アーバンギャルド|新体制になった3人がたどり着いた“2020年代のテクノポップ”

やっぱり前の感じがよかったんじゃないかなと本当に悩んで

──「言葉売り」でもSNSの未来を暗示していますね、

松永 簡単に言うと炎上についての歌なので。言葉というものが飛び交って一人歩きして、誰もが言葉を売っている / 言葉を買っている時代になった。言葉を貨幣としてやりとりするさまが東京という街の虚構性とつながったので「言葉売り」をリード曲にしました。そして最後の「東京爆発、その後」で東京が爆発して世界は言葉だけになった、という。

浜崎 知らなかった……そんな話全然してくれないから。自分は「メタ・セクスアリス」がリード曲になるかなと思ってました。

おおくぼ 「メタ・セクスアリス」は「次のアーバンギャルドのサウンドをどうしたらいいのか?」っていう試行錯誤の中でできたサウンドの賜物みたいな曲ですね。もっとシティポップに寄せてもよかったんですけど、後半アーバンギャルドらしくごちゃっとしたいろんな要素を入れてみたりとかして。

松永 サウンドに関しては今回おおくぼ、そしてミックスで浜崎が担った部分は大きいんじゃないかなと思うので、僕からもお二人に聞きたいですね。どうでしたか?

浜崎容子(Vo)

浜崎 これまでも自分のソロアルバムとかをセルフミックスで作ってきていたんですけど、3人で出す最初のアルバムでセルフミックスをすると、場合によっては宅録っぽい音になっちゃわないかっていう心配はあったんです。素人っぽくないようにしなきゃなというのはけっこうプレッシャーでしたね。

松永 特にこういうDTMを基調とした音楽は“アレンジの一環としてのミックス”っていう考え方が基本だと思うんです。テクノ系のミュージシャンだとミックスまで自分で手がける方ってけっこういらっしゃるし、今回はこういったアルバムなのでミックスをメンバーが行うのは意図をきちんとデザインするうえで非常によかったんじゃないのかなと思います。

浜崎 それ、前に私が言ったやつですよね? 身内で話したことをすぐパクって、ドヤ顔で言うんですよ(笑)。

松永 浜崎さんもどんどん言っていきましょう!

──浜崎さんは昨年ファッションブランドの立ち上げや、角松敏生さんプロデュースのソロアルバム「BLIND LOVE」の制作などがありました。

おおくぼ 歌を録ってるところに立ち会ってたんですけれども、1年前と比べても変わったなあってすごく感じました。

浜崎 今回レコーディング期間がけっこうタイトだったので、本当ならもっと時間をかけたかった曲もあるんですけど、それってけっこう自己満足だったりもするので、聴いてる人がよしとするならよしにしようって。セルフディレクションだと「もっといいのができる」と思っていつまでも終わらないので、おおくぼさんにずっと見張ってもらって(笑)。

おおくぼ 最初、過去の曲をカバーするときの歌い方に悩んでたんですよね。昔の歌い方に寄せたほうがいいのかとか。

浜崎 慣れ親しんでるオリジナルを大々的に変えるのはどうなんだろう、やっぱり前の感じがよかったんじゃないかなと本当に悩んで。おおくぼさんにメンタル面でもいろいろアドバイスしてもらいました。

おおくぼ 前のものは前のものとして完成してるからそれはそれ。今回のアルバムはまた違うものなんだから。

浜崎 わからなくなっちゃうんですよね。リスナーとしても新しくリテイクしたものより結局オリジナルを聴いたりするじゃないですか? そうなってほしくないのは作り手としてのエゴだし、でもリスナーが聴きたいのはオリジナルだし、どうしよう?って、うまい着地点を見つけるのにすごい時間がかかっちゃって。

