロディに重点を置いて作ってます。
──メロディに重点を置くということは、作曲が最初ですか?
僕はいつもサビのメロディから作っていきます。ピアノを弾きながらなんとなく頭の中でメロディが鳴って、適当に英語で歌いながらサビを作って、コードの雰囲気とか楽器の感じをイメージして。サビができたら歌詞を日本語に変えます。で、そのあとにAメロとBメロをくっつけて曲が完成。それをPro Toolsで少しずつ再現していくっていう感じですね。
──歌とピアノ以外は全部打ち込みですか?
そうですね。歌とピアノと打ち込みだけです。
──打ち込み特有のキラキラしたアレンジもビッケさんの音楽の特徴だと思います。ファルセットのアンサンブルと合わさることですごくドリーミーな雰囲気が出ますよね。
曲が呼ぶようにアレンジを組み合わせていく感じなので、その“キラキラ”っていうものが僕いまだによくわかってなくて。
──そうなんですか。意識せずとも出てくるっていうことはこういう“キラキラ”を含んだ音楽がルーツにあったりするんですか?
そうかもしれないです。僕小さい頃ってJ-POPをたくさん聴いてて、SMAPやTOKIOみたいなジャニーズはもちろんだし、人気のあるものはだいたい通ってて。あとマイケル・ジャクソンも親の影響で聴いてたので、SMAPとマイケル・ジャクソンを交互に聴くみたいな感じでした。
──なるほど。それを聞いてすごく腑に落ちました。もともとファルセットを全面に押し出した歌い方をしてきたんですか?
いろんな試行錯誤の末にファルセットのアンサンブルっていうところに落ち着いたんですよね。例えばトータス松本さんとかSuperflyさんみたいな一発のシャウトで聴いてる人を惹き付けるような歌い方は僕にはできないし、まるっこくてパンチがない自分の声がコンプレックスだった頃もあって。せっかく曲を作って誰かのもとに届けるなら一聴しただけで人に元気を与えられるような声で歌いたいと思ったんです。いろいろ試してみて、キューンと抜けるようなファルセットで歌うのが自分にできる最大の元気な声かなって気付いたんですよ。
──なるほど。そしてその歌声をアタックの強いピアノが後押ししている印象もありますね。
ピアノはそれの反動ですごくアグレッシブに弾いてますね。
音楽じゃないと伝わらないエンディング
──ビッケさんの書く歌詞ってストーリー性がありますよね。でも詞だけじゃなくって楽曲全体が物語になっていると感じました。例えばこのアルバムに入ってる「Bad Boy Love」なんかだと、“ワル”が“バイオリン弾きの君”に恋をしてピアノを手に入れて……っていうストーリーを歌詞で提示しつつ、アウトロのピアノとストリングスのアンサンブルで歌わずともハッピーエンドを匂わせてるという。
伝わってくれてうれしいです。あんまり気付いてくれる人がいなくって、僕みんなに説明してるんです。昔「伝えたいことがあるから歌ってます」っていう話を人にしたことがあったんですけど、その人に「いい歌詞だったら朗読すればいいんだからさ」って言われたことがあって。それに対して歌じゃないとダメだっていう理由が言えなくて、ずっとモヤモヤしてたんです。このストーリーのエンディングは音楽じゃないと伝わらないんですよ。実験的にやってみたことがうまくいった曲ですね。
──確かにこれは歌だけじゃ伝わらないラストシーンですね。あとCメロというか、物語でいうと“ワルの頭の中”のやりとりみたいな部分も意外性があるというか。
ロックゴスペルみたいな部分ですよね。サビができて曲の雰囲気ができて、僕の昔の記憶の断片をふくらませてストーリーができていく中で足されたパートです。
──なるほど。そうやって少しずつ肉付けしていくんですね。さっきビッケさんは“記憶の断片をふくらませる”とおっしゃってましたが、どの曲にもご自分の経験はエッセンスとして入ってるんですか?
最初の“点”くらいのルーツは自分から生まれたものですね。だけどやっぱり実際の僕の話をしても面白くないようなことばっかりなので、その“点”を1日くらいかけてドラマチックな展開にしていくんです。例えるなら最後の一言を伝えるために2時間の映画を作るような感じですかね。そのストーリーを構築していくうちに自分で泣いたりもするんですよ。「ここで彼は……ああ……」みたいな(笑)。
──完全に自分じゃない誰かの話に変わっていくんですね。
そうですね。マッチを擦るのは僕なんですけど、最後に燃えてるのは全然違うところで。「Bad Boy Love」も僕が好きだったトランペット担当の吹奏楽部の子がモデル、まあ僕はこんなにワルじゃないですけど(笑)。でもそのときに感じた気持ちを歌ってます。
──そのときの気持ちをどんどんふくらませて、ビッケさんは“ワル”に、トランペットを吹いてたあの子は“バイオリン弾きの君”に。そしてそれを歌としてアウトプットすると。
はい。最終的には自分は物語の外にいるので曲が完成する頃には「こいつ……ピアノ買いに行く前に告白だろ! アホで純粋でいいな」って思うんですけどね(笑)。
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ビッケブランカ「TUBERCULIN tour 2014」
- 2014年11月8日(土)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2014年11月28日(金)大阪府 knave
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2014年11月29日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 17:00 / START 18:00
ビッケブランカ
愛知県出身の男性シンガーソングライター。高校卒業と同時に上京しピアノを習得した後、本名の山池純矢としてソロ活動を開始する。2012年にビッケブランカに改名。その後はライブ活動を中心とし、美麗なファルセットボイスとピアノが紡ぎだすポップチューンを武器に各地のイベントなどに出場し話題を集めている。2014年7月に先行配信シングル「追うBOY」をリリース。同年10月に満を持して1stミニアルバム「ツベルクリン」を発売したのち、11月に東名阪にてワンマンライブツアー「TUBERCULIN tour 2014」を開催する。