今年12月31日をもって無期限で活動を休止する和楽器バンドが、18曲入りのベストアルバム「ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~」をリリースした。
このアルバムを制作するにあたって和楽器バンドは、これまでに発表された全楽曲を対象にリスナーによるリクエスト投票を実施。その投票結果をもとに6曲は再録バージョンを新たに作り、さらに今作のために2つの新曲を書き下ろした。メンバーが「ただのベストアルバムと思ってほしくない」と語るのも納得の、デビュー10周年の集大成となる1枚が完成した。
音楽ナタリーでは今作のリリースに合わせて、鈴華ゆう子(Vo)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(G, Vo)、山葵(Dr)の5人にインタビュー。過去曲の歌詞やメロディをちりばめて約5分間の中にバンドの歴史を詰め込んだ驚きの1曲「八奏絵巻」をはじめとしたアルバム収録曲について聞きつつ、和楽器バンドのこれまでの10年、そして活動休止後の未来について話してもらった。
取材・文 / 阿刀"DA"大志 撮影 / 塚原孝顕
活動休止がポジティブな決断だと、アルバムを通じて伝わればいいなと思う
──まずは、活動休止の決断に至った経緯から聞かせてください。
鈴華ゆう子(Vo) 和楽器バンドは結成からデビューまでがあっという間で、それ以降目まぐるしい10年を送ってきました。でも、このバンドのメンバーはもともと、自分のバンドを持っていたり、ボーカリストをやっていたりしていたんですね。だけどデビュー以降はツアーや制作の毎日で、和楽器バンドだけの10年だったんです。それで、以前から10年を目処に一旦それぞれ勉強する時間が欲しいよねっていう会話を自然とするようになって、このまま現状維持でいくよりは、アベンジャーズのように一度散り散りになって、それぞれがパワーアップするための前向きな活休を挟むのがいいんじゃないかということになりました。
──無期限活動休止とうたっていますよね。多くの音楽ファンの経験上、それって事実上の解散ではないかという受け取り方をする人もいると思うんです。でも、今の話を聞くと、個々の活動を重視するのであれば、活動休止の期限を決めるほうが不自然ですね。
鈴華 期限を決めてないっていうだけなので、言い方としては無期限になりました。
蜷川べに(津軽三味線) 活動休止のニュースをちょっとネガティブに捉えられるファンの方も多かったんですけど、メンバー間ではこれまで何度も話し合ってきたことだし、今回の活動休止期間を自分自身と向き合ったり、勉強をしたり、パワーアップする時間にあてることにして、そうすればまたみんなが集まったときにもっとレベルアップしたバンドになってるよねってすごくポジティブに決断をしたので、それが今回のアルバムを通じて伝わればいいなと思ってます。
──今年頭に活動休止を発表した時点で、「1年以上前から話し合ってきた」という町屋さんのコメントがありましたけど、メジャーデビュー10周年の今年がいい節目なんじゃないかという判断もあったのでしょうか。
町屋(G, Vo) そうですね。大新年会(1月7日に東京・日本武道館で開催されたワンマンライブ)をもって活休に入るという案もあったんですけど、今年は10周年だし、10周年はみんなで盛り上げて走り切ろうというところに着地しました。
──過去曲のうち6曲は今回のために再録されています。
町屋 僕らの気持ちとして初期の曲のリレコ(リレコーディング)はずっとやりたかったことなんですよ。最初の3枚目までのアルバム(「ボカロ三昧」「八奏絵巻」「四季彩-shikisai-」)は今聴くとアンサンブルがまとまりきってないし、今の音で録ればそれぞれの楽器がもっとバランスよく聞こえるのにと思っていて。そのわりにそういうアルバムに入ってる曲が代表曲になっていたりするので、「初期のバージョンのほうが勢いがあっていい」と言われないようなアレンジを工夫しながらやりたいなとずっと思ってました。
──これまでのインタビューでも、和楽器バンドの音源のクオリティが作品ごとに増しているという発言をずっと聞いてきているので、今回の再録を知ったとき、真っ先に町屋さんの顔が浮かびましたよ。うれしいだろうなって。
町屋 うれしいっすね。本当にうれしいです。
選曲会議で聴いた瞬間に「あ、選ばれるのはこれだ」って
──「ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~」はベストアルバムではありますけど、さすが和楽器バンドは当たり前のことをやらないなと思いました。再録もそうだし、のちほどくわしく聞きますけど新曲「八奏絵巻」に関しても、いい意味で常軌を逸してるなと。
町屋 ありがとうございます(笑)。
──今作の構成は最初から頭にあったんですか?
町屋 いや、アンケート上位に入ったお客さんが聴きたいリレコ曲6曲、最近のシングル曲や代表曲、そして最後に新曲2曲で締める、という形ですべてリリース順に並んでいるんですけど、最初は並びをけっこう変えてみたりいろいろと検証したんです。でも、一番ハマるのがリリース順だったんですよね。ベストアルバムってオムニバスみたいな形になりがちですけど、我々が作ってきたものはどちらかというとコンセプトアルバムに近い作品が多いので、バンドがデビューしてから10年間の歩みそのものが物語であると定義した場合、リリース順に並べるのが一番ストーリー性があるのかなと思いました。
──リリース順に並んでいるのは意味があってのことなんですね。
町屋 新曲のうちの「GIFT」は(鈴華)ゆう子が書いた曲なんですけど、選曲会議でこの曲を聴いた時点で、「スペシャルサンクスソングはこれで十分だから、もう1曲はどうしよう」と考えた結果、マッシュアップというアイデアがパッと浮かんで。今回、僕らの中でファン投票をしたことはすごく大きくて、上位に入った曲をリレコすればそれでいいということにはならず、「下位まではいかないけれど中間ぐらいの人気曲」を選んだ人たちの意見も救ってあげたくなったんです。それで「八奏絵巻」を作り始めて、選曲会議である程度プレゼンできるような状態まで持っていきました。
──過去曲の歌詞、メロディ、フレーズを複雑につなぎ合わせて、1つの曲として自然に聴かせるというのはとんでもないアイデアだと思いました。この曲の仕組みに気付いたときは鳥肌が立ちましたよ。
山葵(Dr) 選曲会議では僕や黒流さんも曲を用意してたんですけど、ここまで用意周到にされたらもう勝てねえやって(笑)。
黒流(和太鼓) そう、聴いた瞬間に思いました。「あ、選ばれるのは『GIFT』とこれだ」って。
町屋 でも、リズム隊の2人には本当に申し訳なくて。進行が本当にギリギリだったし、どの曲のどの部分を叩いてるのかわからないぐらい曖昧なデモでドラムを叩いてもらったので。
黒流 とはいえ、この曲が届いたときのスタジオの盛り上がりはすごかったですよ。みんなで「このパートはどの曲だろう?」って考えたりして。
町屋 僕がリズム録りが始まるギリギリまで作業してて、しかも録り始めるのが予定より2時間ぐらい遅れたんですよ。
黒流 まあ、企画内容的に絶対ギリギリになるってわかってたから。逆にみんなめちゃめちゃワクワクしてたし、大騒ぎしながらレコーディングしました。僕は山葵のあとに録ったからまだよかったんですけど、山葵は最初に録ったんで大変だったと思います。
山葵 心構えはできてました(笑)。