GLIM SPANKYインタビュー|“全曲主役級”の7thアルバムで打ち出した力強いメッセージ

GLIM SPANKYの7thアルバム「The Goldmine」がリリースされた。

「The Goldmine」にはBS-TBSドラマ「サワコ ~それは、果てなき復讐」の主題歌「不幸アレ」や、Paraviのオリジナル恋愛バラエティ番組「恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。」の主題歌「ラストシーン」、jon-YAKITORYによる代表曲の1つ「怒りをくれよ」のリミックスバージョンなど全11曲を収録。松尾レミ(Vo, G)曰く“すべてが主役級の楽曲”がそろっている。

「The Goldmine」の制作期間中には松尾の新型コロナウイルス感染の後遺症により、ライブへの出演キャンセルやレコーディングスケジュールの調整など、不測の事態に直面したGLIM SPANKY。2人がバンドのピンチを乗り越えて完成させた7thアルバムの魅力に、本人たちへのインタビューを通して迫る。

取材・文 / 小松香里撮影 / 森好弘

コロナの療養期間を振り返って

──松尾さんはコロナの後遺症で1カ月程療養されていましたが、無事復帰されて何よりです(参照:GLIM SPANKY松尾レミ、9月のライブ出演辞退)。その間の夏木マリさんのデビュー50周年ライブ(「祝・日比谷野音100周年 MARI NATSUKI 50 Jubilee LIVE」)や、「New Acoustic Camp 2023」ではさまざまなアーティストがピンチヒッターとして出演されていました。

松尾レミ(Vo, G) 皆さんには感謝でいっぱいですね。マリさんのイベントでは(上白石)萌音ちゃんに私の分も歌ってもらって、「ニューアコ」はTOSHI-LOW&恋のピンチ・ヒッターズ(TOSHI-LOW、細美武士、茂木洋晃、LOW IQ 01)にセッションしていただきました。

亀本寛貴(G) いろんな人が歌ってくれてうれしかったよね。

松尾 ボーカリストの友達がけっこう連絡をくれて「実は自分も苦しみました。だから大丈夫ですよ」というメッセージをいただいたんです。支えてくれる仲間がいるんだなと実感した期間でした。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──アルバム「The Goldmine」の制作には何か影響があったんですか?

松尾 歌録りのスケジュールをずらしてもらったりしました。その期間にライブをやろうとすると、Aメロを歌っただけでたくさん咳が出てしまって。1曲を通しては歌えなかったんですけど、レコーディングは分けて録れるので、少しずつ歌を録っていった曲もありましたね。

亀本 「大変そうだな」と思ってましたけど、声はちゃんと出ていたんですよね。アルバムの1曲目(「The Goldmine」)のボーカルは、後遺症が残っていたときの録音だもんね。むしろパンチがかなりあるボーカルテイクになったと思います。

──松尾さんは「The Goldmine」について「今まで以上に開けた景色を頭に浮かべて作った」とコメントされてますが、それはやはりコロナの制限がなくなったり、時代的な影響も大きかったんでしょうか?

松尾 亀本ともよく話していることなんですが、これまではマニアックな音楽を突き詰めている界隈と大きなフィールドでやってる界隈の中間に、インディー感もメジャー感も持ってるミュージシャンがたくさんいた気がするんです。でもコロナ禍が収束に向かっていく中で、多くのアーティストがしっかり売れるか、自分の好きなことをやっていくか、いずれかに舵を切って活動しているように感じて。GLIM SPANKYはもっと大きいフィールドに挑戦したい気持ちがあったので、これまで提供曲では使ってたけどGLIMの曲では使うことをNGにしていた言葉やメロディをOKにして、意識的に壁をなくしてアルバムを制作しました。「これまで以上に開けた」というのはそういう意味ですね。

松尾レミ(Vo, G)

松尾レミ(Vo, G)

亀本寛貴(G)

亀本寛貴(G)

