ビッケブランカが9月4日にニューアルバム「Knightclub」をリリースした。
2021年リリースの「FATE」以来、約3年ぶりのアルバムとなる今作。「白夜」「Never Run」などすでに配信リリースされている既発曲のほか、槇原敬之、絢香とコラボした新曲「Yomigaeri(with 槇原敬之 & 絢香)」や、「ヒプノシスマイク」に楽曲提供した「Rivals!」のセルフカバー「Old Rivals [A Self-Cover of "Rivals!"]」など、色鮮やかな楽曲が全10曲収録されている。
「FATE」以降、海外公演の機会が大きく増えたビッケブランカがグローバルなポップスを体現した「Knightclub」のリリースを記念し、音楽ナタリーではビッケブランカ本人にインタビュー。彼がどんな3年間を歩み、このアルバムを完成させたのかに迫った。
取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実
消えた“サウンドメイクの垣根”
──ニューアルバム「Knightclub」、素晴らしいです。これはビッケブランカさんの最高傑作ではないでしょうか。
うれしいです! 僕としては「いつも通り、アルバムができた」という感じですけどね。
──いつも通り、いいアルバムができたと?
普段の僕のキャラクターに沿って言えば、そういう言い方になるのかも(笑)。ほかのアルバムと比べて「これが最高傑作です」という感覚は僕にはないんですよ。
──洋楽的なアプローチとJ-POP的な楽曲の垣根が完全になくなって、本当の意味でグローバルなポップスを体現できた作品だと思うのですが、そこはどうですか?
あ、それはあるかもしれないです。いろんな国に行ったことで、曲を作るベースの感覚が変わってきたというか。無意識のレベルですけどね、それは。
──前作「FATE」との最大の違いはそこだと思います。
「FATE」って、どんな曲が入ってたっけ? ちょっとあのときの感覚を思い出してみよう。(スマホで確認しながら)「夢醒めSunset」「蒼天のヴァンパイア」「ミラージュ」「Divided」……なるほど、今とは全然違いますね、マインドが。例えば「Divided」は全編英語詞のバラードなんですけど、当時は「全部英語の曲を作ってやったぜ」みたいな感覚だったんですよ。今はそうじゃなくて、日本語がない曲も当たり前になっているし、それに伴ってサウンドメイクの垣根もなくなっているのかも。
──「FATE」以降の3年間は海外での公演が大幅に増えましたからね。
そうですね。ヨーロッパ、北米、南米、中東。海外で活動したいという思いはずっとあったし、それを見据えて曲を作ってきたところもあって。以前は海外の音楽シーンへの憧れを持ちながら曲を作っていたんだけど、実際に経験したことで意識的な部分でかなり変わったと思います。海外でワンマンライブもやれるようになったし、いろんな国の人たちの前で歌うことで、「英語で伝えたほうがなじみを持ってもらえる」みたいなことを体感したり。自分の中でOKを出せるボーダーも上がった……いや、種類が変わった感じがします。
──音楽制作の基準が変化したと。どっちが上とか下という話ではないんですね。
深層心理的にはあったと思いますけどね、昔は。スタジオのクオリティもそうだし、楽器やボーカルのレベル、サウンドメイキングにおいても「最新を提示するのは向こうの人たち」という感覚があったので。それをできるだけ取り入れて……日本という島国の中で、やれるだけのことはやってきたんですけど、実際に向こうでライブをやったり、現地のエンジニアと一緒に曲を作る中で、憧れる感覚がなくなって、次第に“当たり前”のことになってきて。その繰り返しだったと思いますね、この3年間は。
──海外リスナー、日本のリスナーの区分けもない?
うん、その差はもうないですね。日本は自分の籍がある国で、母国語は日本語ですけど、僕はスペインのいいところ、メキシコのいいところ、サウジアラビアのいいところ、アメリカのいいところを知っているし、どこかを対象にするという感じもないので。渦中にいるとわからないんですけど、ふと我に返ったときに「めちゃくちゃ充実してるな」と思うことはあります。4、5年前からこういう生活を望んでいたんだけど、コロナで全部ストップして。それでもあきらめずにやってきてよかったです。
曲の中心が自分に寄っている
──アルバムタイトルの「Knightclub」はいつ頃決めたんですか?
