SennaRin「NOD」インタビュー|独自の感性で描く、罪からの逃亡

澤野弘之によるプロデュースで2022年4月にSACRA MUSICよりメジャーデビューしたSennaRin。デビュー以降、彼女は国内のみならず、ドイツ・マンハイムでの「AnimagiC」、アメリカ・ニューヨークでの「Anime NYC」など海外でのイベント出演も重ね、着実に経験を積み上げてきた。

そんなSennaRinの2024年一発目の新曲は、現在放送中のフジテレビ系金9ドラマ「院内警察」のオープニングテーマ「NOD」。澤野が作曲とアレンジを、SennaRinが作詞を手がけたこの曲では“罪からの逃亡”をテーマにしたストーリーが描かれており、歌詞には「澱みない逃√」「脳内∋残留」といった記号のようなフレーズが登場する。独自の感性から生まれた“SennaRin節”が炸裂した1曲だ。

音楽ナタリーではSennaRinにインタビューし、言葉に強いこだわりを持つ彼女の作詞術にフォーカスしながら新曲を紐解いていく。

取材・文 / もりひでゆき

神のひと声で行った挑戦

──SennaRinさんにとって2023年はどのような1年でしたか?

去年は海外のイベントにたくさん出演しました。そこで気付いたのは、音楽の聴き方や楽しみ方は国によって全然違うなということで。例えば、ブラジルの皆さんは「最果て」という曲のスキャット部分まで歌ってくださるんですよ。それぞれの国の方々から本当に大きなパワーをいただけた気がします。

SennaRin

──反応の違いによって、SennaRinさんのパフォーマンスの見せ方にも変化があったりしますか?

私は1曲1曲の世界に入り込んで集中して歌っていて、それはどんな場所においても変わらないんですけど、受け取ってくださる方々の反応の多彩さによって自分の視野が広がったかなと思います。最近はステージ上ですごく動くようになったんですよ。デビュー直後に行ったサウジアラビアでのライブではたぶん一歩も動いてなかったと思うんですけど(笑)、今はけっこう動きます。

──昨年10月には2度目のワンマンライブもありましたね。1stワンマンからちょうど1年ぶりの開催でしたが、そこでは大きな成長が感じられました。

最初のワンマンはすごく気張っていたし、めちゃくちゃ緊張してたんですよ。でも、私の楽曲を好きでいてくれる方がちゃんといることを目の当たりにできたので、「楽しかった!」という思いでライブを終えることができました。1年ぶりのワンマンは絶対楽しいものになると思っていたので、ライブに向き合う気持ちが全然違っていたような気がします。ライブの最後には初めてピアノの弾き語りを披露できて、私の新しい一面をお見せできたと思います。

──「melt」を弾き語りで披露されていましたよね。意識的に盛り込んだ新たなトライだったんですか?

そうですね。何か新しいことをしたいなという気持ちはずっとあって。ライブの1カ月前くらいに澤野さんと話しているときに、「ワンマンで弾き語りしなよ」と言っていただいて。

──神のひと声が。

はい(笑)。そこから澤野さんに弾き方を教えていただき、それを撮影した動画を観ながら毎日練習したことで、なんとか1カ月で形になりました。すごく大変ではありましたけど、自分にとっては大きな自信にもなったので、トライできて本当によかったと思います。

──たくさんのライブを経験するとともに、楽曲制作も精力的に進めているようですね。

はい。昨年の後半から澤野さんと一緒に楽曲を制作させていただいていて。今年はそれをたくさんお届けする年になればいいなと思ってます。1曲ごとにまた新しいことにチャレンジしているので、楽しみにしていてほしいですね。

「ぜえぜえ、はあはあ」言いながら走ってるイメージ

──そんなSennaRinさんから2024年一発目に届いたのが、ドラマ「院内警察」のオープニングテーマ「NOD」です。すでに大きな反響が届いているんじゃないですか?

「カッコいい!」と言ってくださっている方がすごく多いんですよ。ドラマの視聴者の方にも受け入れていただいている声を聞くと安心しますし、楽曲を介してドラマに関われている実感があってうれしいです。

──これまでアニメとのタイアップはありましたけど、ドラマのタイアップは初ですよね。

はい、初めてです。アニメはもちろん、ドラマや映画も大好きなので、ずっとやってみたかったことで。事前に「院内警察」の脚本を最後まで読ませていただきました。

──「NOD」の作詞・作曲は澤野さん、作詞はSennaRinさんが手がけています。歌詞に関してはどのようなイメージで書き進めていったんですか?

