ナタリー PowerPush - ドレスコーズ
「音楽家になりたかった」志磨遼平が明かす葛藤の果て
一番ドレスコーズに疎かった自分
──7月にリリースした1stシングル「Trash」の3曲を聴いたときの印象と、今回のアルバムの印象が結構違うんです。あのときは、アルバムはさらに得体の知れないものになるのかもしれないと思っていたんですけど、フタを開けてみると——。
うんうん、ドレスコーズというバンドの中で、俺が一番ドレスコーズのことに疎かったんです(笑)。ほかのメンバーはもっと先に、このバンドがどこに向かっていこうとしているのか気付いていたんでしょうけど、「Trash」を作ったときはまさに僕自身が、もっと突然変異的でアバンギャルドな、誰も聴いたことがないようなバンドになると思ってたんですよ。
──もちろん、そういうアバンギャルドな要素というのも健在で、「誰も知らない」とかを聴くと、このバンドのポテンシャルというか、底なしの凄味がバキバキに伝わってくるんですけど。ただ、そういうあからさまに凄味を見せつける曲は限られていて、基本、とてもメロディアスで、音数も極端に少ない、ソリッドなロックンロールアルバムですよね。
そうそう。「誰も知らない」は、この4人がバンドを組んだらこんな音なんじゃないかなって自分が最初にイメージしていたものを、1曲くらいは1st(アルバム)に入れておきたかったんです。僕が今年の1月くらいに思っていたこのバンドの音を、形にしておきたくて。僕はね、この曲みたいにもっとひけらかしたかったですよ(笑)。スタジオに入るたびに言ってましたもん。「うまい!」「すげえ! すげえ!」って。前のバンドが、どんだけヘタなのかっていう(笑)。
──はははは(笑)。
でもね、あの人たち(メンバー)は、そうやってバンドのプレイをひけらかすのをすごく嫌がるんですよ。で、僕に、「ちゃんとした曲、ちゃんとしたメロディを書け」って言うんです。僕、そういうの好きだし得意だけど、それでいいのかなって最初は思って。僕は、もっともっとメンバーのみんなみたいになりたかったんですよ。自分にしかわからないような音楽をやってる人っているじゃないですか。そういう「それ何?」みたいなものを僕もやりたいなって思ってたんです。
「僕が弾くギターには全部に理由があるんだ」
──最初は、意識的にせよ無意識にせよ、どうしても前のバンドに対する反動というものがあったってことですよね。
そう。僕はいいメロディは書けるけど、それって没個性的な、匿名的な才能だと思っていたんです。自分のそういう部分に対して、最初はすごく抵抗があったんですよ。そうじゃなくて、もっと自分にしかできない表現を突き詰めるべきやと思ったんですね。でも、メンバーから「それは違うよ」って言われて。「君の書くメロディは悪くない。それは立派に君のもので、それを形にするべきなんだよ。僕たちはそれを決して邪魔したくない」って。そうすると、アレンジってどんどんシンプルになるんですね。僕が「ここで君のあの独特なトーンのギターを入れてほしいんだ」って言うと、「それは弾く理由がないから弾けない。僕が弾くギターには全部に理由があるんだ。だから理由が欲しい」って言われて、僕にはわかんないって言うと、「じゃあ要らないってことなんだよ」って。もうね、ボロボロボロって、目から鱗が落ちる感じの連続で。ただ、「誰も知らない」だけは、ワガママ言って、レコーディングの一番最後に1回だけ録らせてって言って録った曲。なんかね、やっぱり自慢したかったんですよ(笑)。
──うん。これが入ってると入ってないじゃ全然違うし、他のストイックな曲とこういう曲とのバランスが、最初に言った「美しいロックアルバム」という印象につながったと思うんですよね。
なるほど。うん、そういうことだ。昔、画家の誰かが言ってたけど、本当の芸術というのは、生まれたばかりのときは醜いものなんだと。だから、きれいなものを作ろうとはしてなかったんですけど、その中にも「美しさ」を見つけてもらえたとしたら、それはとてもうれしいですね。
──でも、面白い話ですよね。ドレスコーズを作った志磨さん自身が、ドレスコーズのドレスコードに一番引っかかってたっていう。
そうですそうです! メンバーには最後まで教えてもらった感じです。「へーっ!」って言ってるうちにできあがって、そのまま今もどんどん曲を作ってるんですよ。だから、この1stアルバムはいったん制作を区切って作品集を出しただけなんですよね。今もどんどん変わっていってる。だから、まだこの作品を自分ではうまく言葉にできないんですよ。
──でも、今の志磨くん、すごく楽しそうですよ。
そうですか(笑)。まあ、必死って感じですね。必死に毎日音楽を作ってる。
特技はロックンロールなんですよ
──今年はライブに関しては神出鬼没って感じでしたけど、来年からはツアーも本格的にスタートしますね。
ずっとスタジオで4人だけで制作していて、いきなり9月にZepp TokyoやOTODAMA(「OTODAMA~音泉魂~」)で数千人の前にポンと立ったときは、モグラみたいな気持ちでしたね。「まぶしい!」って(笑)。最初は何していいかわかんなくて、演奏はできるけど、ショーアップしたものを見せるっていう意識が全くなかった。それで目が醒めたところもあって。音楽家になりたいなって思ってきたけど、やっぱり自分はバンドマンなんやなって。
──音楽家であることと、バンドマンであること、その2つは両立しますもんね。
そうそう。でも僕、全く忘れてたんですよ。ミュージックのことだけ考えてて、「ロックンロールすることにかけては、俺はちょっとすごいぜ」っていう自分の特技を忘れてた。僕、特技はロックンロールなんですよ。それもね、ちゃんと発揮していこうと。それでさらに楽しくなってきたっていうか。「これだったら得意だよ」っていうのを半年以上ほとんどやってこなかったわけですから。
──よく新しいバンドを始めると、昔からのファンは賛否両論みたいなことになるけど、今回はね、賛一色になる気がします。
マジすか! だったらいいな! 本当に、まだ自分で自分が何を作ったのかよくわかってないんですよ(笑)。
Lolita / ドレスコーズ
- 1stアルバム「the dresscodes」 / 2012年12月5日発売 / 日本コロムビア
- 1stアルバム「the dresscodes」初回限定盤[CD+DVD] 3360円 / COZP-735/6
- 1stアルバム「the dresscodes」通常盤[CD] 2940円 / COCP-37693
CD収録曲
- Lolita
- Trash
- ベルエポックマン
- ストレンジピクチャー
- SUPER ENFANT TERRIBLE
- Puritan Dub
- Automatic Punk
- リリー・アン
- レモンツリー
- 誰も知らない
- (This Is Not A)Sad Song
- 1954
初回限定盤DVD収録内容
- "Lolita" VIDEO CLIP
- "Trash" STUDIO LIVE
- "レモンツリー" STUDIO LIVE
- "(This Is Not A)Sad Song" STUDIO LIVE
ドレスコーズ
志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に起用され話題を集めた。12月、1stアルバム「the dresscodes」を発表。2013年1月からは全国ツアー「the dresscodes TOUR "1954"」がスタートする。