ORANGE RANGEのHIROKIから出たアイデア
──そういったことも影響を与えているのか、今作は楽曲や歌の強さが前作とは別物になっていると感じました。何より、本当にバラエティに富んでいて、よくここまでまとめ上げたなと。
作り方としては、まずタイトルを決めて、その次に、ジャンルをどう配置するか、どんな楽器を使うか、アップテンポ、ミドル、バラードの比率はどうするか、みたいなことを全部スプレッドシートに書き出していきました。そして、ライブまで見据えてそれをパズルのように当てはめていく。曲のストックは山ほどあるので、「この要素が足りないな」と思えばそれを入れたり、「このテーマを今紹介したいな」と思えば、それを軸に新曲を書いたり。コラボに関しても、すべて自分のつながりでお声がけしています。
──ということは、「The Battle of the Monkey and the Crab」に参加しているORANGE RANGEのHIROKIさんは以前からつながりが?
HIROKIさんに関しては、シライシ紗トリ(ORANGE RANGEのプロデューサー)さんのつながりです。かなり昔、私が通っていた東京音大時代の作曲コースの子から「紗トリさんがゆう子ちゃんと話してみたいって言ってるよ」って連絡をもらったのをきっかけにお会いして、「音楽の方向性が面白い」と言ってくださったところから、「いつか一緒に曲作りできたらいいよね」という話になって。でも、和楽器バンドは8人組だし、急に外部作家を入れるのは私1人の判断では難しくて、「いつかできたらいいね」という感じで話は止まってたんですけど、プライベートではたまにプリプロをしたりしてたんです。で、今回はソロということで自由が利くので、「よかったらいかがですか?」と声をかけたら、「いいね、やろう!」とふたつ返事でOKをいただいて。
──曲は最初からHIROKIさんとやるつもりで書いたものだったんですか?
はい。私は男性ボーカリストと一緒に歌うなら紗トリさんの曲で、って以前から曲調まで決めていたんです。そのうえで誰にボーカルをお願いするかリストアップした中で、HIROKIさんは私の青春時代を彩ってくれた存在ですし、ラップもできる方がよかったので、最初に声をかけさせていただきました。
──和モノミクスチャーロックで驚きました。
ですよね(笑)。HIROKIさんから、「ゆう子さんとやるなら、『日本昔ばなし』みたいな物語をアップテンポにしたものが面白いかも」ってアイデアが出て。
──ああ、だから「さるかに合戦」がモチーフになっているんですね。そういうところにもORANGE RANGE的なエッセンスが入っていたとは。そして、ゆう子さんもそういったアイデアに対してウェルカムだったと。
コラボする意義はそういうところにあると思っているので、意見を出し合いながら作りました。
──ゆう子さんの強みはそこですよね。実はJ-POPが大好きだったり、視野がすごく広いし、懐も深い。そういったセンスが今作に大いに反映されているなと。
そういう部分に関しても、私は「ザ・日本人」なのかなって思います。昔から日本人ってミクスチャーが好きで、いろんな文化を取り込んで新しいものを作ったりするじゃないですか。そのうえでアイデンティティは見失わずに、しっかり存在感を出していくっていう。そういう姿勢は今回の作品作りにも影響しているかもしれません。
本当はMISIAさん、中島美嘉さん、DREAMS COME TRUEさんのような歌手に
──タイトル曲「SAMURAI DIVA」の作曲はなんと、1980年代から数々のアニメソングの名曲を手がけている田中公平さんによるものです。なんでも先方からアプローチがあったとか。
すごいことですよね。以前、SNSを通じてお声がけいただいて、先生は知り合ったときから「うたいびと」を大絶賛してくださっていて、お会いしたときにもその話をしてくれたんです。その後、田中先生のワンマンライブがあって、先生は毎回ボーカリストを1人立てて共演するんですが、そこで私を指名してくださって、先生のいろんな曲を歌わせていただいたんですね。そのライブを通じて、ボーカリストとしての私のことも好きになってくださったみたいで。「曲を書くのはそろそろいいかな」なんて話も聞いたことがあったんですけど、今回ダメ元で「こういう作品を作りたいんですが、お願いできますか?」と伺ったら、「もちろんですよ」とすぐにお返事をいただいて。もう、感激でした。
──今のお話にもありましたけど、僕も「うたいびと」はすごくいい曲だと思います。時代を問わない、普遍的な楽曲ですよね。
実は私、バラードが大好きで、バラードをしっかり歌える歌手に憧れてたんです。私が憧れていたJ-POPシーンの女性アーティスト……MISIAさん、中島美嘉さん、DREAMS COME TRUEさんはバラードを歌い上げる方々だったから、本当はそういう歌手になりたいと思っていて。
──この曲は、構成とアレンジはシンプルですけど、だからこそ曲のよさが際立つし、ゆう子さんのメロディメーカーとしての力量が伝わってきます。
これは自分がこれまで聴いてきた楽曲の影響がすごく出てると思います。私は跳躍があるメロディとかテンションコードが大好きで。クラシックで言えば、後期ロマン派──ドビュッシーとかラヴェル、ラフマニノフとか、ああいう作曲家たちの曲がすごく好きで、よく弾いてました。あとはディズニーも好きなので、アラン・メンケンが書くような曲のコード進行にもかなり影響を受けてますね。
テンポという概念のない詩吟と、現代的なビートを合わせる、私にしかできない挑戦
──その一方で、「SHIGIN BEATS -大楠公-」は挑戦的な楽曲です。無機質なEDMのビートと詩吟って、リズム面での相性が悪そうじゃないですか。曲として仕上げるのは難しかったんじゃないかと思うんですが、いかがですか?
これはもう、「私にしかできないから、やったろう!」みたいな気持ちでやりました(笑)。もともとはもっと詩吟を前面に出すことも考えたし、ギリギリまで悩んだんですけど、四つ打ちのビート感をメインにして、ボーカルは少し引き気味のミックスに仕上げたんです。そもそも、詩吟ってテンポの中で歌うという概念がないんですよ。
──そうですよね。
民謡と違って、詩吟は言葉がメインにあって。例えば、「ありがとう」という言葉の場合、民謡だとそれぞれの母音を引っ張りますけど、詩吟の場合は「ありがとう」という言葉をしっかり発音してから節を加えていくんです。それを現代のビートの感覚に合わせて、「ここからここの間でこの節を回そう」というふうに設計をして、4小節で気持ちよく収まるように落とし込んだりしています。
──この路線を突き詰めたら、海外のテクノ / ハウス系のDJが面白がりそうですね。
実は今回、海外の方とのコラボもすごくやりたかったんです。でも、それを実現するにはちょっと時間が足りなくて……。なので、今後やりたいことの1つですね。「SHIGIN BEATS -大楠公-」以外の曲もうまく海外に届いて、さまざまな方とコラボできたらうれしいなって、まさに思ってるところです。





