和楽器バンドの新作CD「Starlight」がリリースされた。
表題曲「Starlight」はフジテレビ系月9ドラマ「イチケイのカラス」の主題歌。先入観なしに楽曲を純粋に受け止めてほしいというメンバーの意向によって、ドラマの第3話まで和楽器バンドの名は明かさず“WGB”というユニット名がクレジットされていた。
「こんなご時世だからこそ、最後は希望を見せたかった」と今回のインタビューで語ってくれた町屋(G, Vo)。新型コロナウイルスの感染拡大により、未だ予断の許さない日々の中で、メンバーはどんな思いを届けたかったのか。鈴華ゆう子(Vo)、いぶくろ聖志(箏)、蜷川べに(津軽三味線)、そして収録曲の作詞作曲を担当する町屋の4人に、和楽器バンドの今と海外活動への意欲を語り合ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲 撮影 / 星野耕作
生きるエネルギーを得るための催し
──実は昨年10月、コロナ禍になって観に行った初の生ライブが、和楽器バンドの「Japan Tour 2020 TOKYO SINGING」の東京ガーデンシアター公演だったのですが、感染防止対策を本当に徹底していて感動しました。実際にライブをやってみてどのような手応えを感じましたか?
鈴華ゆう子(Vo) 8月に横浜アリーナでライブ(「和楽器バンド 真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ 2days 〜天球の架け橋〜」)を行ったときは、コロナ禍でも感染対策をきちんと徹底すればライブができるという前例が作れたらいいなと思っていたのですが、正直なところ不安もすごくありました。でも、公演が成功して1つ形を作れたことで、そのあとにライブをされる方も増えてきたのかなと思っています。しかも、当時よりもやり方が洗練されてきたように思いますね。私たちはこの1年間で、配信ライブと有観客ライブの両方をやってきましたが、配信ライブのほうはだいぶ増えてきて少し食傷気味になりつつあるのかなと感じていて(笑)。ただ映像を撮って流しているだけだと届かないし、観てもらえないと思うので、これからまたさまざまな試みをしていかなければなと。そういう新たな課題にも取り組んでいるところです。
──やはり有観客ライブの臨場感、説得力を配信ライブと比較するのは難しいですよね。
町屋(G, Vo) そう思います。もちろん、家で配信ライブを観られる気楽さなどいい部分もありますが、生の音を浴びる体験は会場でしか味わえない。ツアーなら例え同じセットリストで演奏したとしても、毎回変わっていくわけですし。そういう“生モノ”としてのライブの醍醐味を、この1年間で再確認できました。
──お客さんの熱気というものは、マスクをしていても伝わってくるものですか?
いぶくろ聖志(箏) 伝わりますね。今は声を出せない状況ではあるけど、ただ鑑賞するのではなく、自分たち自身も参加するために来ているという意志の強さや熱気のようなものは、ちゃんと伝わってくるものなのだなと。やっぱり有観客でのライブは、僕らとお客さん、お互いにとって“生きるエネルギー”を得るための催しであることを、お互いに確認できたんじゃないかなと思います。
ドラマに没入しすぎて「Starlight」に気付かず
──では、今回リリースされた4曲入りEP「Starlight」についてお聞きしていきます。表題曲「Starlight」は、フジテレビ系月9ドラマ「イチケイのカラス」の主題歌ですが、ドラマの世界観を作品にどう落とし込んでいきましたか?
町屋 とにかく台本を読み込んで、作品への理解度を深めつつ、できあがった楽曲のイメージと、ドラマの制作サイドの楽曲のイメージをすり合わせながらブラッシュアップしていきました。しかも、その調整にすごく時間を費やしたんですよ。10カ月くらいかけたのかな。普段だったらタイトな締め切りの中で妥協点を見出していかざるを得ないのだけど、今回はいろいろ試すことができましたね。
──それは、例えばどんなことですか?
町屋 歌詞をたくさん書き直しました。主題歌だとセリフのあるシーンで流れる場合もあるわけですから、そこで歌詞を詰め込みすぎて邪魔にならないよう言葉を間引いてみたり、英語バージョンを試してほしいというリクエストに応えたり、紆余曲折あって今の歌詞になっているんです。
鈴華 10パターンくらい作ったよね。その仮歌もすべて歌いました(笑)。そういう意味では最終バージョンの「Starlight」が完成するまでに、いろんな楽曲が生まれているんです。
──いつかそれも聴いてみたいです。三味線と箏は、どのようなアプローチをしていますか?
