ナタリー PowerPush - Superfly

4th=Force=最強 傑作ロックアルバムを語る

私が音楽を表現するにあたっての永遠のテーマ

──曲作りの方法論もこれまでと違う部分がありましたか?

そうですね。今まではサウンドのイメージを先行していたところがあったんですけど、今回は私が真ん中に立って、どんな言葉をつづって、何を歌うかに重点を置いて。だからまず私の言いたいことを多保くんに伝えて、そこに共感してもらって、同じ方向を向いて曲を作ってもらうという作業をしたんです。そういうやり方で最初に「愛をくらえ」ができたんですね。この曲ができたときにすごくサウンドが太くなっていると思えた。「このやり方を徹底してロックアルバムを作ったらヤバくないか!?」と思って。

──「愛をくらえ」もそうだし、とにかく本作にはリスナーを力強くアジテートするような曲が多いですよね。さっき僕は肉体や本能という言葉を出しましたけど、リスナーのフィジカルに訴えかけるような迫力がアルバム全体に満ちている。それは志帆さんが思い切り自分をさらけ出した結果なんでしょうね。

うん、そうですね。今作は「人と人」がテーマになっている曲が多いんですね。昔からそうなんですけど、私は日々を過ごしていて、誰かとつながっている感覚をあまり持てないんです。人は孤独であるというのもひとつの真理だと思う。でも、それをちゃんと認めた上でやっぱり誰かとつながっている実感が欲しいし、人を愛し、人に愛されるような人間でありたいと思うんです。それは私が音楽を表現するにあたっての永遠のテーマだと思うんですけど。

──その永遠のテーマともっと強く向き合って、曲にできるのではないかと思った?

そう。私は家族や友達にもうまく心を開けないことがあって、そのせいで孤独感が押し寄せてきてしまうんだなと思うんですよね。みんなの期待を裏切りたくないとも思うし。

──Superflyのイメージがひとり歩きしていると感じたら余計にそう思いますよね。

まさに。でも、これからもその状態でいると自分はもっと苦しくなるだろうと思ったときに、私は孤独だし、寂しくてしょうがないんだというネガティブな感情も完全に出し切ってしまおうと思ったんです。だからアルバムの中には「個人的すぎるかな?」と思う歌詞もあるんですけど、それでも踏み込んで自分の生々しい感情を表現したいと思ったんです。

──2曲目の「Nitty Gritty」の歌詞なんてまさにそういう思いがあらわになっていますよね。

これは今までの私なら絶対に書けなかった歌詞だと思います。サビ頭で「泣きたい」なんて叫べなかった。それを叫べたから、アルバムのレコーディングで唯一、この曲の歌を録り終えた瞬間にすごい勢いで涙が出てきたんですよね。

──「Nitty Gritty」に限らずどの曲も全くネガティブに聴こえないのは、歌詞もサウンドもそれを飛び越えようとする能動的な力が勝っているからだと思う。

うんうん。だから、私もこのアルバムを作って、やっと自分のことを好きになれた感覚があって。自分で自分を受け入れられたなって思ったんです。ネガティブな自分を音楽で昇華できたんだと思います。

もう一度私と多保くんでどんな化学反応が起きるのか知りたかった

──志帆さんが本当に表現したい歌とロックなライブ感というキーワードを軸に、サウンドのビジョンも多保さんと順調に描いていけたんですか?

いや、一発で「これ最高!」と思えるものもあれば、「輝く月のように」なんかは何回も多保くんに作り直してもらいました。多保くんにとっては今までで一番厳しい曲作りだったと思います。

──ハードルを上げたのは、志帆さんの強い思いも関係していますよね。

そうですね。ゴリゴリのロックアルバムを作りたいというビジョンを描いたときに、多保くんはライブをやらない作曲家なので、そこで温度差が生じたんですよね。私がステージで感じている熱やヒリヒリした感触を彼はわからないので。

──ああ、なるほど。そこで生じるズレは大きいですよね。

そう。だから、「愛をくらえ」ができたあとも彼の中でダイナミックなロックチューンがなかなか出てこなかったんです。「自分の中にロックがない」とまで言い始めて。これはもう大変だと思いましたね。私がツアーを回っている間に多保くんはプライベートで旅をしたり、別のアーティストの曲を書いたりしていて、違う道を歩いているとこんなにも温度差が生まれるんだって驚きました。

──その難局をどう乗り越えていったんですか?

このアルバムは初期衝動が大事だと思ったから、「バンドを始めたあの頃の気持ちを思い出せ!」とか、いろいろ言ったりして。

──愛媛でSuperflyを結成したあの頃を思い出せ、と(笑)。

そうそう(笑)。さらに、初期衝動と同時にリアルタイムで熱くなれる音を大事にしてほしかったんですよね。それを多保くんに何度も伝えました。多保くん自身がその感覚を掴んでからは早かったですね。さすがです。

──志帆さんが引っ張り上げたとも言えるのでは?

いや、私は文句しか言ってない(笑)。でも、多保くんはホントにがんばってくれましたね。今回はちゃんと会話する機会を作って、もう一度私と多保くんでどんな化学反応が起きるのか知りたかったんです。その結果、こんなに迫力のある曲たちが生まれたので。そこは粘って良かったですね。

──確かに全くライブをしていない人が、1曲目の「Force」のようにスタジアム規模のライブも想起できるようなスケールの大きい曲を作るには、相当な想像力が必要ですよね。

ね? すごい想像力だと思います。今回改めて思ったんですけど、多保くんの曲はデカいんですよね。今までの曲もデカいんですけど、今回ライブハウスでライブ盤の収録をして、今までの曲以上にそこに収まり切らないスケールを感じました。

CD収録曲
DISC 1
  1. Force
  2. Nitty Gritty
  3. No Bandage
  4. 輝く月のように
  5. 愛をくらえ
  6. 終焉
  7. 平成ホモサピエンス
  8. Get High!!~アドレナリン~
  9. 919
  10. The Bird Without Wings
  11. スタンディングオベーション
DISC 2 “Live 4th YOU”
  1. Force(Live)
  2. Nitty Gritty(Live)
  3. No Bandage(Live)
  4. 輝く月のように(Live)
  5. 愛をくらえ(Live)
  6. 終焉(Live)
  7. 平成ホモサピエンス(Live)
  8. Get High!!~アドレナリン~(Live)
  9. 919(Live)
  10. The Bird Without Wings(Live)
  11. スタンディングオベーション(Live)
Superfly(すーぱーふらい)

2004年に結成。越智志帆のパワフルかつソウルフルな歌声、60年代、70年代の洋楽を思わせるブルージーなサウンドが注目を集め、2007年4月にシングル「ハロー・ハロー」でデビュー。その後、多保孝一がコンポーザーとしての活動に注力すべく表舞台から退き、越智のソロユニットとなる。2008年に発表した1stアルバム「Superfly」、2ndアルバム「Box Emotions」がともにチャートで1位を記録。2009年12月には初の日本武道館ライブを成功に収め、その後も多くのヒット曲を連発。2011年には3rdアルバム 「Mind Travel」 でアルバム4作(10thシングル「Wildflower & Cover Songs:Complete Best 'TRACK 3'」は企画盤だが曲数的にアルバム扱い)連続1位を達成し、初のアリーナツアーも大成功に収める。2012年9月、4thアルバム「Force」をリリースした。