町屋(和楽器バンド)×ツミキ×かいりきベアが語る、8年ぶりのボカロカバー集「ボカロ三昧2」の魅力

今年でデビュー8周年を迎えた和楽器バンドがニューアルバム「ボカロ三昧2」をリリースした。

2014年にボカロ曲のカバーを収録したアルバム「ボカロ三昧」でデビューを果たした和楽器バンド。メンバーの人数と同じ8周年というアニバーサリーイヤーにリリースされる本作には、ツミキ、みきとP、Kanaria、164、すりぃ、DECO*27、黒うさP、柊マグネタイト、Orangestar、かいりきベア、Chinozoといった人気クリエイターの楽曲を和楽器バンド流にアレンジした11曲が収録されている。

音楽ナタリーでは、和楽器バンドの楽曲アレンジおよびディレクションを担当する町屋(G, Vo)と、「ボカロ三昧2」の収録曲うち「ベノム」を手がけたかいりきベア、「フォニイ」を手がけたツミキを迎えてインタビューを実施。和楽器バンドは幅広い時代の人気ボカロ曲が並ぶ本作に、どのように新たな解釈を加えたのか。「アレンジ」をキーワードに、それぞれの観点からお互いの音楽の魅力や、「ボカロ三昧2」の魅力を語ってもらった。

取材・文 / 杉山仁撮影 / 森好弘

8年間で積み上げてきたものを「ボカロ三昧」で表現

──まずは町屋さんにお聞きしたいのですが、今回8年ぶりに「ボカロ三昧」を出そうと思ったきっかけから教えてください。

町屋(和楽器バンド) 和楽器バンドは「ボカロ三昧」(以下「1」)でデビューしたバンドなので、それ以降オリジナル楽曲を中心にリリースしていく中で、「いつか第2弾をやりたい」と以前から考えていました。それに加えて、我々はメンバーが8人で「8」という数字を重視しているので、デビュー8年目の今年がいいタイミングだと思ったんです。

──なるほど。

町屋 和楽器バンドはメンバーが集まってわりとすぐにデビューしたので、お互いの関係性やアンサンブルが構築されてない状態で走り始めたんです。なのでその後の8年間でアンサンブルやレコーディングのノウハウができあがっていった感覚があって。今回はそれを持ち寄って、今のボカロシーンの楽曲を中心に、最新の我々の音楽や表現を発信したいという思いもありました。

町屋(和楽器バンド)

町屋(和楽器バンド)

──「今改めてボカロカバーに挑戦したら、もっと面白いことができるんじゃないか」ということですね。

町屋 そうです。選曲に関して言うと、タイトルに「三昧」が付いているので、リスナーが誰でも知っているような楽曲で、なおかつ我々が演奏したときにハマる作品を中心にセレクトしました。

──かいりきベアさん、ツミキさんの楽曲を選んだ理由を教えてください。

町屋 やっぱりモダンなところですね。「1」の頃と比べると、ボカロシーン自体の傾向や楽曲クオリティが大きく変わっていると思っていて。例えばリズムトラックがすごくダンスチューンメインのものになっていたりしますよね。そういうものを我々でどう消化するか考えたときに、お二人の楽曲にはかなり勉強させていただきました。

ツミキ いえいえ、何をおっしゃいますか。

──実際、かいりきベアさんやツミキさんはボカロ楽曲が進化する中で、最先端の音を作っているクリエイターだと思います。今回、和楽器バンドがカバーした「フォニイ」「ベノム」は、「これを生バンドでやるのは大変だろうな」と思うような楽曲で……。

ツミキ 僕自身も「大変だろうな」と思っていました(笑)。

町屋 そもそも、お二人の楽曲は和楽器バンドのような編成で演奏することはまったく想定していないでしょうから(笑)。

──かいりきベアさんとツミキさん和楽器バンドに対してどんな印象を持っていましたか?

かいりきベア 和楽器のプロフェッショナルたちが集まっていることもあって、結成当時は「日本を代表するようなグループが誕生したぞ!」という印象でした。

ツミキ 和楽器でバンドをやるなんて発想がなかったので、最初はビックリしました。例えばアフリカやブラジルの民族楽器ならば、どこか聴いたことのないトリッキーな魅力がありますよね。自分の中では、最初は和楽器もそういうカテゴリーだったんです。でも、「ボカロ三昧」を聴いてみると和楽器はすごくスタンダードで、日本人の原風景でもあるお馴染みの音なんだなと気付かされました。

