音楽ナタリー Power Push - THE BACK HORN
核を見直し、新境地を開いた「運命開花」
緻密さも追求した
──今回アルバムのために用意したのは何曲ぐらいですか?
松田 だいたい20曲ぐらいですかね。
菅波 3人とも完成度の高いデモを作ってくるんですけど、それだけで判断するのはTHE BACK HORNらしくない。お互いの作ったデモを送り合って聴いて、スタジオに集まってみんなで1回鳴らしてみて、実際に演奏して得た感覚をデモにフィードバックして、ギターのアレンジやリズムをもう少し突っ込んで変えてみる。それをまた全員で聴いてまたスタジオに入って……という繰り返し。そういう作業をほぼ全曲でやるわけです。
──フィジカルで作り上げたグルーヴと、頭で緻密に作り上げていった音の両方が……。
菅波 ありますね。今回は特にあったかもしれない。自分が旗振り役になったときにそういう合わせ技でいこうっていうのは提案させてもらって。両方のいいところを取りたかったんですね。スタジオで大音量で演奏しながら感覚的に感じる部分と、クリアな音で冷静かつ客観的に聴いたときの感想を混ぜて、曲のクオリティを上げたかった。
──確かにスタジオで「せーの」で音を出しているだけじゃ絶対に作れない音になっていると思いました。THE BACK HORNって気合い一発の勢いと熱量だけでやってるようなイメージもあるけど、全然そうじゃない。もっと緻密な計算と作業がある。特に今回はそれを感じました。
松田 うん、そうですね。
菅波 それはうれしいなあ。
自分がベースを始めたときのきっかけに戻った
──岡峰さんは今回の作業でどんなことを考えてました?
岡峰 自分のベースってどういうふうにTHE BACK HORNに作用してたんだろうって、そういうことを考えてました。
──単に自分が弾きたいように弾くだけじゃなくて……。
岡峰 何が今まで評価されていたのか、THE BACK HORNの曲にどう作用していたのか……そう考えたら壁にぶち当たって。考えていく中で、セッション的にプレイしてその場でとっさにひらめいたようなフレーズのほうが、インパクトがあったり、リスナーの耳についたりするんじゃないかと気付いたり。じゃあ今回のミッションを果たすにあたり、自分のプレイをどう生かしていくか。そういう自己分析ができたのが収穫でした。
──今回はどんなプレイになりましたか?
岡峰 なんか……立ち返っちゃったんですよね、1周して。THE BACK HORNの中でどういうベースを弾いてるときが楽しかったり、バンドにハマったりしてたのかなって考えたら、自分がベースを始めたきっかけを思い出して。
──それはなんだったんですか?
岡峰 ベースの華やかなプレイに魅せられたことですね。高校生のときは派手で華やかなものが好きだったし、実際自分のベースのスタイルはそこからも生まれた。
──今回そういうプレイに立ち返ったと。
岡峰 はい。それが作用して今回のアルバムの一部を形成したと思う。
──菅波さん、しきりに頷いてますが。
菅波 いや、そんなに葛藤して原点に立ち返っていたというのは全然知らなかったですけど(笑)。自分は、光舟が感情をほとばしらせるようにウオーっと弾いてるところがすごく好きなんですけど、今回はそういうところもありつつ、かなりコード感を意識してフレーズを作ってるなとも感じてました。それがアルバムのいい雰囲気につながってると思うんですよ。
岡峰の貢献度
──コード感を意識したベースにはどんな効果があるんでしょうか?
