THA BLUE HERBインタビュー|俺らが20年間やってきたことなんてもう昔の話、このアルバムでやっとTHA BLUE HERBが完成したんだ

わずか数秒のスクラッチで文脈を生むことができる

──今回のアルバムで一番驚いたのは、それこそ一時期ビーフで話題になったラッパーの言葉をスクラッチしたことです。

BOSS あのリリックはずっと知ってたし、いろんな人からあれは俺のことだと言われたし、俺自身も勝手にそう思ってた。彼は、東京から札幌にヒップホップ的なエールを送ってくれていたんだ。でも当時の俺はそれを素直に受け止めることができなかった。でもこの20年のキャリアの中で、つい最近だけど彼と直接話す機会もあってさ。今となっては同世代でまだがんばってる人なんてほとんどいない。そうなってくると、こっちとしては彼に対して親しみ湧きまくりって感じだよ。

O.N.O 俺もあのラインは印象的だったね。

BOSS あの曲って1996年の曲じゃん。それを2019年の曲でスクラッチでよみがえらせてる。こういうのってすごいヒップホップだと思うんだ。しかも昔からヒップホップに携わってくれてる人なら、俺らと彼らにどんな歴史があったか知ってる。そういうのも面白いじゃん。わずか数秒のスクラッチでそんな効果や文脈を生むことができるんだ。ヒップホップならではの面白さだよね。

──ヒップホップ文化の根幹であるリスペクトがこのアルバムには息づいていて、その部分は本当に感動しました。

BOSS 最初から順に聴いていくと、DISC 2の2曲目でこういうドラマと遭遇することができる。それこそが俺らのキャリアそのものなわけで。最初にディスもあり、やがてリスペクトもある。そういうヒップホップのさまざまな側面を表現したかったんだ。

やっとTHA BLUE HERBが完成した

──一方で、今回はこれまでのTBHでは考えられないような家庭の話もしています。

BOSS そうだね。でも「HEARTBREAK TRAIN(PAPA'S BUMP)」「UP THAT HILL(MAMA'S RUN)」はありふれた話だと思うんだ。でもそこに焦点を当てて、さらにドラマチックにできるのもヒップホップならではの表現だと思ってて。こういうのも2枚組だからできたこと。1枚のアルバムだったら、間違いなく1曲になってた。ヴァース1が旦那の話で、ヴァース2が母親の話、みたいな。

O.N.O 俺でも聴いてて気付きがあるくらいだからね。今回のアルバムは日常の話が多いけど、でもその1つずつが全部ヒップホップに結びついてる。それが俺らの考え方なんだよね。

BOSS アメリカのヒップホップ的価値観が自分にしっくりこないことはけっこう早くから気付いてた。そういう日本の身の回りのありふれた何気ないトピックを1曲で成立させるためには、たくさんのエピソードと例えが必要になってくるのね。だから新聞を読んだり、ネットで見たり、身近な友達を含むいろんな人と話したこと、それぞれがリリックを作るうえでのパーツになった。

──DISC 2の中盤あたりからは、もうラストに向けて畳みかけるような感じですね。中でも「スーパーヒーロー」がすごく気になりました。TBHは1stアルバムをハードコアパンクバンド・SLANGのレーベルから出してますよね?

BOSS そう、昔KOちゃんから声をかけてくれたんだよ。札幌ってちっちゃい街だからさ。普通に飲んでても、ジャンルごとに固まるって概念がないんだよ。いろんな人がいっぱいいて混ざりまくってる中で遊んでる。KOちゃんは俺からすれば昔からスーパーヒーローで、大先輩なんだよね。札幌で一緒にいた中で最初にレーベルをやってた人だから。俺らが最初にアナログを作ったときに、それを持っていった何人かのうちの1人だし。それでアルバムを出そうって声をかけてくれたんだよ。

──DISC 2の13曲目「今日無事」はどんな気持ちでリリックを書いたんですか?

BOSS 楽しんで作ったとは言っても、俺らすごい苦労したんだよね。だって通常アルバム1枚作る期間で、2枚分作ったわけだから。その徒労感と達成感が出たんだと思うよ。

──TBHは今年4月に“PHASE 5”(活動第5期)に突入したわけですが、今はどんな心境なんですか?

BOSS このアルバムを作ってやっとTHA BLUE HERBが完成したという感じ。セルフタイトルにしたのもそういう理由なんだよね。俺たちはこの「THA BLUE HERB」でヒップホップに再エントリーするんだ。このアルバムを持って全国に挨拶しにいくよ。巷ではヒップホップがとても流行ってるらしいけど、俺らTHA BLUE HERBとしては前作をリリースしてから7年経ってる。その間にヒップホップに入ってきた人もいっぱいいるじゃん。俺らが20年間やってきたことなんてもう昔の話だし、そんなもんは2年前の野音で全部ケリつけた。「THA BLUE HERBから影響を受けた」って言ってくれる若い人たちもいるけど、俺らは進行形の今が常にベストだからさ。俺たちは今回、2019年のベストを表現して、こんだけやりゃ十分だろってくらいやった。これを聴けばTHA BLUE HERBがわかる。これからだよ重要なのは。これで挨拶カマして、最後尾からまくってやるよ。

THA BLUE HERB

公演情報

THA BLUE HERB「5th ALBUM『THA BLUE HERB』RELEASE TOUR」
  • 2019年8月17日(土)北海道 石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO」
  • 2019年8月23日(金)東京都 CLASSIX
  • 2019年8月24日(土)東京都 中野heavy sick ZERO
  • 2019年8月26日(月)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2019年8月27日(火)京都府 KYOTO MUSE
  • 2019年8月29日(木)広島県 CLUB QUATTRO
  • 2019年8月31日(土)福岡県 DRUM Be-1
  • 2019年9月1日(日)沖縄県 Output
  • 2019年9月3日(火)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2019年9月4日(水)石川県 Kanazawa AZ
  • 2019年9月6日(金)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2019年9月7日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2019年9月10日(火)東京都 LIQUIDROOM
  • 2019年9月13日(金)福島県 LIVE STAGE PEAK ACTION
  • 2019年9月14日(土)茨城県 CLUB MURZ
  • 2019年9月18日(水)宮城県 enn 2nd
  • 2019年9月20日(金)山形県 Sandinista
  • 2019年9月22日(日)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya 2/3(VJ-4)
  • 2019年9月23日(月)茨城県 OctBaSS
  • 2019年9月29日(日)神奈川県 OPPA-LA
  • 2019年10月2日(水)北海道 札幌 KRAPS HALL
  • 2019年10月4日(金)北海道 北見 UNDERSTAND