ツミキ

ツミキ

和楽器ならではの工夫と苦労

──和楽器バンドの場合、ギターなどとは異なるルールを持つ和楽器を演奏するメンバーがいるだけに、アレンジを考える際にも独特の工夫や苦労がありそうです。

町屋 そうですね。我々のようなバンドがほかに出てこないのも、難しいことをやっているからかもしれない。というのも、和楽器は転調ができないんですよ。チューニングがそもそもオープンGでしか作られていないという感じで、そのキーでしか楽器が作られていないから、例えば箏だと、うちでは通常のものの倍近い25絃ある箏を使って、ドレミファソラシドが2オクターブ強ある状態にして対応しています。ただ、それでもAメロのキー、Bメロのキーと割り振っていくと、そこからさらに転調した場合には対応ができなくなってしまうんですよ。

かいりきベア なるほど。

町屋 なのでツミキさんの「フォニイ」は本当に大変でした(笑)。ド頭のピアノのフレーズは音色や奏法的に尺八や津軽三味線では演奏できないので箏で弾いていて、さらに箏のハーモニクス(ギターなどの弦楽器で倍音の原理を利用して鳴らす高音)を使っています。これは普通、箏では使わない奏法なんですよ。

ツミキ そもそも、箏でどうやってハーモニクスを表現するんですか?

町屋 親指に絃をちょっと触れたりして、通常は出ない音域を出してくれているんだと思います。それで原曲にあるピアノの右手にあたるパートを箏に演奏してもらって、左手のパートは自分のギターに割り振る、ということをしていて。でも、そうなるとBメロに入ったときには、Aメロで使っていた箏が無力化してしまいます。そこでBメロでは三味線にがんばってもらいました。あと、うちの尺八は1本でエニーキーを弾ける(楽曲を12キーすべてで演奏できる)ので、サビはギターと尺八でがんばって、三味線と箏は入れるところは入る、という形にしています。

ツミキ まるで数学みたいに論理的に作られているんですね。

町屋 (笑)。ほかにも、かいりきベアさんの「ベノム」だと僕らのカバーでは2サビ終わりにサビのキーに転調したままリフに入るところで、間奏を伸ばしていて。

かいりきベア はいはい。そうですね。

町屋 その部分も、それまで尺八と箏で取っていたイントロから入っているリフが転調したあとは箏で弾けなくなるので、尺八に半分ソロを吹いてもらいながら間奏を伸ばしつつ、その間に箏の調絃を変えています。チューニングを変えるために間奏を伸ばしているんです。

かいりきベア なるほど……! 普通に何も考えずに「カッコいい!」と思って聴かせていただいていました。

かいりきベア

かいりきベア

ツミキ 本当にそうですよね。こっちからすると。

町屋 「フォニイ」でも、落ちサビのところはギターとベースだけになっていて、その間に箏の調絃を変えています。箏は柱(じ / 箏柱)と呼ばれている絃を支えている柱を動かすと音程が変わるので、それを何本か変えているんですよ。

──音源の段階から、ライブで演奏することを想定したアレンジになっているんですね。

町屋 その通りです。

ツミキ なんか申し訳ないです。

町屋 いえいえ、うちのメンバーにはドMが多いので(笑)。

ツミキとかいりきベアが語る、音作りのこだわり

──ツミキさん、かいりきベアさんがアレンジ面で意識していることを教えてください。

ツミキ 僕の場合、さっき話していただいていたように「ボカロシーンの進化」を見せていきたいという気持ちがあります。自分自身も小学生の頃にニコニコ動画を観ていたので、それをブラッシュアップしていきたいというか。人間がやっていないことができるのがボカロのよさだとも思っているので、「フォニイ」もそういうことを意識して作りました。

──ツミキさんは、ボカロPの中でも「人間には再現できない音楽」という部分をかなり意識されているイメージがあります。

ツミキ そうですね。ただその結果、今回町屋さんたちが苦労されたんじゃないかと。

町屋 そのあたりはやっぱり、「人間にできないことをやってやろう」と思っているツミキさんと、「それをなんとかして演奏してやろう」という僕らということで(笑)。

──かいりきベアさんはいかがですか?

かいりきベア 僕の場合はただただ自由に作っているだけなんです。それでも自分にしか出せないサウンドのギターを弾いて独自の曲を作る、というのは意識しているかもしれないです。

町屋 かいりきベアさんの場合、ギターのクランチの音を聴いただけで「かいりきベアさんのサウンドだ」とわかるのがすごいですよね。

かいりきベア クランチサウンドに関しては、単純にアンプをいじっていたらたどり着いたんです。ヘッドフォンでリスニングするときに、左右の耳から聞こえてきて気持ちいい音を求めていった結果、今のサウンドになっていきました。