音楽ナタリー Power Push - THE BACK HORN
核を見直し、新境地を開いた「運命開花」
受け取った側にどれだけ作用できるか考える
──今回歌詞について何かテーマは設定したんでしょうか?
菅波 全体ではないですね。自分の書いた歌詞に関しては「悪人」を軸にして、そこから離れすぎない感じで書いていきました。THE BACK HORNらしさっていうテーマに向かっていく際に、イノセントなものが垣間見えるような、その周りの感覚を書こうと。表裏一体となった人間らしさというか。イノセントゆえの危うさに転がったのが「悪人」で、イノセントゆえの優しさに転がったのが「君を守る」みたいな、そういう世界観。表裏一体の弱さと優しさとか、人間の迷いとかふらつきとか。そういうものを描いていこうと思ったんです。それを物語として聴けるような形に1曲1曲を落とし込みたい。「悪人」「シュプレヒコールの片隅で」「君を守る」は詞先で作って、そうして物語性を出すようにしました。
──そこに描かれているイメージの原点は、あくまでも菅波栄純の感覚ということですね。
菅波 そうすね。グッとくるとか、ちくっと胸が痛くなるとか。自分が感じる痛みなり悲しみなり喜びなり救いなり、主観的に歌詞を書くことがTHE BACK HORNらしさにつながることを信じて、今回も書きました。
──THE BACK HORNの菅波栄純と、THE BACK HORNを離れた菅波栄純は、どれぐらい重なるんですか。
菅波 どれぐらい重なるんでしょうね。自分ではあまり区別してなくて。それが自分のすべてかもしれないし、違うかもしれないし。そこを分離させて歌詞を書いてないから。
──自分が歌わないことは、そこに関係してきますか? つまり菅波さんが書いても歌うのは山田さんで、でも山田さんは100%その世界を自分のものとして引き受ける。でも菅波さんは歌詞は書くけど自分で歌うわけではないし、山田さんが歌うことを前提に書いている。
菅波 うーん……自分としてはわからないですね。ただ作家としての突き詰め方っていうのは大事にしてます。作家として、これで完成だと思うところまでとことん突き詰める。それは誰が歌おうが、徹底してやると思う。「悪人」のインタビューのとき(参照:THE BACK HORN「悪人 / その先へ」特集)、これで完成だと思えるハードルが昔に比べて上がってるって話をしたじゃないですか。そのハードルが、たぶん自分で満足するだけじゃ納得できなくなるところまで上がっていて。受け取った側にどれだけ作用できるか、ということにもこだわるようになってきた。
聴く人に元気になってもらいたい
──初期の頃に比べると表現の方法もテーマの扱い方も語り口も語彙も豊かになって、言葉の使い方も変わってクオリティが上がってる印象です。それを歌いこなしていく山田さんの表現力も格段に向上している。つまり作品として無駄がなく完成度が高い。聴きやすいアルバムという印象を受けたのは、そういう理由もあるかもしれない。
菅波 それはうれしいなあ。自分たちとしては、音の印象もそうなんですけど、シンプルに聞こえて、聴きやすいんだけど、テーマとして掘り下げればディープなものがあるような、そういう作品を目指しました。なのでそういう評価はありがたいです。
──THE BACK HORNのよさって、これは聴き流すのではなく真正面から対峙して気合いを入れて聴かなきゃと思わせてくれるところだと思うんですよ。そういう力がある。でも反面、聴くのに決心が必要というか、あまりに重くて密度が濃いから、軽い気持ちで聴けない。でも今回は、本来のTHE BACK HORNのよさがありながら、ずいぶんすっきりとして聴きやすいし、ファン層が広がる気がします。
松田 そうなったらありがたいですね。
──松田さんは今回2曲歌詞を書かれてますね。
松田 はい。最初に言ってた「自分たちにしかできない表現」を目指して何曲か書いてみたんです。今までその時期ごとに、自分の気持ちを率直に投影した歌詞を書いてきて、そのつど聴いてくれた人に「背中を押されました」とか、「元気が出ました」って言ってもらって、自分が作った音楽が力になってるんだなって実感してたんです。今回、そういう曲をもう1回書こうと思いました。それが自分のできる、THE BACK HORNにしかできないことじゃないかと。でもそれがなんなのか、テーマも含めてすごく悩みましたけど。今までは自分が書いたものが結果的にみんなの力になっていたけど、いざそういうものを意識して書こうとしてもなかなか見つからない。
──わかります。
松田 音楽って、必要ない人には必要ないものじゃないですか。でも必要な人にとっては、本当になくてはならないもので。それによって自分自身が救われるしパワーにもなる。でも今回、「生きていく」ってことをそんなにがむしゃらに考えていない人にも、音楽が届いてくれればいいと思ったんです。そういう人たちにも気付いてもらえるものって考えて作ったのが「コンクリートに咲いた花」の歌詞ができて。
──優しくて力強い。希望の歌ですね。
松田 そうすね。それしか書けないというか、書きたいんだなって。
──松田さんは昔からこういうロマンティックな歌詞を書きますよね。
松田 そうですねえ(笑)。そうじゃない部分は、ほかのメンバーの歌詞の中で昇華してもらってるっつーか。そういう歌詞に触発されることはあるけど、自分で書こうとは思わない。それよりは、聴く人に元気になってもらいたいなと。今までは自分が歌詞を書いたものは将司が曲を書くことがほとんどだったんですけど、今回はちょっと変わって「コンクリートに咲いた花」が栄純で、「記憶列車」が光舟。そういうバンド内の変化も作品に出ていると思います。
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- ニューアルバム「運命開花」/ 2015年11月25日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3564円 / VIZL-903
- 通常盤 [CD] / 2916円 / VICL-64440
CD収録曲
- 暗闇でダンスを
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - ダストデビル
[作詞・作曲:山田将司 / 編曲:THE BACK HORN] - その先へ
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - tonight
[作詞・作曲:山田将司 / 編曲:THE BACK HORN] - コンクリートに咲いた花
[作詞:松田晋二 / 作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 記憶列車
[作詞:松田晋二 / 作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN] - 胡散
[作詞・作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN] - 魂のアリバイ
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 悪人
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - シュプレヒコールの片隅で
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 君を守る
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - カナリア
[作詞:山田将司 / 作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN]
初回限定盤DVD収録内容
- 「運命開花」レコーディングドキュメンタリー
- 「悪人」「その先へ」ミュージックビデオ
THE BACK HORN(バックホーン)
1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2012年3月に20枚目となるシングル「シリウス」を、同年6月に9作目のオリジナルアルバム「リヴスコール」を発表。9月より2度目の東京・日本武道館単独公演を含む全国ツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIツアー』~リヴスコール~」を開催し、成功を収める。2013年9月にB面集「B-SIDE THE BACK HORN」、2014年4月に通算10枚目のアルバム「暁のファンファーレ」をリリース。11月には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 ?THE BACK HORN Film-」が全国公開される。2015年9月にシングル「悪人 / その先へ」を、11月に11作目となるアルバム「運命開花」を発表した。