ポールにしか感情移入できない
──バンドを仕切ろうとするポール、それに噛み付くジョージ、気分にムラのあるジョン、そしてそんな3人の緩衝材的な役割を担っていた大人のリンゴ……誰に一番感情移入しました?
亀本 僕は圧倒的にポールなんですよね。というかポールにしか感情移入できなくて(笑)。ジョンやジョージを見ていると、「お前らとにかく言うことを聞け!」「とにかくちゃんとやってくれ」みたいな気持ちになる。バンドをまとめたい、よくしたいと思うポールの気持ちにものすごく共感してしまいました。第2部の後半くらいになってくると、「もうこのバンドを立て直すのは無理なんだな」みたいなテンションになっていくのも観ていてつらかった。
松尾 でも、私は後半のほうがまとまっているように感じたんだよな。
亀本 それは、もう「終わり」が見えてきたからじゃない?
松尾 それもあるけど、もし本当に崩壊していたらあそこまでやらないなって。いくら仲違いしようと、ほかに家族ができようと、変わらない絆が4人にはあったんじゃないかな。後半になるにつれて、それが見えるような気がしたんですよね、私は。
亀本 でもジョージとか、「俺はやりたくないけど、みんなが『やれ』と言うならやるよ」みたいな感じだったじゃん。
松尾 それでも「やる」と決めたら、最後までやり通したのはさすがビートルズだと思ったんだよな。
──ある意味では、プロフェッショナルに徹したということなのかも知れないですね。
松尾 そう思います。私はジョージに感情移入してしまったんですよ。あんな名曲をたくさん作っているのに、ジョンとポールの反応が微妙だったり、すぐ自分たちの曲をやろうとしていたりするのにびっくりして。「みんなもうちょっと聴いてあげようよ、3回、4回と聴いてみれば、この曲の本質が理解できるかも知れないのに!」って。
亀本 あははは! そうだったんだ。
レコーディングに「遊び」は必要
松尾 「ロックの歴史はビートルズから始まった」なんて言われますけど、4人はセッションの中で昔のロックンロールやリズム&ブルースとかからネタを持ってきたり、実際にカバーをやったりしていて。「ここに入れるフレーズはもっと古いロックから持ってこよう」とか、「昔の音楽っぽくしよう」みたいなことも言ってるんですよね。
亀本 そうだったね。
松尾 それって、例えばGLIM SPANKYが、60年代や70年代のロックやファッションに影響を受けてやっていることにもつながる気がして。よく私たちは、「どうして昔の音楽から影響を受けているんですか?」みたいなことを聞かれるんですけど、自分たちでは当然のことだと思ってやっていたから、うまく答えられずにいたんですよ。でも、この映画を観たときに「やっぱりそれって当然のことなんだ」と改めて思えたというか。自分たちがやってきたことに、もっと自信を持つことができました。
──彼らは古い音楽を、決して「懐かしい」と思って取り入れているわけではないんですよね。別の角度から光を当てることで、新たな魅力を見出しているというか。あるいは、現在進行形の音楽と組み合わせることによってオリジナルなものを作り出そうとしている。
亀本 そうそう。それこそ「Get Back」のサビのコードとか、ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)がよく使う#9thを入れたりしていて。
松尾 ジョージがボブ・ディランのカバーをやりたがったり、前日にテレビで観たThe Moveのコーラスについて話し合っていたり、ジョンがポールに「Fleetwood Mac、最高だったよ」と言っていたり。
亀本 特にジョンは、同時代のほかのバンドの話をめちゃめちゃしてるよね。「ストーンズがさ、ストーンズがさ」ってずっと言ってるし、やっぱこの人ミーハーでアンテナ張っている人なんだなって(笑)。僕もミーハーだからシンパシーを感じましたね。
──ビートルズは「孤高の存在」などではなくて、古今東西いろんな音楽から影響を受けていたことが、この映画を観てさらによくわかりますよね。セッション中、側から見ると無駄に思えるようなインプロビゼーションやカバー、自分たちの楽曲のセルフパロディに延々とふけり、各々の担当楽器を持ち替えたりしているのも、不意に降りてくる“閃き”をつかもうとしているのかなと思いました。
亀本 あれも同じミュージシャンとして、すごくよくわかるというか、ある種そういう「遊び」が必要だし、自分たちの好きな曲を即興的にカバーすることで、気持ちを盛り上げているところもあるんだろうなと。ああやって楽しそうに演奏しているシーンを見ると、やっぱりビートルズってライブバンドなんだなと思いますね。
ライブバンド・ビートルズの実力が発揮された伝説のルーフトップ・コンサート
──映画のクライマックスである、自社ビル屋上で行われたルーフトップ・コンサートはどうでしたか?