使ってなかった手札を「ラストシーン」で

──コロナ禍に入ってから、亀本さんがプログラミングを担当される曲がどんどん増えていますが、今作はそのアプローチがより強まっていますよね。

亀本 そうですね。コロナ禍になってから作ったアルバムとしては3枚目なんですが、作品ごとに手法をアップデートしてきて、いよいよ生バンドありきのサウンドじゃなくなってきたと思います。2人組ということもあってそれがまったく問題ない。バンド編成じゃないアーティストの曲に聴こえるのであれば本望ですね。

松尾 オールドスクールなバンドサウンドでも打ち込みでも違和感がないサウンド、どっちをやってもGLIM SPANKYとして成り立つ音楽性でありたいですね。

──亀本さんは前作の「Into The Time Hole」の取材で「1曲に対しての情報量が膨大なJ-POPの作り方を試しているところ」だとおっしゃっていました(参照:GLIM SPANKYインタビュー|全方位に鳴らす試行錯誤のロック)。そのトライは今作に生きていると思いますか?

亀本 そうですね。そのアプローチで作った曲もありますし、一方で音数を減らして、少ない情報量だけどインパクトの強いアプローチができた曲もあります。幅が増えて、曲に対してよりベストな選択ができるようになりました。例えば「ラストシーン」はセクションごとにメロディもコード進行も違うし、転調も多い。そういうことも含めて、いろんなことができるようになった実感があります。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──「ラストシーン」はかなりポップスに振り切ってる印象がありました。

亀本 ありがたいことに、タイアップの話(Paravi「恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。」主題歌)がなかったら作らなかった曲ですね。さっき松尾さんが言ったように、いろんな曲にトライしたいと思ったので今まで使ってなかった手札を出した感覚がありましたけど、違和感はなかった。僕としては素直にやれましたが、松尾さんとしては、昔から持ってる手札だけどGLIMの曲では出してこなかった武器を使った感覚があるんじゃないですかね。

松尾 幼い頃からユーミン(松任谷由実)やはっぴいえんどが作るポップスが大好きなんですが、「ラストシーン」は自分のルーツの1つである70年代のニューミュージックの方たちのメロディや歌詞を参考にしながら作った曲ですね。

──恋愛番組に書き下ろしたというところもあって、歌詞では恋のときめきが歌われています。

松尾 恋愛映画を観たあとに、脳内に主人公がいて、映画を撮るようなイメージで歌詞を書きました。少し前に野宮真貴さんに提供した「CANDY MOON」を作るときに使ったような“扉”を開けた感覚があります。

提供曲の候補をブラッシュアップ

──ポップな面でいうと、「Innocent Eyes」はスタジアムロック的な雰囲気がありつつアコギが入ってきて、J-POP、J-ROCKならではの要素が強い楽曲だと思いました。

亀本 この曲も別アーティストへの提供曲の候補として作ったので、ポップな曲になったんじゃないですかね。

松尾 そうかもしれない。もともと、自分で歌うことは考えていなかったですね。

亀本 提供曲は自分たちより大衆的に開けたアーティストのために作ることが多いので、必然的に普段のGLIM SPANKYより視野を広げながら制作していて、今回のアルバムではそういう大衆性がいい方向に作用している気がしますね。

松尾 「Innocent Eyes」はColdplayとかが鳴らすスタジアム感とアコギのカントリー感をイメージしながらポップなメロディにしました。ほかのアーティストに提供することを想定して作りましたが、自分でも気に入っていた曲なので、「もったいないな」と思ってブラッシュアップしてアルバムに入れたんです。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──「透明な僕たちは 教科書通りなんて進めない 誰も皆 欲しがるものは 手にいれなくていいや」という歌詞がありますが、「手に入れなくていい」と言い切っている点に強いインパクトを感じました。

松尾 メロディもストレートでクリアな楽曲だったので、思い切ってこういう歌詞を書きました。前作(「Into The Time Hole」)に入っていた「形ないもの」では、「形のないものを大切にしていく」というメッセージを歌いましたが、コロナ禍になってこれまであったものがなくなってしまったり、人にも会えなくなってしまった。それで、「手に入れなくても大切なものは自分の中にある」ということをここ数年の自分は感じているんだと思います。