ナタリー PowerPush - アーバンギャルド

バンドマン諸君、君たちはアイドルに負けている

アーバンギャルドは「共感タイプ」ではなく「指摘タイプ」

──ところで、ファンの気持ちを受け止め続けていると、歌詞がどんどん過激になっていきそうですね。

松永 実は過激にしようとかあんまり思ってなくて。そのへんはナチュラルにやってるんです。

浜崎 うん。スキャンダラスなことをやろうと思ったことは全然ないね。

インタビュー写真

松永 でもまあ、やっぱりファンとしては「ここまでやったんだから次はもっと過激に」って気持ちはあるでしょうね。ただ、そういう「少年ジャンプ」的な考え方になっちゃいけないんですよ。「強い敵を倒したらもっと強い敵が出現」みたいな、どんどんハードルが高くなる右肩上がりのパワーバランスにならないように気をつけないと。

浜崎 私たちは考えなしに激しいことをしてるんじゃないかって見られがちですよね(笑)。

松永 僕はポップなものに対してすごくこだわりがあるんですけど。ポップというのは本来アイロニカルであったり、シニカルな要素が不可欠だと思うんですよね。大衆に向けて送り出すものであり、同時にその大衆のあり方に対する批評がなければいけない。

──耳あたりがいいだけではダメだと。

松永 そうそう。例えばアンディ・ウォーホルのポップアートのスタンス。最初はマリリン・モンローの肖像をシルクスクリーンでプリントしていたけど、最終的には自動車事故の死体とかをポップな色合いでシルクスクリーンにしてましたよね。ポップっていう言葉の本来の意味が「破裂する」ですから、価値観を破裂させるものであるべきだと思うんですよ。

──そのためにエグいテーマを選んでるんですね。

松永 病気や鬱をモチーフにしているアーティストは2種類に分けられると思うんです。1つは本人が実際に病んでいる当事者で、リスナーはその世界観に共感するというもの。でも僕ら自身は精神的に病んでいるわけではないんです。まあ、人間だから僕らもなんらかの病みを抱えてるとは思いますけど、とは言えリストカットもしたことはないし精神薬を飲んだこともない。僕と君は違うから気持ちを完全にわかることはできない、けれども違うからわかり合えることもあるんだよ、っていうのがアーバンギャルドのスタンスなのかなと思ってます。昔のロックもそうだったと思うんですよ。みんなが言わないことをあえて言ってしまうというか、相手の傷口をあえて指摘するというか。

浜崎 きっとみんな、本当は指摘されたいんだと思うんですよね。だって見えないところにわざわざ傷は作らないから。自分を見つけてほしい、自分からは言えないけど誰かに言ってもらいたいって、あがいてる子たちってたくさんいるはずなんです。

松永 アーバンギャルドはそれを受け止める側だと思うんですよね。自分たちがこういう疾患を抱えてるんだっていうのを吐露する「共感タイプ」じゃなくて、相手の病みをキャッチしてレスポンスをする「指摘タイプ」。一緒くたにされがちですけど、その2つは結構違うなって感じてます。僕は安易にそこで「わかるわかる!」っていう話にはしたくないんです。

──歌詞の内容で怒られることはないんですか?

松永 昔と比べたら今はそういうのが本当に厳しくなってる気がしますね。例えば筋肉少女帯とか聴いてると、当時これで普通に出せてたんじゃんって歌詞が今NGなんだなあとか。

浜崎 「人を殺して」みたいな表現はいっぱいあったよね。初期のXなんてしょっちゅう「手首を流れる血」とか歌ってるし。

松永 最近はテレビ番組も規制が厳しくなってるじゃないですか。でも完全に現実とかけ離れてしまってますよね。実際の世の中はどんどんドープな方向に向かってるのに白々しい。だからJ-POPが同じような歌詞になったってのもあると思いますよ。翼広げちゃうんだと思いますよ。「こりゃ翼広げる以外に選択肢ないかなー」みたいな(笑)。

村上春樹のように、狭い世界のパーソナルな物語から普遍を探っていく

──PVについてもお訊きしたいと思います。天馬さん以外の人がPVのディレクターを担当するのは「病めるアイドル」が初めてですよね。

松永 そうですね。今回はアイドルがテーマだったので、アイドルのPVを録ってる方にお願いして。スタジオも実際にアイドルの作品も録ってる場所だったから、後ろのカーテンとかアイドルっぽいんですよね。

──自分以外の人が録ったアーバンギャルドのビデオを観てどう思いました?

松永 いやー、すごく良かったですね。最初にミーティングをして「血の涙は必須なんです!」とか言ってたから、アーバンギャルドの世界観をくんでくれた感じで。

──なぜ今回はほかの人に制作を任せたんですか?

