ビッケブランカ「Worldfly」インタビュー|軽やかに世界を翔ける ビッケブランカの世界地図

ビッケブランカが10月25日に新作EP「Worldfly」をリリースした。

全6曲で構成された今作には、映画「親のお金は誰のもの 法定相続人」の主題歌「Bitter」、3月に配信リリースされた「革命」の2曲に加え、春から夏にかけて行われた海外公演で世界各地を回る中で、ビッケ自身が得たインスピレーションをもとに制作された楽曲4曲が収められている。

新作のリリースを記念して、音楽ナタリーではビッケにインタビュー。「Worldfly」の制作背景や新曲の構想源となった旅の記憶、さらなる飛躍を見据える今の心境などを聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実
ヘアメイク / 麻生直美スタイリング / 岡村春輝

歌詞を読んでいて「めっちゃ優しいこと言うやん」って

──新作EP「Worldfly」には、春から夏にかけて行われた海外公演での経験をインスピレーション源に制作された新曲4曲が収録されています。“旅先で感じたことを曲にする”というのはテーマの1つだったんですか?

「この旅が曲につながるだろうな」という予感はありましたね。僕は常にオープンな状態なので、その土地の雰囲気や住んでいる人の様子がどんどん自分の中に入ってきて。それをもとに曲を作ったという感じです。

ビッケブランカ

──なるほど。サウジアラビア、イタリア、フランスなどでライブをされましたが、手応えはどうでした?

めっちゃ楽しかったです。盛り上がり方やコミュニケーションもそうですけど、日本のライブとはまったく別物というか。機材や音響は場所によっていろいろなんですけど、そんなことは重要ではなくて。“日本から来たミュージシャン”が「あなたたちに会いたかった」と直接伝えることが一番大事ですからね。ライブの姿勢も日本とまったく変わらないです。そのときに思いついたことをしゃべって、その場の勢いで曲に入って、曲目も自由に変えて。英語がある程度しゃべれるのは、本当によかったと思います。

──では、EPの収録曲について聞かせてください。1曲目の「Bitter」は、映画「親のお金は誰のもの 法定相続人」主題歌。家族のつながりがゆったりと伝わってくる、オーガニックな聴き心地の楽曲ですね。とっかかりはどういうものでしたか?

音楽が入っていない状態の映画を観せてもらって「エンドロールでどんな曲が鳴っていればいいだろう?」と考えたのがスタートですね。日本の映画はテンポがゆったりしている印象があったんだけど、「親のお金は誰のもの 法定相続人」はスピーディに進んでいくところと、しっかり間を取る部分の両方があるんですよ。ストーリー的にも驚きがあったし、すごく面白くて。

──親の遺産を巡る騒動を描いた映画ですが、曲を作るにあたって、物語のどういった部分にフォーカスしようと思ったのでしょうか?

田中光敏監督からは「ハートフルに終わりたい」という希望だけをもらっていたんですよ。映画自体はコミカルさもシリアスさもあるんですけど、僕としても平和でハートフルな曲にしたいと思っていました。楽器の音もそんなに主張しないような。

──穏やかなサウンドですよね。ビッケさんも家族思いだから、自分の経験と重ねられるところもあったのでは?

そこを前面に出そうとは思ってなかったですね。それよりも、舞台になっている海の近くの田舎町の雰囲気と、映画のストーリーが相まっている感じを打ち出したというか。

ビッケブランカ

──ビッケさん自身がやりたいことよりも、あくまでも映画に合う曲を意識していた、と。

そうですね。アニメやドラマもそうなんですけど、タイアップの場合は自分がやりたいことよりも作品の内容にふさわしい曲を作ることを第一に考えているので。まあ、アレンジも全部自分でやってるから、結局は自分っぽい曲になっていくんですけどね。今回もそこは自然にやれているし、書きやすかったです。やっぱり作品に触発されるんでしょうね。楽曲の向こうにもう1人の制作者……原作者や映画監督がいるし、その人たちの熱意が飛び火するというか。だから曲ができあがるのも早いし、精度も高いんです。シナジーですね。あと、自分にはないアイデアを引っ張り出してもらえるのもよくて。先方からの要望によっては「そういう発想はなかったな」ということもあるし、新しいことに気付かせてもらえることもあるんです。

──「Bitter」の制作でも新しい発見があった?

できあがった歌詞を自分で読んで「めっちゃ優しいこと言うやん」って(笑)。ポエトリーリーディングっぽくなるパートもあるんですけど、そういう歌い方も今まではやったことがなかったから。それもやっぱり「この映画にふさわしい曲を作ろう」と思ったからじゃないかなと。いろいろ引っ張り出してもらってますね、今回も。

ビッケブランカ
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機嫌が悪いからといって、作る曲がダメになるとは限らない

──2曲目の「Snake」はグローバルポップを意識した楽曲だとか。

自分なりのワールドスタンダードをテーマにした曲ですね。ハイハットの使い方とか、ベースのアレンジを含めて、サウンドは今の海外のポップスのど真ん中をイメージしながら作っていました。いろいろと試していたんですけど、制作時期がちょうど海外の公演と重なっていて忙しかったんです。時差ボケの影響であまり寝られなかったり、体力的にもメンタル的にもかなり極限の状態で。でも、そういうギスギスした感じがいい方向に転がることもあるんですよ。

──どういうことですか?

調子悪いとか、機嫌が悪いからといって、作る曲がダメになるとは限らないというか。機嫌がいいと「Bitter」みたいな曲ができるし、そうじゃないときは「Snake」みたいな曲ができるという(笑)。実際「Snake」を作ったときはかなりイラついてたんですけど、そうすると音の選び方も変わってくるんですよね。ソーセージファットナーという音をジャキーンとさせるプラグインがあるんですが、それを普段以上に使ったり。それも機嫌が悪いからこそできることなのかなって。

──あとで聴き直して「やりすぎたかも」ということはないんですか?

ないんですよ、それが。エンジニアのジョシュ・カンビーの存在も大きいですね。どれだけ極端なアレンジにしても、ジョシュがしっかり成立させてくれる。だから思い切ったことができるんだと思います。

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──なるほど。歌詞に関しては?

これはパリの街の雰囲気ですね。華麗さと怪しさが共存している感じをテーマにしていて。建物はめっちゃキレイだし、みんなおしゃれだけど、すぐそばにスリもたくさんいるっていう。気を付けていれば全然大丈夫なんですけどね。以前より犯罪は減ってるし、オリンピックが近いのもあって治安がよくなっているので。あとはパリの人たちのこともイメージしています。若いヤツは普通に明るく、年上の人たちは「我らフランス人こそ1番」と思っているような感じ。

──「Snake」はすでにライブで披露されていますが、反応はどうでした?

手探り感もあったので、まだわからないですね。ただ、この先ライブの主役になっていきそうだなという兆しはあります。ライブ中盤の山を作ってくれそうだなと。海外のオーディエンスにもぜひ聴いてほしいです。