ナタリー PowerPush - THE STARBEMS

震災+ウルトラセブン+面白おじさん! 日高央のラウドロックバンドの作り方

空疎なネットの議論で本名を名乗ることを決意

──THE STARBEMSの作品からはBEAT CRUSADERSにあった「ポップな面白おじさん」の一面は削ぎ落とされていますが、日高さんの中にはやっぱり音楽に向かう意識の違いってありますか?

日高 たぶん震災がなかったら音はラウドだけど明るい作風になってたと思うんですね。でも、ヒダカトオル(BAND SET)名義で活動を始めて3カ月くらいで震災が起こって。それ以降、自分がラウドなオリジナル曲を作るモチベーションが怒りに変わったんですね。進まない復興に対する怒り、そういう状況において役に立てない自分に対する怒り、それから行政のすれ違いだったり、ネット上で飛び交う匿名の空しい論議だったり。自分の中にはそういうものに対する怒りしかなかったんですよ。ただ、だからといってケンカするわけにもいかないし、ミュージシャンとして何ができるんだろうと悶々しながら曲を作っていたら、自然と今のTHE STARBEMSのような曲が生まれていったんです。それがよかったのか悪かったのか。もちろん震災なんて起こらないほうがいいし、震災が起こらず、THE STARBEMSが結成されないほうが全然よかったのかもしれないんですけど、それでもこのバンドは震災ありきで始まったという意識は強くありますね。

──しかも、THE STARBEMSは匿名的なお面のヒダカトオルではなく、お面を取った日高央としての覚悟のバンドでもあるわけですよね。

日高 ネットでの匿名の議論に対する空しさもあったし、それにそういう匿名的なアプローチはもう十分やり尽くしたので。今後はMAN WITH A MISSIONだったり、流田Projectやamazarashiなんかにお任せしますよ(笑)。あと自分がリスナーとして「次にヒダカトオルはどんなアクションを起こすんだろう?」って想像したとき、全然違うことをやってほしいし。もちろん今までのよさも残しつつではあるんだけど、リスナーとしての自分が「あ、こういう感じでくるんだ。面白いな」って思えることをやりたかった。それが今のこのバンドなんですよ。「期待は裏切りたくないんですけど、予想は超えてたい」っていうか。これはTROPICAL GORILLAの志村さんの名言をパクったものなんですけど(笑)、そういう意味での1つの回答がこのアルバムなんですよね。

「ポップな面白おじさん・ヒダカトオル」というハンコ

──楽器隊の皆さんが考えるTHE STARBEMS観って?

越川 僕、実はそんなにBEAT CRUSADERSを聴いてないんです。でもTHE STARBEMSを参加するにあたって改めて過去の作品を聴かせていただいた上で考えてみると、今回のアルバムでは、BEAT CRUSADERSのヒダカトオルを期待している人が欲しているものは一見すると減ってると思うんですよ。でも、三つ子の魂百までじゃないですけど、どの曲にも実は「ポップな面白おじさん・ヒダカトオル」っていうハンコがちゃんと押されているんです。そういう意味で日高さんは自分のことをちゃんとわかって音楽を作っているし、その中でどこまで新しい音やイメージ、精神性を打ち出していけるかに挑戦している。その挑戦っていうのはTHE STARBEMSにおいて俺がやらなきゃいけないことでもあるなって思っていますね。

菊池 そうですね。「BEAT CRUSADERSの延長でこのバンドは進んでいくのかな」と思っていたので、バンド加入にあたって僕が最初にやったのはBEAT CRUSADERSの曲を練習することだったんです。ところがメンバーが固まって、どんどん生まれてくるオリジナル曲の中にはBEAT CRUSADERSのときに日高さんが見せていたポップでキャッチーな要素はかなり薄くなっていて。それを寂しく思うこともあったんですけど、曲作りを進めながら、歌詞の意味を理解していくうちに「別にポップだったり、キャッチーだったりする要素を削ぎ落としているわけではないんだな」ってことがわかったし、そういう日高さんの感覚には絶大な信頼が置けるなと改めて思ったんですよね。そうしたら西くんと同じように、挑戦というか、今度はそれまであまり馴染みがなかったラウドロックに対してどこまで自分なりのアプローチができるのかということを考えられるようになって。YouTubeにアップされているパンクバンドやハードコアバンドの映像を観て研究するのが楽しくなったんです。で、今回のアルバムのレコーディングに入る段階では、THE STARBEMSの楽曲の方向性という流れの中に自分のやりたいことやエッセンスをどうやって入れようかなと意識して作業に臨めるようになったし、そのスタンスは今も変わらないですね。

──歌詞に見られる日高さんの感覚とは?

寺尾順平(B)

寺尾 最初に「COUNTDOWN JAPAN」に出演したあと、ツアーに出たんですけど、そのための練習でスタジオに入る日の3日前に震災が起きたんです。で「リハはどうしようか」って話になったんですけど、あの頃はみんな節電を心がけていたので、日高さんが「練習はやろう! ただし、節電リハで!」「というわけで一発で終われるように、みんなちゃんと練習やってこいよ」って。その後のツアーでも日高さんは「こんなときだからラウドな音でいろんな人を元気付けに行こうよ」って言ってたんですよね。それが俺にはカッコいいなと思えて、それ以来一緒に活動しているんですけど、今回のアルバムの歌詞を読んでみたら、その震災直後から日高さんがずっと考えていたことが明確に形になった印象を受けて。だから俺としても、震災復興にどれだけ寄与できるかはわからないですけど、まずはライブを観てくれる人、アルバムを聴いてくれる人を元気にしたり、楽しませる、そんなバンドにしていきたいです。

ニューアルバム「SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD」 / 2013年6月5日発売 / DefSTAR Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / DFCL-2008~9
通常盤 [CD] / 2800円 / DFCL-2010
CD収録曲
  1. DESTINY
  2. The Crackin'
  3. MAXIMUM ROCK'N'ROLL
  4. WISE BLOOD
  5. ARE U SURE?
  6. INSIDE OUT
  7. No Reaction
  8. FUCKIN' IN THE AIR
  9. HIGH RISK
  10. FORGIVENESS
  11. HUMAN RIGHTS
  12. DREADRONE
  13. GOOD-BYE LOVE
初回限定盤DVD収録内容
  • THE SEARCH FOR ANIMAL CHIN~東北ライブハウス大作戦ツアー“PLACE TO PLAY 2013”
THE STARBEMS(ざ・すたーべむず)

THE STARBEMS

2010年のBEAT CRUSADERS“散開”後、日高央(Vo)が展開していたソロユニット「ヒダカトオル(BAND SET)」がその前身。ヒダカトオル(BAND SET)のサポートメンバーとして寺尾順平(B / ex. ワイルドマイルド)、後藤裕亮(G / LOCAL SOUND STYLE)、高地広明(Dr / SHENKY GUNS)、越川和磨(G / ex. 毛皮のマリーズ)、菊池篤(G / Fed MUSIC)が続々と集結し、2012年9月よりTHE STARBEMSとして活動を開始する。2013年3月、ユニコーンのトリビュートアルバム「ユニコーン・カバーズ」に提供した「I’m a loser」のカバーがTHE STARBEMS名義での初音源となり、翌4月に1stシングル「FUTURE PRIMITIVE e.p.」を4444枚限定でリリース。そして6月、1stアルバム「SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD」をリリースする。