アーバンギャルド|新体制になった3人がたどり着いた“2020年代のテクノポップ”

2019年3月にギタリストの瀬々信が脱退し、3人体制となったアーバンギャルド。彼らはその後、サポートメンバーを加えたバンド編成でのライブを行う一方で、打ち込みを主体とする3人だけでの“テクノポップ・セット”と銘打ったパフォーマンスに挑むなど、試行錯誤を続けてきた。

そんなアーバンギャルドが新編成での第1弾作品として2020年元日にリリースしたアルバム「TOKYOPOP」は、“テクノポップ・セット”で制作された新曲や過去曲のセルフカバー、SeihoやYunomiによるリミックスを収録した、彼らの今のモードを強烈に印象付ける1枚。ここにきて新たな局面を迎えたと言える3人に、バンドの現状について聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)

「ロックとはこうでなきゃいけない」という決め付けこそロックじゃない

──昨年3月にメンバーの瀬々信さんがグループを離れて、アーバンギャルドは3人体制になりました。まずはその2019年の振り返りから伺わせてください。

松永天馬(Vo) 2018年にデビュー10周年記念で中野サンプラザでのワンマン(参考:「アーバンギャルドを青春にしてくれてありがとう」10年分の感謝込めたサンプラザ公演)とツアー(少女フィクションTOUR~THIS IS TRAUMA TECHNO POP~)をやらせていただいて、さて2019年はどうしようかってときに瀬々から旅立ちの申し出がありまして。その後のライブの方向性を半年ぐらいかけて何度も何度も繰り返しミーティングをしてきました。結論としては、まず従来のバンドセットでのライブはよりライブ感を重視するため、ギター、ドラムに加えてベースをサポートで入れようと。

おおくぼけい(Key) 今までずっとベースを打ち込みの同期で出していたのがアーバンギャルドの特徴でもあったんですけれども。

松永 対してこの3人だけの編成を“テクノポップ・セット”と名付け、4月30日のワンマンライブ「平成死亡遊戯」で新編成のバンドセット、そしてテクノポップ・セットをなんの告知もなくお披露目したわけです。

おおくぼ アーバンギャルドは初期から“トラウマテクノポップ”と名乗りつつもわりとロックなギターサウンドでやってきたけど、この3人になったんだからテクノポップをちゃんとやろうという感じで。

松永 それはどちらかというと、この2人(浜崎容子、おおくぼけい)から出た意見なんです。

浜崎容子(Vo) 自分は「アーバンギャルドではテクノポップをやりたい」っていうのが根底にあったので、メジャーデビュー以降バンドっぽくなっていくアーバンに若干不満があったんです。ロック系の歌はボーカルとして得意じゃないし、自分がやっているのはずっとポップスだと思っていたので、メンバーの脱退をきっかけに立ち戻ってみたいという希望が強くあって。

松永 ピンチはチャンスですから。僕はロックも好きで、メジャーデビューのタイミングではとにかくスタッフ共々「ロキノン系になろう」という野望もありましたが夢破れて(笑)。その一方でここ数年、特に洋楽に顕著ですけど、「ギターや生ドラムがないとロックじゃないよね」ってところからどんどん音楽が離れて自由になっていますよね。僕らも必ずしもロックンロールの編成でなくてもいいんじゃないかと思って。「ロックとはこうでなきゃいけない」という決め付けこそロックじゃないんです! だから今アーバンギャルドはものすごく解き放たれた状態になって、サウンドに対して自由にアプローチができるようになったなと。

アーバンギャルド

おおくぼ 今までも「アーバンギャルドってどんなサウンド?」って聞くとだいたい「ピコピコしてる」と言われてたんですけど、そのピコピコだけになった、みたいな(笑)。

松永 そのイメージがサウンドにダイレクトに表れたアルバムになった印象がありますね。マスイメージに寄せたアーバンギャルド。もともと東京をテーマにしたアルバムを作ろうという漠然としたアイデアはあって。テクノポップ・セットをライブでやり始めてから、このセットの名刺になるようなアルバムを1枚作ってもいいんじゃないかと思ったときに「TOKYOPOP」っていうワードが浮かんだんです。いろんな言われ方をしますけどアーバンギャルドって結局どんなジャンルだろうと考えたとき、「東京の民族音楽だな」と感じることが多くて。だったらアーバンギャルドのジャンルを“TOKYOPOP”と名乗っていいんじゃないかと思った瞬間、パズルのピースがはまったんです。

天馬が送ってきた参考用の曲、全部聴かずに無視しました

──アルバムからのリード曲となった新曲「言葉売り」の、熱帯植物園で撮影したミュージックビデオも公開されました。

松永 あれは厳密に言うと熱帯植物園スタジオなんです。店舗とかに置いてある観葉植物を栽培する場所をそのままスタジオとして貸し出してて、昼間はヨガとかやってるらしいです(笑)。観葉植物とデジタルなメディアが配置されている風景が非常に90年代っぽいなと思って。ネット黎明期が歴史上の出来事になってリバイバルしているイメージですね。楽曲的には今までのアーバンギャルドのイメージになかったシティポップであるとか、大人っぽいイメージを前面に出してみました。これをリード曲にしたのも、今回のテクノポップ・セットを一番プレゼンしているサウンドかなと思ったからで。

おおくぼ 半年間テクノポップ・セットをやってきた成果としてできた最初の曲だもんね。

松永 ちなみにアレンジしたおおくぼけいは「いや違うんじゃないか?」と言い続けてるんですけど、僕はヴェイパーウェイブのつもりでこの曲を作ったんです。最初のデモの段階ではバンド編成で録ることを想定したBPMが200ぐらいある曲だったんですけど、何かオリジナリティが足りないなと思ってBPMを遅くして、慣れないGarageBandを使って自分の低い声と高い声でユニゾンさせてみたら、今の時代のリラックス感が出たなっていう。

おおくぼ まあ、ヴェイパーウェイブはフュージョンとかの元ネタありきの音楽だから、どちらかと言えばヴェイパーウェイブではなくその元ネタのほうに寄せている感じですね。

松永 そして今回のアルバムは浜崎さんがミックスも担当しているんですけど、「ちょっとヴェイパーウェイブを意識したミックスにしてみませんか?」ってお願いしたんですよ。

浜崎 天馬が「こういう感じで」って参考用の曲をいっぱい送ってくるんですけど、全部聴かずに無視しました。

松永 無視したんですね……。

浜崎 おおくぼさんが作った音を一番よく聴かせるのがこれかなっていうミックスを自分なりにやったので、何も参考にしていません。「これ寄りにしてくれ」って言われるのが私はあまり好きじゃなくて。それをやっても本物には勝てないし、すぐ古くなっちゃうし。天馬の中の流行を出さないようにがんばってミックスしました。別に世の中の流行を追っているバンドじゃないので。自分たちのサウンドを作らないと。

おおくぼ 取り入れはするけど、それをそのままやるわけではない。

松永 いつもアーバンギャルドは世の中の今の時代の流れと、これから来るであろうものを意識しながらも結果的に違うものになるという(笑)。2012年の時点で「病めるアイドル」という曲を出したり、サブカルバブル崩壊前に「さよならサブカルチャー」という曲を出したり……ちょっと早いんですかね? 自分で言っちゃうのもなんですけど(笑)。