岡峰 楽器の専門誌の取材みたいになってきたな。
菅波 (笑)。コード感ってけっこう大事で。ベースの低音がその曲のコード進行をどう表現してるか。シンプルに表現してるのか、彩るようにメロディアスに表現してるのか、それはどんな場面でどんな歌があるのか。いろんな要素をつないでいくのがベースなんですよ。ドラムのリズムと歌のたたずまいとギターをつなぐもの。オレがギターをコードでジャーンと弾くと、コードは和音だから何個も音が重なってるじゃないですか。何個も重なってる中でどの音を強調するかっていうのが、ベースの担っている役割だったりして。その強調の具合によって、明るく聞こえたり、力強く聞こえたり、儚く聴かせることもできる。それって全部ベースができることで。そういうある種の王道のベースの役割ってものに光舟は今回向き合ってくれた。それに加えて、彼がもともと好きだった原点にも向き合った。その両方が合わさったんだと思う。
──岡峰さんのプレイで、楽曲そのものにカラフルで華やかな面が出てきた。
菅波 そう。それに加えて、さっき小野島さんが言っていた優しい面。そういう歌の聞こえ方とか曲全体の雰囲気とか感じ方には、ベースがかなり貢献していると思います。
──じゃあ私が感じたアルバムの印象は、岡峰さんのプレイがもたらしたもの?
岡峰 いやいやいや(笑)。
菅波 要素の1つではありますね。岡峰のベースが多彩になると、ギターをどんどんシンプルにしていけるんです。ギターを何本も何本も重ねなくても、コード感が十分あれば、ギターの本数を減らしていける。本数を減らしていけば音はクリアになって、近くなってくる。
岡峰 ライブでも再現性が高くなってくる。
──なるほど。いいことづくめだと。
菅波 そうなんですよ。なので今回光舟の果たした役割は大きいです。
──腑に落ちる話でした。松田さんいかがですか?
松田 各自がデモテープでドラムを打ち込みで作ってきて、それを実際に生ドラムで叩いてみて、その感覚をまたフィードバックして……という作業は「リヴスコール」あたりから本格的に始まって、今回のアルバムで1つ決着したところはあるかな。
──ほかのメンバーが作ったデモテープ通りに叩けるものなんですか?
松田 いや叩けないです(笑)。でも、できないものに対して自分なりにアプローチして、カッコいいプレイに仕上げるところに自分のやりがいを感じたりもするんです。テクニカルじゃないところでも、こういう独自なフレーズで、キャッチーなパターンが作れるぜみたいな。音数が少ないところでドラムの存在感を出すのは得意でもあったので、楽しい作業ではありました。
──自分なりに突き詰めることができた。
松田 そうですね。フィジカルなバンドのノリとか生々しさみたいなところと、音色と、楽曲を作り込んできた緻密感みたいなものが、打ち込みじゃないところでうまくバランスを取れたというか。
菅波 うんうん。
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- ニューアルバム「運命開花」/ 2015年11月25日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3564円 / VIZL-903
- 通常盤 [CD] / 2916円 / VICL-64440
CD収録曲
- 暗闇でダンスを
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - ダストデビル
[作詞・作曲:山田将司 / 編曲:THE BACK HORN] - その先へ
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - tonight
[作詞・作曲:山田将司 / 編曲:THE BACK HORN] - コンクリートに咲いた花
[作詞:松田晋二 / 作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 記憶列車
[作詞:松田晋二 / 作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN] - 胡散
[作詞・作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN] - 魂のアリバイ
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 悪人
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - シュプレヒコールの片隅で
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - 君を守る
[作詞・作曲:菅波栄純 / 編曲:THE BACK HORN] - カナリア
[作詞:山田将司 / 作曲:岡峰光舟 / 編曲:THE BACK HORN]
初回限定盤DVD収録内容
- 「運命開花」レコーディングドキュメンタリー
- 「悪人」「その先へ」ミュージックビデオ
THE BACK HORN(バックホーン)
1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2012年3月に20枚目となるシングル「シリウス」を、同年6月に9作目のオリジナルアルバム「リヴスコール」を発表。9月より2度目の東京・日本武道館単独公演を含む全国ツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIツアー』~リヴスコール~」を開催し、成功を収める。2013年9月にB面集「B-SIDE THE BACK HORN」、2014年4月に通算10枚目のアルバム「暁のファンファーレ」をリリース。11月には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 ?THE BACK HORN Film-」が全国公開される。2015年9月にシングル「悪人 / その先へ」を、11月に11作目となるアルバム「運命開花」を発表した。