蜷川べに(津軽三味線) 今回はドラマの世界観を壊さないよう、あえて和楽器っぽいフレーズを入れないように気をつけました。
いぶくろ 箏を演奏しつつも全体的な取り組みとしてはアーバンな雰囲気というか。フレーズとして主張するというよりは、背景を充実させるようなアプローチを試みていますね。
町屋 実は和楽器の音も今まで通りたくさん入ってはいるんですよ。ただ、今までは和楽器のチューニングを440Hzではなく442Hzにすることで、ちょっと前に出すような工夫をしていたのですが、今回はすべての楽器を440Hzに合わせることで、和楽器をアンサンブルの中でなじませるということをやっているんです。
鈴華 初めてドラマを観たときは、物語の世界に入り込みすぎてしまって、自分たちの楽曲が流れたことに気付かなかったんですよ(笑)。そのくらいドラマの世界とマッチしていたということなので、こちらとしては狙い通りだなと。歌い方もいろいろと試したのですが、最終的に出だしの部分をちょっとささやくようにしたのは正解だったなと思いますね。
海外に向けた和楽器バンドの発信力
──2曲目の「生命のアリア」は、テレビアニメ「MARS RED」のオープニングテーマです。
町屋 「MARS RED」は物語の舞台が大正時代だったので、和楽器バンドの持つ和洋折衷の世界観ともぴったりでした。なので、みんなが想像しやすい和楽器バンドらしさを全開に出していこうと。そういう意味ではメンバー全員が自然に表現できたのかなと思います。例えば間奏部分を長めに取って、それぞれのソロの見せ場を作ったり、ギターと尺八でフーガをやったりと、僕らの得意な表現を盛り込んでいますね。歌詞も基本的にはアニメの世界観に寄せて、ちょっと古い言い回しをあえて使っています。
──日本のアニメと和楽器バンド、それぞれが持つグローバルな発信力に共通する部分はあると思いますか?
鈴華 例えばサブカルのイメージって、私たち日本人と海外の人では少し違っている気がしていて。日本人はサブカルの中にアニメやマンガ、ゲームを愛する、どちらかと言うとマイノリティによるオタクカルチャーであることを理解しているけど、海外の人からするともっと大きな、日本を象徴する文化の1つというふうにサブカルを捉えていると思うんですよね。きっと和楽器バンドも、そのジャパニーズカルチャーに位置付けられる存在として見られているように思うし、そういう意味でアニメとの相乗効果が海外ではより生まれやすいんじゃないかなと。
──なるほど。すごく興味深い考察です。
鈴華 海外における和楽器バンドの立ち位置は結成時の頃から考えていたし、それこそボーカロイドとのコラボ(2014年にボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリース)に関しても海外では日本を代表する文化の1つという受け止め方をされていたと思います。私たちの公式YouTubeに付いた海外からのコメントなどを読んでも、それはすごく強く感じますね。
──ちなみにこの曲のイントロは、箏と三味線の絡みが印象的ですよね。
いぶくろ まず町屋さんがデモの段階で大まかなアレンジを作ってくれていて、べにが三味線を入れたのを聴いて、どうやって絡むかを考えました。ある程度、僕の中で青写真を作っておいて、現場で微調整していった感じですね。
蜷川 そうだったっけ。もう覚えてないな……(笑)。これ録ったの、相当前なんですよ。
町屋 そう、実は一昨年なんです。
──そうだったんですね。この曲は「大新年会2021 日本武道館2days ~アマノイワト~」でも披露されましたが(参照:和楽器バンド、日本武道館で恒例の大新年会「私たちの思いが今の時代を切り開けるように」)、反響はどうでしたか?
鈴華 確かこの曲はライブ初披露で、パフォーマンス中の撮影をOKにしたんですよね。アニメの映像を流しながら演奏する予定だったんですが、映像がトラブってしまって(笑)。
蜷川 なんとか誤魔化せるかな……?と思ったけどダメだったね(笑)。
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“町屋”が“街屋”に改名?