松尾 「ビートルズって、こんなに演奏がうまかったんだ!」と思いました。もちろん歌詞を間違えたり、ところどころで演奏ミスもしてたりしますけど、バンドとしてすごくまとまっている。どれだけラフに演奏しようが、どれだけふざけて見せようがすべてカッコいいのは、カッコつけてないからなのかなって。ユーモアのセンスもありますしね。亀が「ビートルズはライブバンドだ」と言いましたけど、それをすごく強く感じるシーンでした。
亀本 とにかくポールは真面目で、ちゃんと演奏しているよね。安定してうまいし、バンドを引っ張ってる。みんなを盛り上げようと思ってがんばっているしさ。対してジョンは、マジでムラがありすぎ(笑)。めちゃくちゃカッコいいところとグダグダなところが、両極端なんですよね。
──確かに(笑)。映画の中で、ほかに印象に残っていることはありますか?
松尾 もうたくさんありすぎでどうしよう……メンバーそれぞれのファッションや、スタジオで使っているマグカップなど細かいところにもたくさん目が行きました。ファッションをきっかけに音楽に興味を持つこともあると思うので、60年代のファッションや機材に興味がある人にもぜひ観てほしいです。特にジョージとリンゴが際立っておしゃれですよね。それに比べてジョンは、「3日くらいお風呂入ってないんじゃない?」みたいな格好をしていて……。
──あははは!
松尾 髪の毛もベタベタだし、同じ服ばかり着てるし(笑)。もちろん彼は、今も若者たちのカリスマだし、ジョンに憧れて髪を伸ばしたり、丸メガネをかけたりしている人もたくさんいると思うんだけど、実はスニーカーも汚かったりして、そこがまた「いいなあ!」と思いました(笑)。そういう、今まで知らなかった4人の一面が見られたのもうれしかったですね。
亀本 でも、そんな本来ならば、見せたくないし見せてはいけない制作の舞台裏や、みんなの夢が崩れてしまうかもしれない場面ですら、ビートルズだとコンテンツになってしまう。見せちゃいけない状態を見せても大丈夫なくらい超越した存在なんですよね。
──これ、ちょっと聞きたかったんですけど、もしGLIM SPANKYの次のアルバム制作に、プリプロの段階からカメラを入れたいという企画が持ち込まれたらどうします?
亀本 えー、どうだろう……どう?
松尾 ちょっと待って、考える(笑)。
亀本 いや、僕はいいんですよ。いいけど、撮れ高マジでないですよ。なんにも面白くないけど大丈夫?って思う。
松尾 そうだよね。ビートルズのセッションは悩んでるところもあれば、楽しそうにしているところもあって面白いけど、私たち悩んでるところしかないよ? しかもずっとカメラが回ってたら疲れちゃうだろうなあ……。
亀本 そう考えるとやっぱりビートルズってすごいよね。
松尾 うん。ビートルズがしていた実験を経て、音楽が発展していったというのが感動的だよね。何より「Get Back」を観たあとに作られる音楽は変わっていくかもしれない、というのは感じたな。
亀本 そうそう! これにみんながインスピレーションを受けて音楽を作って、いろいろ生まれると思ったら楽しみだよね。
プロフィール
GLIM SPANKY(グリムスパンキー)
松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、松尾の歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月には1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリースした。2018年5月には初の東京・日本武道館でのワンマンライブを開催。2020年10月に5thアルバム「Walking On Fire」を発表した。2021年10月から12月にかけて全国ワンマンツアー「GLIM SPANKY Live Tour 2021」を開催した。
GLIM SPANKY (@glimspanky) | Twitter