アメリカ・ニューヨーク、そして世界を代表するレジェンドラッパーNasが来日。9月18日に大阪・Zepp Namba(OSAKA)、20日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで単独公演を行い、21日に東京・有明アリーナで開催される「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024」に出演する。
1990年代初頭から現在まで数多くのクラシックを生み、ヒップホップシーン最高のリリシストの1人として君臨してきた“キング・オブ・MC”ことNas。彼が1994年に発表したデビューアルバム「Illmatic」は、現在でも史上最高のヒップホップアルバムの1つと評されており、ヒップホップヘッズなら誰もが知る作品だ。言うまでもなく日本のラッパーにも多大な影響を与えている。
音楽ナタリーではNasの来日と名盤「Illmatic」の30周年を記念したコメント&プレイリスト企画を展開。ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)、漢 a.k.a. GAMI、5lack、Daichi Yamamoto、Novel Coreという世代を超えた国内の人気ラッパーに加えて、テレビ業界きってのヒップホップ通として知られる藤井健太郎氏に好きな曲を選んでもらい、Nasがどんなラッパーかを語ってもらった。
※寄稿者を50音順に掲載
構成 / 三浦良純
ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)
Nasについて
正直、全作品を聴いてはいません。それでも語る事が許されるのなら、あくまで私見ですが、憚りながら。人生のある時期に大きな影響を受けました。ヒップホップにおいてのストリートワイズとはラフでタフである事こそが基本とされるが、特にラッパーの場合、そこに常に知性が裏打ちされていなくてはならない、と。ラフでタフな内容をラップしてはいるが、声色に怒気は感じない。知性こそが怒りを抑制し、内省を促し、自信を与え、その人を支えているのが解る。が故の説得力がある。知性こそが経験の全てを語彙に変え、それらを星々の規律のように完璧なライミングとして機能させている。この世のあらゆる抑圧がもたらす不条理、不平等、不正義から身を守るための術、それを教えるクイーンズブリッジ社会学、同言語学、および同犯罪心理学の祖。
選曲について
ダンサーだった俺にとってヒップホップってのはリズムや仕草、つまりただのノリだった。確かにノリが全てな場面もある。でもノリ切った後、たまにそこに虚無を感じてた。1994年、タワーに新譜のCDが並んでて、そこにこのアルバム「Illmatic」があった。どのレビューもビートメイカーの豪華さを謳ってた。何年か後、何気にリリックの対訳を読んじまって以来、その虚無はもうない。俺より2歳若く、書かれたのは10代だったらしい。その達観ぶりは只々驚愕だった。舞台はQB。対岸のマンハッタンの夜景も見え方が変わってくる。歌われているのはキロメートルならとても狭い範囲なんだと思う。だが感覚を研ぎ澄ましてさえいればどこに居ようとも見逃すべき場面や教訓など人生にはない、そう説いてくるような濃密なエピソードで満ちている。それは聴き手にも痛みを強いる過酷な生い立ちや日常ではある。生まれ育ちなんて俺とは違い過ぎる。だけどずっと昔の文学的偉人とは違い、同時代性が繋げてくれる。ヒップホップの名のもとに。今回また久々に聴いたけど、何なら今のこの国の困難な時代の方がしっくり来る。リズムや仕草、つまりただのノリ、例の虚無、今は色んな所でリリックの対訳も読めるし、解説してる人も多いからいいですね。ノリ、もちろん最高ですよ。ビート、最高です。そして言葉がもう最高なんです。
プロフィール
ILL-BOSSTINO(イルボスティーノ)
1997年に北海道・札幌でTHA BLUE HERBを結成。1998年に1stアルバム「STILLING, STILL DREAMING」、2002年に2ndアルバム「SELL OUR SOUL」をリリースし、アンダーグラウンドなヒップホップシーンで支持を集める。グループとしての最新作は2019年発表の5thアルバム「THA BLUE HERB」。2015年10月にtha BOSS名義で1stソロアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP」を発表し、2023年4月に2ndソロアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP II」をリリースした。
漢 a.k.a. GAMI
Nasについて
彼のリリックには深い知識と鋭い観察力が詰まっていてる。
特に「Illmatic」は、ヒップホップが単なる音楽の枠を超え、詩や物語としての価値を持つことを証明したアルバムだった。Nasを初めて聴いたとき、そのリアルさと繊細さに衝撃を受けた。
選曲について
「N.Y. State of Mind」
「Illmatic」の象徴的なトラック。ニューヨークのリアルを切り取ったようなリリックと、DJ Premierのぶっといビートが絶妙にマッチしている。当時は自分の生活や体験と重ねて聴くことで、さらなるインスピレーションを得られた。
「The World Is Yours」
この曲のメッセージは普遍的で、いかにもラッパーらしい我が物の視点で言葉を吐く力強さを持っている。Nasの力強いメッセージとジャジーなビートが心に響くhip hop。
「If I Ruled the World」
Lauryn Hillとの相性の良さ。Nasの独特な視点で未来に向け、夢を追いかける気持ちが表現されてて、この曲を聴くたびにモチベーションが上がる。
「One Mic」
シンプルなビートに乗せる強力なリリックと曲が進むにつれて、ビートが増し、テンションが上がる。曲の構成も相まってストーリー性が味わえる。
「Nas Is Like」
鋭いリリックと力強いビートが重なり合い、皆の首をフラした。Nasらしいスタイルを象徴した曲。
特に印象的なリリック
「Life's a bitch and then you die, that's why we get high.」
このリリックは、人生の厳しさ、それに対する自分のスタンスを明確にしている。
俺もリリック書く時にはリアリティを込めることを常に意識している。
プロフィール
漢 a.k.a. GAMI(カンエーケーエーガミ)
1978年6月7日生まれ、新潟生まれ新宿育ちのヒップホップMC。2000年よりMS CRUのリーダーとして活動し、2002年に1st EP「帝都崩壊」でデビューした。MCバトル大会「ULTIMATE MC BATTLE」の立ち上げに携わるなど、シーンの重要人物として活躍し、2005年に1stソロアルバム「導~みちしるべ」を発表する。2014年にはヒップホップレーベル・鎖GROUPのオフィス兼スタジオ、そして飲食店「9SARI CAFE & BAR」を西早稲田でスタート。近年は料理番組「漢 Kitchen」でも人気を集めている。
5lack
Nasについて
出会いは自分がラップを始める前、小学生の時にスペースシャワーTVで流れてた「Nas Is Like」のMVですね。
ナズは自分の中にあるヒップホップ、ラッパーたるイメージの揺るぎないそれであり、過去最高のラッパーの1人であると思います。
限りなく正解に近いヒップホップの成功例というか。
リリックは素晴らしい物だらけなのだろうけど、ナズは特にその時代に彼がしていたフロウに注目すべきだと思う。カッコイイラップとは、という定義や根本がわかりやすいかも。どの歴史的ラッパーも当たり前のフロウをしているのではなく、突然そのスタイルを所持して現れたナズの存在を想像してみるとニヤけますよね。
選曲について
こうして選出してみると、全然選びきれないほど好きな曲があるんだなと驚きます。ナズはグライムな楽曲がやはりしっくりはくるのですが、そうでないキャッチーな物も多数あって。しかし、少なめに絞るとやっぱこっち系が好きかなぁ。若者は改めてヒップホップとは何ぞやとなるんじゃないですかね、特に最近のラップたるものを見てると尚更。
プロフィール
5lack(スラック)
東京・板橋出身のラッパー / トラックメイカー。PSGやSick Teamの一員でもある。2024年6月にLEXをフィーチャーした楽曲を含む6曲入りの最新作「report」をリリースした。