ナタリー PowerPush - アーバンギャルド
バンドマン諸君、君たちはアイドルに負けている
アーバンギャルドがメジャーにいる違和感が面白い
──今回PV監督を他人に任せたことが意外だったのは、これまでの活動を見る限り、きっとアーバンギャルドは何事も自分でやらないと気が済まない人たちなんだと思ってたんです。作詞作曲はもちろん、PV制作やアートワーク、舞台演出などを全部メンバー内でやっていたので。だから、今さらですがメジャーデビューしたときにはすごく驚きました。インディーズ時代にはプロモーション活動まで天馬さんが自らやっていましたし、同じクオリティで作品を作ってライブを続けていたら、自分たちだけの力でもSHIBUYA-AXを満員にするところまでは行けたんじゃないかって。
松永 確かに、今は同じだけ売れるならインディーズのほうがビジネス的には良い部分もあるんですけどね。実は自分1人で全部やりたいって気持ちはあんまりなくて、本当に仕事を任せられるパートナーがいればぜひお願いしたいって思ってるんです。
浜崎 曲に関しても同じです。アーバンギャルドの歌詞は天馬が書かないとダメだと思ってるんですけど、その天馬の言葉がより引き立つ曲が作れるのであれば、もう誰が曲を書いてもいいと思ってて。でも今のところまだそのマッチングについてはみんな勉強中なんです。言葉を乗せづらかったり、天馬が本当に言いたいことが言えない曲になってしまったら本末転倒だから。自分たちが本当にやりたいことが表現できないなら、そのやり方は排除しなければいけないと思ってます。
松永 僕、アルバムを作るときにまず企画書のようなものを作るんです。曲名と曲順だけをあらかじめ僕が決めて「じゃあ、浜崎さんは『前髪ぱっつんオペラ』という曲を作ってください!」みたいな感じでメンバーに発注するんですよ。
浜崎 そう。タイトルを見て、それぞれでイメージを膨らませて作曲するんです。
──へえ! 珍しい作り方ですね。
浜崎 もちろんメンバーが全くイメージと違う曲を持ってきても、いいものだったらそれを収録するし、自分たちが意図してない部分でいいものができるんだったらそれは積極的に取り入れたいと思ってますけど。
──浜崎さんはメジャー進出について当時どう思いました?
浜崎 周りの人から「メジャーには興味ないと思ってたよ」ってすごく言われたんですけど、やっぱり1つの世界にしかいないと自分たちの視野や可能性を狭めちゃうと思って。インディーズだからこそできる表現も、メジャーでしかできない表現もそれぞれいっぱいあるし、両方経験したかったんですよ。でもサブカルシーンの中にいると「メジャーは悪」みたいに思ってる人もよくいますよね。
松永 僕は元々演劇をやってたんで特に思うんですが、一部のアングラの人たちは本当にアングラが偉い、みたいな節があるんですよ。それがすごく嫌で。意外に思われるかもしれないけど、僕らは2007年くらいからメジャーオーディションみたいなのいっぱい受けてたんだよね。アーバンギャルドみたいなバンドがメジャーにいるって、違和感があって面白いじゃないですか(笑)。
浜崎 実際にメジャーで出すようになって感じたのは、良いものを作りたいって気持ちは共通だってこと。チーム一丸となって協力してくれてるし、「メジャーは悪」だなんて私たちは全然思いませんでした。好き勝手やってたインディーズの頃も楽しかったけど、何事もその時、その場所だからこその面白さは必ずあるから、今はそれを感じることでどんな作品が生まれるんだろうって楽しみなんです。規制された中で網の目をかいくぐって作品を作る面白さや難しさ、厳しさを目の当たりにするのは、やっぱり楽しい。
松永 まあ、不自由さが自由を生むんですよ……。
浜崎 なんだよその「Twitterの140文字以内でいいこと言った」みたいなドヤ顔は(笑)。あと、私は締め切りがないと作品が作れなくて。私も以前、どこに発表するでもなく個人で細々と曲を作ってたんですが、締め切りがないからいつまでも作り続けちゃうんですよね。そうなると自分の作品は永遠に生まれないんですよ。他人が聴いても違いがわからないような小さなこだわりで数値を延々いじり続けて、最終的にぐっちゃぐちゃになってお蔵入り、ってことがたくさんあったから。
松永 推こうし続けちゃうんだよね。
浜崎 だから締め切りがあるっていうことはどんなにありがたいことかって。それがあることで「病めるアイドル」も時流に乗った作品として発表できたわけです。
松永 自分のタイミングでやってるとタイミングを逸しちゃうってことはあるよね。
浜崎 メジャーに来た理由の中でそれが一番大きいかなって思いますね(笑)。
権威主義のサブカルよりミリオンヒット飛ばして売れてる人のほうが偉い
──アーバンギャルドは元々、先程おっしゃっていたような「アンチメジャー」の人が多そうなアングラシーンから生まれたバンドだと思いますが、同じようにそのシーンから現れてSHIBUYA-AXを熱狂的なファンで満員にさせるまで規模が大きくなったバンドって、同時代にはあまりいないですよね。
松永 いないですよね。
浜崎 みんないつの間にかやめちゃってたり。
松永 でも僕らがやってることは実は昔からそんなに変わってないんですよ。まあ、クオリティは上がってると思うんですけど。昔から朗読もやってるし、コンドームも客席に投げてるし。
浜崎 昔からシャボン玉も飛ばしてるしね(笑)。
松永 それでもだんだん規模が大きくなってきたというのは、やっぱり一番初めにどこを志向していたかということだと思います。
──ライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」ではカットされてますが、SHIBUYA-AXワンマンライブでの乱入騒動(会場にいたアングラ音楽家が「革命を起こす!」と叫びながらステージに上がり、松永天馬に詰め寄った)の件はまさに、アーバンギャルドが高いステージへと急速に駒を進めたことで生まれた摩擦なのかなと思いました。
松永 そうそう。乱入した彼の考えるアングラ的な表現方法と、僕の考え方の違いが表れた典型的なパターンだと思いますね。
──そうでしょうね。
松永 多分、彼は乱入することでライブを自分の作品にできるって思ってたんですよね。だから「そうじゃないんだよ」って思わせるためにはDVDからはカットしなきゃいけないなと。やっぱり自分の作品は自分1人で向き合って作るものだと思うし、人の作ったものに乗っかっちゃいけないと思うんですよ。いわゆるアングラやサブカルの界隈にいる人たちの一番悪いところって、だいたいみんな権威主義なんですよ。誰々が褒めた作品だから、みたいなことを言って、権威に乗っかって作品を評価している人が多すぎる。僕だって尊敬してる人はいっぱいいますけど、彼らが褒めたからとかそんなことどうでもいいじゃないですか。自分がどう思ったかを最も大事にしなきゃいけないのに。そういう権威主義って、裏を返すと根拠のない高尚さなんですよね。高尚だと思い込んでるだけ。極端な言い方ですけど、僕から言わせれば、ミリオンヒット飛ばして売れてる人のほうがはっきり成果を出してる分、偉いですよ。「こういうのがアングラだから」っていうこだわりは結局、自分の自意識を保つために必死で言ってるだけ。
──ああ。
松永 今回の一件で「アーバンギャルドはもうアングラじゃなくなったんだな」とか言ってる人もいましたけど、「いやいや、アングラだと言われなくて別に結構ですから!」みたいな(笑)。カテゴリを拡張していかなきゃいけない時期にきているというのに、ロックだったらロックというカテゴリを、アイドルだったらアイドル、もちろんアングラならアングラというカテゴリを拡張しなきゃいけないのに、その界隈にはまだ寺山修司(劇作家、詩人)を読んでればいいと思ってる人たちが多すぎるんですよ! もちろん僕だって寺山は大好きですけど、これを押さえとけばOK、みたいな思考はいかがなものか。「アングラの教科書」みたいなものが形になりすぎちゃってるから、そこをいったん再編する必要があると思ってるんです。
浜崎 「これだけ知ってればいい」は裏を返すと「これは知ってておかないとダメ」みたいな空気にもなりますよね。「え? あなたは○○のファンなのに△△も知らないの?」みたいな(笑)。そういうのもイヤですね。
松永 最近「オワコン」って言葉がありますけど、あれは発言者がイメージしてるブームみたいなものに対して「終わってる」とか「始まってる」という言い方をしているだけで、結局そこに自分はいないんですよね。自分の評価じゃなくて、世の中の評価に依存してる。自分がいいと思うか悪いと思うかって話をしていないから。サブカルやアングラの人たちが権威に寄り添って「あ、今これをちょっと褒めとけばカッコいいかも」みたいにしてるのと一緒ですよね。「オワコン」とか言ってる人は、自分の耳で聴いて判断したほうがいいと思いますよ! 自分の感性を信じてください!!
ニューシングル「病めるアイドル」 / 2012年6月20日発売 / UNIVERSAL J UPCH-5752
収録曲
- 病めるアイドル
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆
- スカート革命(French Pop ver.)
- 病めるアイドル(instrumental)
- 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆(instrumental)
- スカート革命(French Pop ver.)(instrumental)
ニューシングル「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」 / 2012年6月20日発売 / 5980円 UNIVERSAL J UPBH-9489
DVD収録内容
- 堕天使ポップ
- スカート革命
- 子どもの恋愛
- ベビーブーム
- 保健室で会った人なの
- プラモデル
- あした地震がおこったら
- 都市夫は死ぬ事にした(男だらけのアーバンギャルド)
- 傷だらけのマリア
- 前髪ぱっつんオペラ
- 水玉病
- その少女、人形につき
- 粉の女
- 修正主義者
- ときめきに死す
- ももいろクロニクル
- 生まれてみたい
- 四月戦争
- セーラー服を脱がないで
CD収録曲
- セーラー服を脱がないで(2012年日本語ロック論争のための新録)
- 水玉病(谷地村啓による、1984年のリセチフス報告)
- 女の子戦争(瀬々信による、手首を戦場に変えるヴィヴィアンガールズのために)
- 東京生まれ(鍵山喬一による、捏造されたクール・ジャパンを聴く)
- 傷だらけのマリア(浜崎容子による、現代のアンセム、またの名をテクノポップ)
- テロル(病気の原点、新録)
- コスプレイヤー(脱衣のための新曲)
アーバンギャルド
「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作もほとんど松永が手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年6月にはシングル「病めるアイドル」と初のライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」を同時発売した。