澤野さんに作っていただいた疾走感のある楽曲を聴いて、緊迫した空気の中で「ぜえぜえ、はあはあ」言いながら走ってる映像が頭の中に浮かんできたんです。そこで“罪からの逃亡”というテーマで書き進めました。歌詞を書いていく中で澤野さんにいろいろと相談もしました。「サビはどんな感じがいいですか?」と聞いたら、「英語と日本語を組み合わせた暗号みたいな感じでも面白いんじゃない?」というアドバイスをいただけたので、それを念頭に置いて書いたところもありました。

──めちゃくちゃSennaRinさんっぽい歌詞ですよね。

本当ですか? うれしいです(笑)。

──澤野さんからの「暗号みたいにすれば?」というヒントを咀嚼して言葉に落とし込むのは相当難しいと思うんですけど、それをSennaRinさんは独自の感性でちゃんと形にしていますもんね。

暗号みたいな歌詞が大好きなんですよ。例えば最初の発音を“ざ”にしようと決めて、そこに合わせた言葉を選びつつ、同時に意味も当てはめていく……みたいに頭の中でパズルのように書いていくのがすごく好きだし、楽しいんですよね。

──メロディが呼んでいる言葉の響きを前提に、そこに意味を当てはめるから必然的に暗号っぽくなる部分もありそうですよね。

そうですね。もちろん意味を重視した書き方をすることもあるんですけど、まずはサウンドやメロディに合う言葉を拾ってくるところから作詞が始まります。ネット検索を駆使しながら。

──検索というのは?

Google翻訳はマイク入力ができるじゃないですか。そこに「ダーダッダ!」みたいな意味のない音を入れて出てくる言葉を拾って、あとから意味を考えていったり。響きはいいけど意味が合わないときは、その言葉の同音語や韻を踏んだ言葉を探っていくこともあります。電車の中の広告なんかにいい感じの言葉を見つけたりしたときは、メモしておくようにもしてます。

──SennaRinさんは言葉へのこだわりがものすごく強いですよね。

そうですね。響きと同じくらい、言葉の温度感も大事にしてるんですよ。この言葉を使うと、曲に日常の情景が入り込んでしまうと思えば、その言葉は使わないようにするし。そこはかなり重要ですね。

──曲の持つテイストや方向性によって選ぶべき言葉が決まってくると。

はい。例えば「NOD」で描いている世界は完全にフィクションだし、日常からかけ離れた“罪からの逃亡”というテーマの曲なので、歌詞に関しても現実から離れた言葉を使っています。

SennaRin

記号が大好きです

──楽曲のタイトルになっている「NOD」は、創世記に出てくる“ノドの地”にインスパイアされたものだそうですね。そのあたりも曲のテーマに合わせて引っ張ってきたモチーフなんでしょうか?

“罪からの逃亡”というテーマの究極を考えていく中で、そこにたどり着いた感じで。創世記に出てくるカインが弟のアベルを殺し、その罪から逃れた場所がノドの地なんです。だから歌詞の中には「CAIN」という言葉も入れてみました。神話も好きなので、いろいろ調べたりもして。神話にはカッコいい文字の並びの言葉があったりするんです。「院内警察」の原作には“アスクレピオスの蛇”というサブタイトルがついているんですけど(「院内警察~アスクレピオスの蛇~」)、“アスクレピオス”というのはギリシャの医者の神様で、雷に打たれて死んでしまったそうなんです。今回の歌詞にある「雷鳴を切ってfar」というフレーズが偶然、そこにつながったんですよね。

──歌詞の中に「√」や「∋」といった記号を使われているのも特徴的です。

記号は大好きですね(笑)。「ここは記号を入れたいな」という明確な意思を持って調べています。

──「逃√(とうるーと)」という使われ方をしていますが、これってつまり逃走経路みたいな意味ですよね。

そうです、まさに逃走経路です。そのまんまなんですけど。パソコンで「逃ルート」って打ったときにいまいちピンとこなかったので、「ルート」を「√」表記にしました。それはたぶん「ルート」や「route」という表記にしちゃうと意味が強く出すぎちゃうからだと思うんですよね。だったら「逃√」という1つの言葉、1つの意味にしちゃえばいいかなって。けっこう感覚的にチョイスしてる部分ではありますけどね。「え、これってどういう意味なんだろう?」とリスナーの方が引っかかってくれたら、私としてはすごくうれしいです。