ナタリー PowerPush - ドレスコーズ
「音楽家になりたかった」志磨遼平が明かす葛藤の果て
ドレスコーズの1stアルバム「the dresscodes」がついに完成。満を持して届けられる今作は、デビューシングル「Trash」を含む12曲に4人の才能が結実した、メロディアスかつしなやかなロックンロールアルバムだ。
ナタリーではこれを受け、バンドの創始者・志磨遼平(Vo)への単独インタビューを敢行。彼は毛皮のマリーズでの8年間の活動を終え、ドレスコーズに何を託したのか。悩み抜いて作品を作り上げた末の率直な思いを語ってもらった。
取材・文 / 宇野維正
今までの人生が根底から覆るような制作
──素晴らしい1stアルバムですね、これは! 久しぶりにこんなに美しいロックのアルバムを聴いたなって思いました。
おお! やった!
──作品の印象がとても軽やかなので、ものすごく苦労して生み出したアルバムというより、バンドが化学反応を起こしているうちに気が付いたらできあがってた、みたいな作品なんじゃないかと思ったのですが。
いや、それが……。僕、曲を作るのは割と得意なんですよ(笑)。今までもそうだったし、今回も曲を作ってメンバーのところに持って行く段階までは全く滞りなかったんですけど。今回、他人と一緒にそこから形にしていくっていうのが実質上自分にとって初めての経験で。ひとりっ子なので、小さいときから1人でものを作るのが大好きなんですね。1人で絵を描くとか、文章を書くとか、ずっと妄想するとか、そういうことはずっとやっていられるし、それが僕にとっての創作だったんです。でも、そこに他人の血が入るというのは、自分の中では根本的に、今までの人生全てが根底から覆るような出来事で。だからものすごく悩んだし、これほどたくさんのことを考えて、時間と労力を費やした作品は初めてですね。
──そうだったんですか。えっと、もしかしたら読者の中に「えっ? 毛皮のマリーズでは違ったの?」と思う人がいるかもしれないので、そこの違いの部分について改めて教えてもらえますか。
マリーズのメンバーは本当に幼なじみだったから、聴いてきた音楽もバックボーンも全部一緒なんですよ。だからどんなことでも伝わるし、そこにあんまり会話はいらなかったんですね。僕が15、16歳くらいで曲を作り始めたときからその場にいたし、彼らにとって僕とバンドを組むっていうのは、イコール、僕が作ったものをプレイするっていうことだったんです。
──マリーズはある意味で、拡張された自身の肉体のようなものだった。
そうですね。でも、ドレスコーズは音楽的なバックボーンがまず全然違うし、みんな僕が知らないこともたくさん知ってるし、そこに共通言語なんてなくて。みんなすごくおとなしい子たちで、僕もおとなしいほうだけど、音楽のことになると命がけだから、誰も簡単には引き下がらない。全く違う文化の中で育って、自分の楽器だけを頼りにして生きてきた人間が集まったバンドだから。1曲1曲が、全部バンドのドキュメンタリーみたいな感じで。1曲作り終わったら、お互いそれぞれのことがちょっとわかり合えるようになって、また次の1曲に取りかかるっていう。そういう作業の連続でしたね。
毛皮のマリーズは“祈り”だった
──ロックの歴史には、最初に組んだバンドはある種の神聖なもので、その後に組んだバンドはなかなかそれを超えられないというジンクスがありますよね。そのジンクスを超えていくんだ、という意気込みのようなものはありましたか?
うーん、あんまりそういうことは考えなかったかな。例えばSEX PISTOLSの後のPILみたいな、そんなロックの歴史に挑んでいくような感じはなかったですね。僕にとってドレスコーズは、音楽家として初めて組んだバンドなんですよ。毛皮のマリーズは20歳から29歳の、僕の20代の全てでしたけど、その途中のある瞬間に僕は音楽家になりたいと思ったんです。ライブの最中とかレコーディングの最中とかじゃなくて、寝る前のふとした瞬間だったような気がするけど、「自分は音楽家になるんだ」って。毛皮のマリーズというバンドは、どんなに才能がない子でもバンドを組めば武道館のステージに立てるかもしれないっていう、“祈り”のようなものだったんです。ただ「バンドを組もう」という約束だけで、一体どこまでいけるかっていう。そういう無謀というか、荒唐無稽な願いが現実になりますようにっていう“祈り”だった。そして、その“祈り”を叶えてもらうかわりに、僕たちは音楽を持つことが許されなかった。でも、僕はどこかでバンドマンじゃなくて音楽家になろうと思ったんですよ。そのために友達の中からとびっきりの音楽家を集めて、自分もその中のひとつのピースになれることを願って組んだバンドがドレスコーズなんです。
──マリーズが“祈り”だとしたら、ドレスコーズはなんなんだろう?
えーっと……夢を実現すること、リアライズってことですかね。祈りっていうのは、自分からは何も起こさないことですからね。自分の頭の中だけの世界。でも、ドレスコーズは、何かを起こすために自分自身を変えていくという、すごく能動的な行為ですよね。
- 1stアルバム「the dresscodes」 / 2012年12月5日発売 / 日本コロムビア
- 1stアルバム「the dresscodes」初回限定盤[CD+DVD] 3360円 / COZP-735/6
- 1stアルバム「the dresscodes」通常盤[CD] 2940円 / COCP-37693
CD収録曲
- Lolita
- Trash
- ベルエポックマン
- ストレンジピクチャー
- SUPER ENFANT TERRIBLE
- Puritan Dub
- Automatic Punk
- リリー・アン
- レモンツリー
- 誰も知らない
- (This Is Not A)Sad Song
- 1954
初回限定盤DVD収録内容
- "Lolita" VIDEO CLIP
- "Trash" STUDIO LIVE
- "レモンツリー" STUDIO LIVE
- "(This Is Not A)Sad Song" STUDIO LIVE
ドレスコーズ
志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に起用され話題を集めた。12月、1stアルバム「the dresscodes」を発表。2013年1月からは全国ツアー「the dresscodes TOUR "1954"」がスタートする。