アーバンギャルド|新体制になった3人がたどり着いた“2020年代のテクノポップ”

先行する時代と今の時代をつなぐハブのような役割を果たせていたのかな

──おおくぼさんは昨年、アーバンギャルド以外の活動もあって大忙しでしたね。

おおくぼけい(Key)

おおくぼ がんばりました。戸川純さんとのライブをしたり、頭脳警察の結成50周年記念アルバム「乱破」の制作に大々的に関わったり。

松永 ベテランの方たちと一緒にやって、いろいろ得るところはあったんじゃないですか?

おおくぼ 一番感じたのは“続けられるパワー”ですかね。辞めてしまう人もいっぱいいる中、戸川さんにしても頭脳警察にしてもバリバリ活動して。

松永 たぶん続けられる人は新しい文化とか音楽に常に興味があって、それに対して自分たちにどういうことができるかを常に意識してるよね。

おおくぼ それが結果的にロックンロールだったとしても、ちゃんと時代に向き合ってやってる。そういうスタンスだから皆さん一言一言に重みがあります。

──でも、若いファンからするとアーバンギャルドもすでにそういう存在になっていると思うんです。

松永 2014年から毎年やっているアーバンギャルド主催の「鬱フェス」というイベントがあるんですけれども、アーバンギャルドが仲立ちすることでベテランの方とニューカマーの方を結び付けるイベントになってるように感じるんです。先日、元BELLRING少女ハートのカイさんが鈴木慶一さんのプロデュースでミニアルバムを出しましたが(参考:カイがムーンライダーズをカバー、鈴木慶一「みんなでカイちゃんを持ち上げましょう」)、それはムーンライダーズとベルハーが2016年の「鬱フェス」で出会ったのがきっかけだそうで。

おおくぼ おおーっ!

松永 そういう話を聞くとうれしいですね。先行する時代と今の時代をつなぐハブのような役割をアーバンギャルドが果たせていたのかなって。僕らは“引用”と“流行”を織り混ぜたような音楽の作り方をしているので、過去のものにもならないし、今だけの存在でもないバンドなのかなと。音楽って新しいのが出てくると過去のものと分断されてしまうじゃないですか。で、20年ぐらい経ってから「実はあれってカッコよくない?」みたいな感じでリバイバルされることがあるんだけど。サブカルチャーはある意味、分断しているものをつなげてカテゴライズしたり、サルベージして論じたりする文化なんだろうと思いますね。(浜崎のほうを向いて)あなたがアイコンとしてつなげてるわけですよ。どうですか?

浜崎 何そのざっくりした「どうですか?」(笑)。

自撮りは“見ない”が一番

──実際のところ、浜崎さんにはそのような自覚はあるんですか?

浜崎 私は最近、もし自分が10代とか20代前半の頃にアーバンギャルドを観たとして、好きになるかどうか、いいと思うだろうかということを考えるようにしているんです。1年くらい前までは写真や映像の映り方をすごく気にして、自分が嫌だなと思うものは排除してもらうこともたくさんあったんですけど、そのこだわりがなくなってきていて。もし自分がファンだったら「この顔がいいんだよね」と言うのかもしれない、みたいに思えるようになった。なので今回のアルバム用の写真も、チェックしてセレクトはしたけど、前みたいに細かいことは言わなかったよね?

松永 そうですね。以前は醜形恐怖症の典型みたいな感じだったので。

浜崎 それは今も継続中ではあるんですけれども(笑)。「言葉売り」のミュージックビデオも、最終チェックの1回しか観てないんです。

松永 普段すごくいろいろ言ってくるから「大丈夫なの?」と思った。

おおくぼ 「あとで怒られないかな?」みたいな(笑)。

浜崎容子(Vo)

浜崎 天馬も不安神経症みたいなところがあるので「浜崎さんチェックしてください!」ってすごく言ってくるんだけど、「観ないで納得できるだろうか」という実験をしたんです。でも最終チェックのときに1人で観るのが怖くて、ちょうどうちに来ていた母に「あの、もしよければ私と一緒にまっさらな気持ちでこの映像を観てくれますか?」ってお願いして2人で観たんですよ。そしたら「すごくカッコいいじゃん!」と言ってくれたので、天馬に「OKです」ってLINEを返して。嫌なものを排除するのではなく“見ない”という境地に達してしまったので。今は映像や写真にこだわりがなくなってきた感じですね。

──心境的にも軽やかになったということですよね。

浜崎 今の時代、みんな見栄えに囚われてて、しんどいと思うんですよ。アプリを何個も駆使して自撮りを別人のようにして。それを散々やった人から言わせてもらうと“見ない”が一番(笑)。

松永 自撮りを見ない女子!

おおくぼ 確かに僕も、人の自撮りとかあまり見なくなっちゃったね。

松永 だってみんな本物と違うんだもん(笑)。

浜崎 「このかわいい子はどうせいないんでしょ?」って感じで見るようになってるから、見てはいるけど見えてない。だったら、うちらも見なくていいじゃんという境地になったということです。前作「少女フィクション」でその片鱗が自分の中にありました。人の目を気にせず、人の意見をいい意味で聞かず、自分の好きなものばかり追求できた最初のアルバムですね。

松永 まあ、僕はずっとやりたいことをやってきたので……(笑)。でも、今回は僕のやりたいことも2人のそれとちゃんと合致してます。

浜崎 ただ、私は「昔の曲はやりたくないのにやらされてた」とか「出来が悪いものを出した」と思ってるわけじゃないからね?

松永 もちろんわかってます。

おおくぼ 3人それぞれソロでも活動してるんですけど、ソロって自分のやりたいことをやれるじゃないですか? でも「アーバンギャルドでやりたいこと」っていうのもやっぱりあって。それがだいぶできるようになってきた感じはしますね。

松永 ソロをやり始めると、バンドがお仕事っぽくなっちゃう人もいますよね。Queenも各メンバーがソロ活動を始めた時期に「The Works」というタイトルのアルバムを出してましたけど(笑)。アーバンギャルドが“ワーク”ではなく“バンド”としてやりたいことはなんだろうって、新編成になって改めてじっくり考えた末に出した、1つの答えがこのアルバムじゃないかなって気がしてます。