GLIM SPANKYの6thアルバム「Into The Time Hole」がリリースされた。
GLIM SPANKYがアルバムを発表するのは、2020年10月発売の「Walking On Fire」以来およそ2年ぶり。全編セルフプロデュースにより完成した本作では、60~70年代のロックからの影響を受けつつ、シンセベースやプログラミングなどを積極的に導入し、さらにはJ-POPの持つ“憂い”をも取り込んだハイブリッドなサウンドが展開されている。
5月に開催された東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブには、老若男女幅広いオーディエンスを集めたGLIM SPANKY。アートワークやファッションなどに自らの嗜好を反映させながら、同時にポップスとしての大衆性をも獲得できたのはいったいなぜなのか。2人にじっくりと話を聞いた。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 佐々木康太
ガチのフルアルバムは初めてかもしれない
──まずは「Into The Time Hole」という、ユニークなタイトルの由来から教えてもらえますか?
松尾レミ(Vo, G) 今作はコンセプトを決めてから作り始めたわけではなく、そのときに作りたいと思った曲をテイストの違いなどは気にせずどんどん作ることから始まりました。なので、一貫した雰囲気を伝えるようなタイトルを付けられないことはわかっていたんです。ただ、曲名に「レイトショー」というワードを使っていたり、非現実な風景を描写した曲が多かったりしたので、どこか短編映画のオムニバスのようなアルバムになるだろうと。その時点でなんとなく“映画”がキーワードになり、アルバムジャケットも映画のポスターみたいにしようという話になりました。最終的にはそうならなかったんですけど。
──なるほど。
松尾 視覚的なイメージでいうと、小さな覗き穴がついた箱がたくさん並んでいて、それを順番に覗いていくようなアルバムだなと。曲の中に流れている時間というのは、時が経っても変わらない。聴き手側の環境によって聞こえ方は変わるけど、曲自体に流れる空気感はずっと封じ込まれたままだと思ったんです。それってまるで、時間が止まった“タイムホール”のような空間へ入り込んでいくようでもある。
──確かに、曲って作られた時代の空気をそのまま封じ込めた、ある意味タイムカプセルみたいなものだなと感じることはよくあります。その曲を再生するたび、凍っていた空気が解凍されていくような感じ(笑)。しかも覗き穴の空いた箱を1つひとつ覗いていく視覚的なイメージは、遊園地のアトラクションっぽくもありますね。
松尾 そうそう。そういう非現実的でワクワクするような感じもあるし、自分の内面を覗き込むようなイメージもあるのかなと。
──実際のアルバム制作は、どのように行っていったのでしょうか。
亀本寛貴(G) まずは松尾さんから、1コーラス分の歌詞が付いたフル尺のデモが送られてきて。
松尾 亀がそれをアレンジしている間、残りの歌詞を一気に仕上げていくというやり方です。何度も書き直すこともあるので、最初の歌詞とはまるっきり違ったりもする。そこはいつも通りですね。ただ、映画っぽい感じとか、アルバム全体の雰囲気は2人で共有していたので、それに沿って1曲ずつこだわって完成させることができました。
──いつもそうやって作っていくことが多いのですか?
松尾 いや、今まではタイアップや先行シングルなど既存の曲があって、そこに書き下ろしの曲を混ぜてアルバムを仕上げていく感じだったので、そういう意味では今回はだいぶ違います。
亀本 今回みたいにフルアルバムらしいフルアルバムをガチで作ったのは、実は初めてだったかもしれないね。
フェイクの魔法から目覚めるには
──クレジットで作曲がGLIM SPANKY名義になっている曲と、松尾レミ名義になっている曲があります。この違いは?
松尾 最初に私が弾き語りでコードとメロディを作って、それを亀に投げている曲が松尾レミ名義。とっかかりが亀の作ったトラックやギターリフで、そこに私がメロディを付けた曲はGLIM SPANKY名義になっています。要するに、曲が生まれるきっかけの違いですね。
──亀本さんが作ったトラックやギターリフにメロディを付けると、松尾さんが自分でギターを弾きながら考えるメロディとは違ったものになりますか?
松尾 なりますね。自分が知っているコードで曲を作ると、やっぱり自分のクセが出やすい。でも亀のトラックには、私が普段使わないようなコード進行や展開が出てくるので、自分でも思いもよらないメロディが出てくるときがあります。例えば「レイトショーへと」は、ブラックミュージックのレイドバックしたノリを出したくて、BメロのあたりはSly & the Family StoneやThe Jackson 5時代のマイケル・ジャクソンの歌い方を意識しながら歌っています。あと、サザンオールスターズの「愛の言霊 ~Spiritual Message~」や、ユーミン(松任谷由実)の「真夏の夜の夢」みたいな、ポップだけどちょっと妖しい感じも目指しましたね。
──「HEY MY GIRL FRIEND!!」も作曲がGLIM SPANKY名義ですが、こちらはどこかかわいらしいサイケポップチューンです。
松尾 実はこの曲、野宮真貴さんに提供しようと思った候補曲の1つだったんです。なので、ちょっとピチカート・ファイヴっぽい感じ……ピアノのフレーズなどレトロ感もありつつポップでキュートなイメージを目指しました。サビはテイラー・スウィフトくらいのキャッチーさ、音の並びを意識して。メロディの譜割も今までに比べると小刻みですし、1つの音符に2つの言葉が入るようにしましたね。
──「ドレスを切り裂いて」も、湿度のあるJ-POPっぽい作風です。
松尾 この曲は、今回のアルバムの中で最初にデモが上がっていたのですが、日本語を乗せるのがすごく難しくて一旦寝かせていたんです。途中まで忘れていたんですけど、せっかくパンチのある曲なのでもう一度挑戦してみようと。歌詞は昨今のSNSがテーマですね。例えば自分をきれいに見せるため、加工アプリでしか写真を撮りたくないという人が増えたり、リアルなライフスタイルじゃなくて“映える”ために無理をして心が壊れてしまったり、そういう話を身近に聞くことが増えてきた気がしていて。
──「横目で見るのは 綺麗なあの人のリング 息を吐くほどに 惨めになるのはどうして」というラインでは、まさにそのことを歌っていますね。
松尾 もちろん、本人が楽しんでいることならそれを否定するつもりはまったくないんです。ただ、自分で作り上げた“フェイク”という魔法から目覚めるためには、着飾っているドレスを脱ぐだけではまた着てしまうから、いっそ切り裂いてしまおうというメッセージを込めました。
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誰かの生きる力になっていることを実感できた