アルバムの曲が全部できてからですね。「wizard」(2018年11月リリースのアルバム)、「Devil」(2020年3月リリースのアルバム)、「FATE」みたいに1つの単語でバーンと打ち出せるタイトルが好きなんですけど、「次は何がいいだろう?」と考えたときに“Knight”(騎士)かなと。「wizard」(魔法使い、魔術師)や「Devil」(悪魔)もそうですけど、ゾクッとしていいなと思ってたら(笑)、センスのいいディレクターから「パーティ感がある、踊れるアルバムというイメージも入れませんか?」と言われたんです。そのディレクターは海外のツアーにも同行してくれて、現地のオーディエンスも見ているし、「国に関係なくひとつになれる曲の強さ、リズムの重要性も打ち出したい」みたいな話をしてくれて。いろいろ話す中で出てきたのが「Knightclub」だったんです。騎士団と夜のクラブとのダブルミーニングですね。
──確かにダンスミュージックへのアプローチもこのアルバムの特徴ですからね。
全部の曲がそうではないけど、音楽をやっていくうえで、リズムはめちゃくちゃ重要なので。ダンスミュージックはもちろんですけど、バラードでもガンガン盛り上がるんですよ、海外は。イントロが始まると大騒ぎだし、歌は大合唱だし、曲が終わったらもっとデカい声で「ウォー!」って叫ぶし(笑)。僕が知る限り、バラードをじっくり聴き入って、終わったら拍手するのは日本だけです。もちろんそれもうれしいですけどね。あと“Knight”をタイトルに入れたのにも理由があるんですよ。「wizard」「Devil」よりも人間味がある言葉じゃないですか、騎士って。自分の曲の作り方も想像よりリアリティに寄ってるので、ぴったりかなと。
──曲の作り方がリアリティに寄っているというのは、どういうことでしょう? 実生活とリンクしているとか?
いや、“実際の体験を曲にする”みたいなことではないですね。説明がちょっと難しいんですけど、想像だけに頼らずに曲を作るようになってきたんですよ。前は経験も少なかったし、自分自身も半人前だったので、スケールの大きい曲、幻想的な曲を作るためには想像力をフルに生かして、遠くから言葉を持ってこなくちゃいけなくて。今はもっと近くにあるものを使っているし、曲の中心が自分に寄っているんですよね。
──ビッケさんのアーティスト性のスケールが上がっているのかも。
そうなんでしょうね、相対的には。自分の経験値も上がっているし、想像力をフルに働かせなくても非日常的な音楽を作れるようになってきたというか。アルバムの新曲制作のときも、もちろんスタッフと「こういう曲も欲しい」「バラードもいいよね」と話しながらなんですけど、みんなの中にも「こいつに任せておけば、ヤバい曲を作るだろうな」みたいな認識があったと思います。EP「Worldfly」(2023年10月リリース)のときもそうだったんですけど、自由に作っても面白い曲になるし、ちゃんと統一感が出る。自分自身の感覚の変化みたいなものも表現されて、リリースする価値のあるものになるだろうと。僕もそう思ったから、今回は基本的に自由に作っていきました。
自信を持って「一緒に歌ってください」と言える
──では収録曲について聞かせてください。まずは1曲目の「Yomigaeri(with 槇原敬之 & 絢香)」。このコラボレーションはどういう経緯で実現したんですか?
やっぱり気になりますよね(笑)。槇原さんはラジオの方を通じて1年前くらいに知り合った尊敬する先輩で、食事に行かせてもらったり、音楽の話もいろいろとさせてもらってるんですよ。絢香さんはマネージャーが一緒ということもあって、つながって。僕主催のライブ「Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -伝-」(5月開催)に出てもらって、コラボレーションさせてもらったんです。偉大なアーティストと出会うと「一緒にやってみたい」と思うし、お二人に対しても、いつか曲でご一緒できたらいいなと思っていたんですよね。「Yomigaeri」を作っていく最中、曲がどんどん壮大になって、このタイトルが付いて、“命の歌”みたいになったときに「この曲であれば作り手としても歌い手としても、自信を持って『一緒に歌ってください』と言える」と思って。槇原さんには直接連絡を取らせてもらって、「不躾で申し訳ないんですが、僕の中では槇原さんの歌声が鳴っています。お願いですからコラボしてください」とお伝えしました。翌日にはOKしていただいて、「すごくいい曲だね」と言ってくださった。とても光栄でしたね。絢香さんとはもともと「一緒にやれたらいいですね」と話していたし、お願いしたらすぐに「私もやるよ」と返事をいただきました。
──お二人とも素晴らしい歌声ですね。
そりゃあもう! すごかったですね、お二人とも。僕も負けないように歌わないとなと思いました。
──「青く燃ゆ僕の火は 君だけの夜空を飛び交う」「蘇れ 新しい幕開けよ」もそうですが、まさに命そのものを歌った曲だなと。どんな発想から生まれた曲なんですか?
死んだ自分をよみがえらせる、みたいな。これはもう僕の人間性と言いますか。何か大きい出来事があったわけではなくて、これまで生きてきた中での経験値から来ているものだと思います。死生観について考える頻度も多いし、まだ完成しているわけではなんですけど、徐々にできあがりつつある現時点での価値観を表現した感じですね。
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ここまで色濃く自分の血が流れているのはひさしぶりの感覚