──でも、若い世代にはこのアルバムがアーバンギャルドの1枚目になる可能性もあるんじゃないですか。

松永 あ! それは十分あるんですよ。

おおくぼ 作るほうもそういう意識はちょっとありました。

アーバンギャルド

聖書を作ってるつもりだったのに、「VOGUE」を作ってしまった

──「ももいろクロニクル(REIWA RAP ver.)」は3人の決意と覚悟のようなものが感じられてグッときました。

松永 ラッパーのチームがやる自己紹介ラップのような感じで、2人に語らせたら面白いんじゃないかなと思ってリリックを書いて。7月のライブでやってみたら評判もよかったので、「これもう録っちゃっていいんじゃない?」っていう。

おおくぼ アーバンギャルドが自分のことを語るって初めてなんじゃない?

松永 時代に対してとか、少女に対してといった客観的なアプローチが多かったんですけれども、バンドが自身を歌うのは初めてですね。バンド名が歌詞に入るのも。

──そこも大きな変化ですよね。

松永天馬(Vo)

松永 今回は自分の中の禁じ手をたくさん犯してるんです。今まで「アルバムは文学作品のようなもの。インストは基本的になし、詞と曲が最初から最後までがっつり濃厚に入ったものをスタジオアルバムと呼ぼう」と考えてきたんですけれども、今回はコンセプトアルバムとして作っていることもあって、文学作品ではなく雑誌のような作り方をしてもいいんじゃないかと。これは言ってしまえば、渋谷系のアルバムの作り方ですね。1991年にピチカート・ ファイヴが5カ月連続リリースした時期に、小西康陽さんがインタビューで「雑誌のようなものを作りたかったんだよね」とおっしゃっていたんですけれども、歌ものあり、DJミックスあり、インストありの内容で、窪田晴男さんと野宮真貴さんが延々としりとりをしていたり(「しりとりをする恋人たち」。アルバム「女性上位時代」収録)、沼田元氣さんが朗読をしていたり(「~朗読:沼田元氣」。アルバム「レディメイドのピチカート・ファイヴ」収録)、そういう自由なものをアーバンギャルドも作っていいんじゃないかと。「東京爆発、その後」のように今までやったことがなかった朗読のみの曲をやってみたり、曲の全編にボコーダーをかけたり。これまで我々は聖書を作ってるつもりだったのに、今回は「VOGUE」を作ってしまった!(笑)

──でも、この軽やかさは今の若い子たちにアダプトすると思います。

松永 今の子たちは80年代の軽薄さとはまた違うんですけど、ものすごくラフに音楽を着こなしている感じがするんですね。サブスクやSNSを用いて、音楽をファストファッションのような感じで軽やかに消費し、チョイスしている。アーバンギャルドもそういうアプローチで令和の1作目を作ってみたかった。

──リミックスでSeihoさんとYunomiさんが参加していますが、この人選は?

松永 これはレーベルのディレクターから「アーバンギャルドより若い世代にリミックスをお願いしたらいいんじゃないか」と提案されまして。Seihoさんは僕もSugar's Campaignをずっといいなと思っていたし、Yunomiさんは2年くらい前に「Yunomiという若い子に人気があるDJがアーバンギャルドとシンパシーを感じるところがあるよ」と言われて聴かせてもらってから興味を持っていました。

おおくぼ Seihoさんのリミックスは意外な感じがするよね。大人っぽい。

松永 Yunomiさんも、アーバンギャルドをリミックスするのは初めてなのに、初めてのように聴こえない。

浜崎 すごくいいです。リミックスには歌を使っていないものもよくあるじゃないですか? リミックスが届く前に天馬が今回の曲順を提案してきたから、「どんなリミックスが来るかわからないのに本編に入れて大丈夫? ボーナストラックにしたほうがいいんじゃない?」とも思ったんですけど、お二人ががっつり歌を使ったリアレンジのような音源に仕上げてくれたから、「TOKYOPOP」本編に入れても唐突感がないし、よかったなと思って。

松永 オリジナルに対するリスペクトがある作りをしていただけたのがありがたかったよね。