THA BLUE HERB「THA BLUE HERB」 PR

THA BLUE HERBインタビュー|俺らが20年間やってきたことなんてもう昔の話、このアルバムでやっとTHA BLUE HERBが完成したんだ

しっかり考えた1小節を20年残したい

──今回のセルフタイトルアルバムはDISC 1の1曲目からDISC 2の15曲目まで、さまざまなストーリーが語られた作品ですね。

BOSS とにかく2人でひたすら作って、曲順は最後に決めたんだよね。俺らなりの起承転結で2枚組のアルバムにまとめていく。そこは一晩のプレイで長いストーリーを語るDJ的な感覚だし、もっと言えばライブのセットリストを作るような感覚だった。DISC 1の頭からDISC 2の最後までスムーズに聴いてもらえたらってことを1番に考えた。1曲1曲に意味があるから、それぞれ感じることがあったとしても、通して聴いたら「あっと言う間に終わった」って思えるような。だから今回は「この世の中のリアルを30曲にわたって叩きつけて、リスナーを奈落のそこに突き落としたい」みたいな感覚はまったくない。俺ら的には収録時間は長いけど体感時間はそこまで長くはないって感覚。

O.N.O

O.N.O ひたすら作ってはいたけど、はなから「2枚組のアルバムを作ろう」と思ってやってたから、全体のバランスは本当に考えて作ったね。

──そんな中、アルバムの最初で語られるのは現状のヒップホップシーンについてです。

BOSS 最初に言っとくけど、俺は別に怒ってるとかないよ。ただ、何も発言しないとYesってことになってしまうから。それはヒップホップに限らず、世の中のあらゆることを含めてね。今の日本のヒップホップは、フリースタイルバトルも含めて「インスタントにどれだけできるか」ということに価値が置かれてるように思う。でも俺はしっかり考えた1小節を10年でも20年でも残したい。そういうやり方で、自分の考えるヒップホップを表現したいだけ。

──DISC 1前半の「WE WANT IT TO BE REAL」「介錯」「AGED BEEF」「A TRIBE CALLED RAPPER」を最初聴いたときは、THA BLUE HERBが1999年に札幌から東京へ宣戦布告したようなモードになったのかと思って、びっくりしました。

BOSS “ヒップホップ=東京”という1999年の状況は自分にとってすごく違和感があったし、ストレスも感じていたからね。でも今は当時と全然違う。日本中に面白いラッパー、アーティストがいっぱいる。そこは本当に認めてるし、何より俺自身が楽しんでる。けど同時に、抽選で決まったなんの恨みもない対戦相手に「殺す」「死ね」と言っているラッパーや、それを観て盛り上がっているお客さんに違和感を抱いてる部分もある。もちろんそれもヒップホップなんだけど、あくまで一部でしかない。その自分の中にある違和感をどうやって自分のやり方で表現するかって言えば、曲しかない。だから、DISC 1の前半のリリックがまず最初に言っておきたいことだったんだ。

──THA BLUE HERBが登場したときは本当にすごかったですからね。僕は当時は日本のヒップホップシーンを全然知らなかったけど、その僕ですら「札幌のTHA BLUE HERBというグループが東京に物申したらしい」ということは届いてましたから。

BOSS だから俺はバトルのMCたちの気持ちもめちゃめちゃ理解はできるんだ。そこに出ていって、思ってもない言葉を吐かなければ上がっていけないほどのどうにもならない状況っていうかさ。1999年の頃は俺自身がそう思ってたからね。そこにいる誰かを倒して自分が上がることがヒップホップだと思ってた。でもキャリアを重ねることで、ヒップホップにはもっと違う側面があるってことがわかってきた。たぶん俺が「殺す」「死ね」だけしか言ってなかったら、今ここにいないよ。でもさ、それを俺が20歳も下のラッパーたちに懇々と説いたところで絶対にわからない、もし俺が逆の立場だったら絶対わからなかったと思うから。だから曲に残そうと思った。