松永 バンドの次の段階として、人と一緒にやっていくってことも視野に入れる時期に来てるのかなって。今まで完全にセルフプロデュースで、アートワークなんかも全部僕がやってきたんですけど、今後はそういうのもコラボレートしていきたいなって思うようになってきたんです。それは多分、他者に委ねても自分たちのカラーが消えないっていう自信が付いてきたからだと思います。

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浜崎 「自分たちだけでやれるものはやり尽くした」とまでは思わないんですけど、インディーズから数えたらもう4枚もフルアルバムを出してるし、ほかの人が加わることでアーバンの世界観がより広がる可能性のほうに興味が出てきたんです。

松永 僕らみたいな、いわゆる“サブカル寄り”のバンドって、1stアルバムに初期衝動を全部詰め込んでしまってそれ以降に失速してしまうパターンが多いと思うんです。だから僕は「半歩先の世の中に対して自分がどうレスポンスしていくか」を考える必要があると常に思っていて。例えば初めてCDを作った頃と今を比べると、テーマにしてることは全然違うし、音楽業界の流れも変わってきたし。今回の「病めるアイドル」は典型例だと思うんですよね。「今このタイミングでバンドがアイドルをテーマにしなくてどうするんだ!」って思ってこの曲を作ったら、同時期にバンド側では日本マドンナが「バンドやめろ」って曲を出して、アイドル側では前田敦子のAKB48卒業という大きな事件が起こって。

浜崎 これがもし来年とか、もう1個リリースが遅かったりとかしちゃうともう完全に逸しちゃうタイミングだったと思う。

──確かにアーバンギャルドはネタの鮮度を重要視しているのを感じます。大げさに言えば、数年後に聴いたら歌詞の意味がわからなくなる曲もありそうですよね。

松永 そうそう。でもそれでいいんだと思います。例えば「ももいろクロニクル」も、あのタイミングで発表しないと絶対ももクロがこの言葉を使っちゃうと思って(笑)。「ときめきに死す」をリリースしたタイミングで森田芳光監督が亡くなられたのも、たまたまなんですが変なシンクロを感じてしまって。

浜崎 世の中のあらゆる物事は1つにつながってると思うんです。誰かが考えたことは他の誰かも同時に考えてるし、何かが起きる前にはそれを予感してる人もいる。

松永 だからこそ僕は、物を作る側としては時代に対する直感を研ぎ澄ますのがすごく重要だと思うんです。

──普遍的に長く歌い継がれる曲を作ることは目指してない?

松永 でも普遍的に歌い継がれるものっていうのは結局、ものすごくパーソナルな部分から生まれてくることが多いと思うんですよ。例えば、村上春樹は世界的な作家だからといって、世界文学全集みたいなものを書いているのかといったらそんなことはなくて。彼の場合は1969年~79年くらいの年代に強いこだわりがあって、狭い世界のパーソナルな物語から普遍を探っているじゃないですか。アーバンギャルドも同じで、趣味的でパーソナルな部分に向かっているように見えるかもしれないけど、同時に普遍を目指してるっていう意識はすごくありますし、その2つがつながる部分を見極めることが重要だと考えてます。

──簡単な話ではなさそうですね。

松永 例えば、アングラな人たちが「自分たちはこんな高尚なことをやってるんですよ」って言ってる一方で、「顔を白く塗っててなんか気持ち悪いですね」っていう外部からのツッコミがあることで初めて普遍性を帯びるんじゃないかと思ってて。僕らも、アングラとかマニアックとか一見思われてしまうような振る舞いをしてても、それに対しての冷静で常識的なツッコミは絶対欠かせないんです。自分たちがやってることに対してちゃんと批評ができるかどうかが大事だなと思います。

ニューシングル「病めるアイドル」 / 2012年6月20日発売 / UNIVERSAL J UPCH-5752

収録曲
  1. 病めるアイドル
  2. 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆
  3. スカート革命(French Pop ver.)
  4. 病めるアイドル(instrumental)
  5. 萌えてろよ feat. ぱすぽ☆(instrumental)
  6. スカート革命(French Pop ver.)(instrumental)

ニューシングル「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」 / 2012年6月20日発売 / 5980円 UNIVERSAL J UPBH-9489

DVD収録内容
  1. 堕天使ポップ
  2. スカート革命
  3. 子どもの恋愛
  4. ベビーブーム
  5. 保健室で会った人なの
  6. プラモデル
  7. あした地震がおこったら
  8. 都市夫は死ぬ事にした(男だらけのアーバンギャルド)
  9. 傷だらけのマリア
  10. 前髪ぱっつんオペラ
  11. 水玉病
  12. その少女、人形につき
  13. 粉の女
  14. 修正主義者
  15. ときめきに死す
  16. ももいろクロニクル
  17. 生まれてみたい
  18. 四月戦争
  19. セーラー服を脱がないで
CD収録曲
  1. セーラー服を脱がないで(2012年日本語ロック論争のための新録)
  2. 水玉病(谷地村啓による、1984年のリセチフス報告)
  3. 女の子戦争(瀬々信による、手首を戦場に変えるヴィヴィアンガールズのために)
  4. 東京生まれ(鍵山喬一による、捏造されたクール・ジャパンを聴く)
  5. 傷だらけのマリア(浜崎容子による、現代のアンセム、またの名をテクノポップ)
  6. テロル(病気の原点、新録)
  7. コスプレイヤー(脱衣のための新曲)
アーバンギャルド

アーバンギャルド

「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作もほとんど松永が手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年6月にはシングル「病めるアイドル」と初のライブDVD「アーバンギャルドのSHIBUYA-AXは、病気」を同時発売した。