鈴華ゆう子「SAMURAI DIVA」インタビュー|和楽器バンド休止後の次なる一手。自らのルーツを全開にした、私にしかできない挑戦 (3/3)

編成が決まっている和楽器バンドでは入れられなかった楽器を使って

──今回の作品には、和楽器バンドの町屋さんが桜村眞名義でいくつかアレンジャーとして参加されています。

町屋さんは私のことをよくわかっているので、「バンドと違いを出すなら、ここがポイントだよね」というのも理解してくれてるんですよね。私のよさもよく知ってもらえているからこそ、町屋さんの色が強く出すぎると和楽器バンドっぽくなっちゃうというのもよくわかっていて。そういうバランスをうまく取りながら柔軟にやってくれるので、本当にやりやすいです。なので、「この曲は町屋さんだったらこう仕上げてくれるだろうな」って想像しながらオーダーを出したりもしました。今回、町屋さん以外にも和楽器バンドのメンバーにはいろいろと参加してもらってて、箏は全面的に(いぶくろ)聖志に弾いてもらってるし、大さん(神永大輔)にも5曲ぐらい参加してもらってます。でも、大さん以外の尺八の方にも参加してもらってて、音楽について詳しくない方でも大さんとの違いがはっきりわかって面白いと思います。

鈴華ゆう子

──今作は和楽器バンドの流れで聴くと比較的すんなり受け入れられるけど、やっていることはかなり大胆で、かなり斬新だと思います。

がっつりジャズに振ってる部分もあるし。

──「Bloody Waltz」ですね。

あの曲では、サックスに聞こえる音が実は尺八だったりして(笑)。そういうのも面白くないですか?

──そうそう! あれは斬新でびっくりしました。

あとは、能管みたいに歌舞伎の世界に出てくる特殊な和楽器も使っています。能管って、音でシーンを切り替えるための効果音的な存在なんですよね。和楽器バンドだと楽器編成が決まっているので、そういう楽器は入れられなかったんですけど、今回は鼓とか、もっと微細な違いが出る楽器も使っています。でも、琵琶とかまだ使ってない和楽器もたくさんあるので、日本人がいろんな音楽を聴いている今の時代だからこそのミクスチャーをやっていきたいですね。今回はその提案としての1枚です。

海外公演で実感した「物語の見せ方もその国の文化に寄り添う必要がある」

──話の本筋からはズレてしまいますが、音楽に限らず、和の要素をこれでもかというくらい押し出すと、かえって胡散臭く見えてしまうのはなぜなんでしょう。

それ、まさに昨日考えていたことなんですけど、私は時代背景が大きく関係していると思うんですよね。日本人の美意識の中には「侘び寂びモダン」みたいな感覚があって、“ほんのり和”っていうのがおしゃれだとされている。なぜそうなったのかというと、戦後の西洋文化への憧れや傾倒が美意識の主流になった流れもあると思うんです。でも逆に今は、和のエッセンスが最先端のハイカルチャーとして再評価される可能性もあって、戦後を体験された世代が少なくなってきている今が変わり目なんじゃないかと。

──確かにそうかもしれないですね。

やっぱり、時代を作っていくのは若い人たちで、戦後世代の方々の声を直接聞けなくなってきているという現実もあって、それが価値観の変化につながっているんじゃないかと思います。あとは単純に、色彩感覚の違いとか、民族の違いもあって。例えば、アメリカの方々が色鮮やかなものを好む傾向があるのは文化や感覚の違いで、それと同じように、リズムの取り方や好きなグルーヴ感もDNAレベルで違うのかもしれない。だから私は、日本向け、ヨーロッパ向け、アメリカ向けというふうに、同じ和でもそれぞれ違う形で見せられるように意識しています。日本ではアングラっぽく見られてしまうようなものも、海外では大ウケすることがあるので。

鈴華ゆう子

──成田空港とかのインバウンド向けのお土産店の装飾を見ると、「うわ、やめてくれよ……」って恥ずかしくなるときがあります。

日本人の多くはそう感じると思うんですよ。でも、そういう感覚って、海外の方、特に日本オタクレベルで好きな人には通じるんです。海外公演をしていてすごく感じるのが、例えば踊りでちょっとした物語を表現するというときに、アメリカではハッピーエンドじゃないとウケないんですよ。以前、切腹の振付で終わる演出をしたら、アメリカでは「マジでありえない! あなたが死んじゃダメ!」って大ブーイングで(笑)。

──アメリカ映画は勧善懲悪のヒーローものが多いですもんね。

だから、物語の見せ方もその国の文化に寄り添う必要があるなと実感してます。今回のジャケットも実はそういうことを意識していて。通常盤はけっこう攻めた雰囲気にしていますけど、もっと控えめなほうが日本人にはウケるだろうなと思っていたんです。ただ、海外では絶対にこのデザインのほうがウケる。だから、通常盤と初回限定盤でデザインを変えたり、いろいろと試しているところです。

──では今後は、ソロとしての海外公演も視野に?

来年や再来年に向けてお声がけいただいている国もあります。行く際には、ビジュアルやパフォーマンスの構成を変えたりして、その国に合わせた届け方をしていくつもりです。まだ実現していないですけど、「これはアメリカ向け」「これはヨーロッパ向け」というように完全に分けた作品も今後は作ってみたいですね。

──アイデアはあふれまくっている、と。

足りないのは時間ですね!(笑)

鈴華ゆう子

公演情報

SUZUHANA YUKO LIVE TOUR 2025「SAMURAI DIVA」~東名阪台ノ陣~

  • 2025年11月1日(土)大阪府 TEMPO HARBOR THEATER
  • 2025年11月15日(土)愛知県 名古屋インターナショナルレジェンドホール
  • 2025年11月22日(土)東京都 日経ホール
  • 2025年12月6日(土)台湾 台北CORNER HOUSE

※チケットは台北公演のみ販売中。

プロフィール

鈴華ゆう子(スズハナユウコ)

和楽器バンドのボーカリストで詩吟師範。東京音楽大学器楽(ピアノ)専攻卒業後、2011年にコロムビアレコード全国吟詠コンクールにて1位を獲得。2012年にピアノ&ボーカルを務めるユニット・華風月を結成したのち、発起人としてメンバーを集めて和楽器バンドを始動させた。和楽器バンドは2014年にボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」、2015年にオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」をリリース。2016年1月に開催した初の東京・日本武道館での単独公演は即日完売となり、同年3月にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された世界最大級のフェスティバル「SXSW 2016」にも出演した。和楽器バンドは2024年末をもって無期限で活動を休止。鈴華は2025年6月に配信シングル「ケサラバサラ」でソロプロジェクトを本格始動し、10月には8年ぶりのソロアルバム「SAMURAI DIVA」を発表した。また2025年に吟道鈴華流を創流し、宗家「鈴華慶晟」としても活動している。