Superfly「Heat Wave」インタビュー|激動の日々を経て肯定できた、カッコよくない普通の私

Superflyが7作目となるアルバム「Heat Wave」をリリースした。

前作「0」より約3年4カ月ぶりのアルバムとなるこの作品には、新型コロナウイルスの感染拡大で揺れ動く日々の中で制作された楽曲を収録。大きな愛で包み込むような歌や、自らを鼓舞する歌に加え、越智志帆という1人の女性の柔らかな素顔が感じられる楽曲もあり、Superflyが新たなフェーズに入ったことを感じさせる。

今回のインタビューでは、アルバム用に書き下ろされた新曲を中心とした制作エピソードや、完成したアルバムにつながる心の変化などを越智にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 廿楽玲子撮影 / 森好弘

つながりを感じたいと思って歌っている

──「Heat Wave」は約3年4カ月ぶりのアルバムとなりますが、その間に世界が激変しました。楽曲を時系列で並べると2020年発表の「Together」が最初になりますね。

はい。「Together」を作ったのはコロナの感染拡大で最初の緊急事態宣言が出て、みんながすごいストレスと不安を抱えていた時期でした。どうしようもなく苦しくて、私はそういうときに曲を作るんです。それで“一緒にいたい”といったキーワードが出てきて、宅録で曲を作り始めました。

──この先どうなるのかも見えず、不安でいっぱいの時期でしたね。

だからこそ、あのときはみんなを元気付けたかった。でも、できることは少なくて。だからまずやったことといえば、Instagramに何気ない写真を毎日投稿してクスッと笑える時間を作るとか、そんなちっちゃい取り組みでしたけど、「何かしたい、みんなを癒やしたい」とすごく思っていました。その原動力がこのアルバムを出すまでの3年間、ずっと続いている感じがします。

──3年前の「Together」はリモートレコーディングでしたが、アルバムにはスタジオで新たにレコーディングしたバージョンが収録されています。ラストの喜びに満ちたコーラスが印象的ですね。

やっぱりコーラスを入れたい、今だから入れようと思って。みんなで一緒に歌うのって、すごくつながりを感じられるんですよ。私はつながりを感じたいと思って歌っているので、自然とこうなりました。

Superfly
Superfly

越智志帆の奥底に隠れるステージ上のSuperfly

──この数年間はプライベートでも大きな変化があったと思いますが、制作するうえでの影響はありましたか?

日々、大変なこともありますけど、最近すごく仕事が楽しいんです。いろんなことを経て肩の力がだんだん抜けてきたのかな。年齢もあると思うんですけど、自然体に近い状態で活動できるようになっている。思い通りにもいかないことがあっても、それもまた楽しいと思えるんですよ。

──以前はもうちょっと力が入っていた?

そうですね。「自分はこうあるべき」という思いがあったかもしれない。怖がりなので、ライブ前のルーティンとかもすごく多かったですし。

──先日出版された初のエッセイ集「ドキュメンタリー」にもそのエピソードが載ってましたね。あまりにもルーティンが多いから減らそうとしていると。

気持ちの切り替えが難しいんですよね。ライブ中の自分は普段の私とは別人のようだと感じることが多いんですけど、その分ステージを降りたときの落差がすごすぎて、よく気持ちを引きずっていました。普段の私は本当に普通なので、そこにコンプレックスもあって。でも最近は、その切り替えが少し上手にできるようになったのかもしれない。

Superfly

──ステージ上のSuperflyと普段の越智志帆さんは全然違うんですね。

そうなんです、まったく別ものです。で、これは私も初めてのことだったんですけど、今回のアルバムでは制作の現場にもステージ上の私が出てきた感覚があったんです。ラストスパートにかけられる時間が短かったこともあり、一点集中していたら、いつの間にか出てきた。ものすごいアドレナリンが出ていたようで、作り終えた今、アルバムを聴くと「誰が作ったんだろう」と思うくらいです(笑)。

──集中したときに出てくる“ステージ上のSuperfly”という存在は、普段はどこにいるんでしょうか?

私の中の奥底に隠れてしまって、ちょっとやそっとじゃ出てきてくれないんです。

──昔からいるんですか?

子供の頃からいます。怒ったり、正義感とかが刺激されたりすると出てくるんですけど、普段は寝てますね。感情の塊みたいなものなのかな。

──自分で起こしたりはできないんですか?

それは難しいですね。心が動く対象があって初めて出てくるものなので。私は敏感なところがあるので、あんまり刺激を入れすぎるとコントロールができなくなりそうで、今までは少し刺激を遮断してたんです。でも今はいろんな反応をしなければ曲はできないと思うようになったので、たくさんのものを見て感じようとしている分、表に出てきやすくなっている気もします。

Superfly

──コントロールはできないけど、付き合い方が少しずつわかってきた。

そう。私自身がちょっと強くなってきたのかもしれない。あんまり暴れられると困るので(笑)、基本はお休みしてもらって、時がきたら存分に力を発揮してもらうという感じです。

──表題曲「Heat Wave」は、そんな内なるSuperflyが目覚めたという感じのパワフルな楽曲ですね。

まさにそう。この曲は火に対する心の反応を書きました。今回のジャケット写真を撮影するとき、目の前に焚き火があって、最初はきれいだな、癒やされるなと思っていたんです。でも近付いたら激しい炎が襲いかかるように向かってきて、めちゃくちゃ怖かったんですよ。これが本来の自然の力なのかと実感して、自分の中に恐れの感情が潜んでいたことに気付いたので、その気持ちを大胆に書きました。