──この4曲ではラッパーの言葉の重みについて言及していますね。「吐いた言葉は自分に返ってくる」というラインはかなり重かったです。

BOSS 俺は自分が吐いた言葉の呪いを解くのに、20年とかかかってるからね。むしろまだ呪いを清算する過程にいると思う。今思えば若き日の軽はずみな発言だけど、それですらこんなにも時間がかかる。フリースタイルブームでいろんな呪いの言葉が蔓延してるから、お客さんも免疫ができちゃってるのかもしれないけど、少なくとも俺が生きてる世界では「殺す」「死ね」と言えばすべてが終わるんだよ。

物事の多面的な側面を純粋に表現してみたかった

──次のトピックは“日本”です。

BOSS 「THERE'S NO PLACE LIKE JAPAN TODAY」「REQUIEM」「GETAWAY」の3曲のことだよね。2枚組じゃなかったから、この3曲はおそらく1曲になってたと思う。曲数が多いからこそ、テーマを細かく分けて掘り下げることができた。

──それは、先ほどのヒップホップの話題しかりですが、今回のアルバムの特徴ですよね。

ILL-BOSSTINO

BOSS うん。「THERE'S NO PLACE LIKE JAPAN TODAY」だけを聴くと、反権力の人だと思うかもしれないし、続く「REQUIEM」を聴くと右寄りなのかなって思う人もいるかもしれない。そういう2曲を並べることで、全然違う視点が生まれる。俯瞰して見えてくるものがあるというか。さっきのヒップホップの話も同様で、違うと思う曲を書いた一方で若いラッパーを認める気持ちも隠さず書いたんだよ。そうすることで、自分の中の相反する気持ちを表現したかった。人間の気持ちって、いろんな側面があって、簡単に言い表せるものじゃないと思うから。

──当初、アルバムが2枚組になるというアナウンスを知ったとき、「曲単位で音楽をどんどん消費していくサブスクリプションに対するアンチなのかな?」と思ったんです。でも全然そんなことないんですね。

BOSS 全然そんなんじゃない。結局さ、物事の一側面だけを捉えてズバッと切ってしまうのは簡単なんだよ。でもさ、世の中や心の内側はそんなに安易じゃない。だから今回のアルバムでは、その安易に言えないことをどう言うか、そこについて自分なりにすごく考えた。例えば政治的スタンスのことで言えば、右って考え方があるから左って考え方もあるわけで。逆もしかり。俺自身も右とか左とかいう考えで簡単に決め付けられたくない。自分の気持ちもそれと同じで、言い表すのって難しいよね、変わったりもするわけだし。今回は物事の多面的な側面を純粋にそのまま表現してみたかったんだと思うよ。

──アルバムのストーリー上ではストレスフルな現代社会からの脱出について歌った「GETAWAY」からの流れで、「HIGHER ON THE STONE」で旅や息抜きについて歌ってます。

BOSS 息抜きというか、自由だね。旅って自由の象徴みたいなところがある。俺は常に自由でいたい。それを追求した結果、ラッパーになったんだ。ずっと自主制作なのも同じ理由だね。自由にやりたい。

──BOSSさんにとって旅の魅力はなんですか? 多様な価値観に触れられるとか?

BOSS いろんな価値観に触れるのは日本でもできるから、それが旅の魅力ではないな。例えばタイに行って、自分の全然知らない世界で1人ポツンと座って、現地の人たちの暮らしを見てると、いろんなことを想像するんだよね。言葉が通じないから「この人は今何を考えてるんだろう」「あの人とこの人は今どういう状態なんだろう」みたいに。俺はそうやって想像するのが好きなんだと思う。想像力って大事だよ。俺、子供いないけど「HEARTBREAK TRAIN(PAPA'S BUMP)」「UP THAT HILL(MAMA'S RUN)」みたいな曲を書けたのは想像力の賜物だからね。「あの夫婦はどんなこと話してるのかな?」「どれくらい付き合って結婚したのかな?」って勝手に想像してる。もちろんいろんな人の話を聞いたり、本を読んだり映画を観たりするけど、根本は想像力。俺は旅に行って、海外で想像力を養ってるのかもしれない。