ナタリー PowerPush - Salyu
新しい挑戦に満ちたシングル「青空 / magic」
道が2つ走り出した以上は、共存の意味が問われていく
──たぶんsalyu×salyuを出したことによって、リスナーのほうが耐性がついたと思うんですよ。もう何が出てきても驚かないみたいな(笑)。
ふふふ(笑)。
──そこらへんで常に何か新しいものを提示していきたい、刺激的なものを見せていきたい、ということを、今後のSalyuさんのあり方として考えてらっしゃるってことですか。
うん。道が2つ走り出した以上は、その両方に共存の意味が問われていくじゃないですか。
──同じようなものになってもしょうがないですしね。
そう。だからそういった意識を、Salyuの私も感じてるし、プロデューサーからもそれが感じられる。
──そうですよね、小林さんとしてもやっぱり違うアプローチで、Salyuらしく、なおかつ新鮮なもの、というのを今まで以上に考えるでしょうしね。今回の楽曲はすごく新鮮なイメージがありました。それまでのSalyuさん名義の曲と比べてもちょっと違う感触というのがすごくあったし、歌い方も違う。すごくいいと思いました。ファンの方がどう受け止めるのか楽しみですね。
楽しみ。今まで聴いてきた方にはすごく新しい印象を与えるものに仕上がったなあと思います。
──じゃあ、これまでにない手応えを感じながら今回は作られた?
はい、そうですね。これだけメロディっていうものがシンボライズされている構築の中で歌うっていうのは、すごくメロディアスな作品として人の元に届いてくと思うんですけども、新しい自分の理想が増えるきっかけになる曲だと思うんですね。で、レコーディングに向けて自分でもイメージを膨らませて新しい感触にできたと思っているんですけど、楽曲に癖がないっていうところがキモで(笑)。私もいっぱい癖があると思うんですよ。癖ってね、良い癖にしろ悪い癖にしろ、自分の欠点を隠すための方法だと思ってるのね。
──癖が欠点を隠すため? ほお。
例えばギターでも弾き癖みたいなのがたぶんあると思うんだけど、歌に表れる癖っていうのもあって。でも「magic」は、楽曲にもメロディにも癖があんまり必要とされてなくて。すごく感性もスキルも洗練されきっていて、癖を出さずに歌いきれる楽曲だなあっていうのをすごく感じて。
──完成度が高くなってくると癖がなくなってくるってことなんですかね?
どうなんでしょう。それはわからないです(笑)。
──欠点を補うために癖があるっていうことなんであれば、欠点がなくなっちゃうってことですよね?
でも工夫って意味では、その欠点を隠すことでそこをどう過ごすかっていう手段が癖っていう形で表れて……。
──個性ってこと?
そうですね。個性っていう言い方でもいいかもしれない。癖っていうのは、結果が悪く見えないように、それを逆に魅力に変えている工夫だと思うんですけれども、突き詰めて言うとコンプレックスを補うために生まれてくるんじゃないかなって感じたりするのね。ただ、その癖を受け入れてくれる楽曲とそうでない曲があって。今まであんまりそういうことを考えさせられる楽曲に出会ったことはなかったんだけれど、これだけ風通しのいい曲だから。
──言ってみれば癖のない、無色透明な感じの曲を自分が歌うと、自分の癖がそのまま出ちゃうってことですか?
そう、そういうところがあると思います。それ(自分の癖)が良い情報になる場合もあるんだけれども、この場合はすごく雑音だったりとか余計な動きとして見えることが多かったので。
──ああ、そこが苦労したってことか。なるほどね。
そうそう(笑)。そういう楽曲との出会い、葛藤との出会いっていうのがすごく自然だったから、自分の正しい理想が1つ増えたっていうか、そういうことを表現するっていうのはどういうことなんだろうって。そのボーカリゼーションもこれから得ていきたいし。
──でもきっとそういう経験っていうのは、自分で曲を作ってる人だとなかなか得られないことなんでしょうね。自分で曲を作ってれば当然自分に合わせちゃうから。
そうですね。本当にそうだと思います。ふふふふ(笑)。
ささいなことで歌という楽器は変わってしまう
──Salyuさんの歌の、どこに癖があってどこに欠点があるのかよくわかんないですけど、自分なりに自覚するところってあるんですか?
いや、それはありますね。
──ありますか。自分の弱いところとか。
あります、そういうのは細かくたくさんあります。
──それは日々克服しようと思うわけですか。
克服したいと思ってますね(笑)。毎日毎日毎日願ってます。でもそれってすっごい難しいことですね。1回直っても、覚えたことってなかなか手放さなかったりして。手放すっていうことも知性が必要で、だけどなかなか動いてくれなかったりとかして、そのまま変なことになってたり、そういうことは本当にありますよ。例えばね、元気がなかったりするといろんなものが落ちていくんですよ。顔だったら、頬の筋肉もニコッてしないと、落ちていくじゃないですか。すっごい具体的な話なんですけど。内臓とかも全部落ちてくるんですよ。そうするとやっぱりバッて、歌う瞬発力がなくなったりしますもんね。ロマンチックな言い方をすれば、鍵を開けるのが遅くなるっていうか。本当にささいなことで肉体って、歌という楽器って変わってしまう。やっぱり怖いね。無意識に変わっていくから。
──ほかのボーカリストに比べても、Salyuさんは変化が激しいほうなんですか?
私は意識してそういう稽古をしているし、そういうことを与えかけてくれる先生、先輩がいるからよりそう感じるのかもしれないけれど、やっぱり気付かないうちに人間の体っていうのはそういう(ふうに変わっていく)ものだと思う。ほかの歌手よりも変化が激しいかどうかはわからないですけれども、気付いたらだんだん高い声が出なくなってたとか。私はそういうことがないようにありたいなと思いますよね。
──ピアニストも、1日弾かないと指が動かなくなるっていいますもんね。で、取り戻すのにその3倍の時間がかかるって。
そうですね、ホントそのとおりだと思います。
──そのために日々、いろんな筋肉を使っていろんなことをやっていかないと。
ね、すごい面白いなって思う。だからってジョギングすればいいわけじゃないし、本当に体や筋肉を鍛えていけばいいってもんじゃないですもんね(笑)。
──なるほど。わかりました。今後のライブの日程も出てきてますが、salyu×salyuのライブとSalyuのライブがありますよね。それはもう、曲はまったく別のものをやるんですか?
分けます。はい。髪型もね。ふふふふ(笑)。
──(笑)。でもそれも結構大変そうですね……大変じゃないのか、分けたほうがラクなのか。
そうですね、分けたほうが。全部のステージで一緒のことをやるほうが大変だと思う(笑)。
Salyu(さりゅ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2006年にBank Band with Salyuとして「to U」、2008年にはWISEとのコラボによる「Mirror feat. Salyu」をリリースするなど、他アーティストのコラボにも意欲的。自身のオリジナルソロ作品もコンスタントに発表し、2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。
2010年3月にソロとして3枚目となるアルバム「MAIDEN VOYAGE」をリリース。2011年からは新プロジェクト「salyu x salyu」としての活動を開始し、Cornelius=小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。同年7月、小林武史プロデュースのニューシングル「青空 / magic」を発売。収録曲「青空」を桜井和寿(Mr.Children)が提供したことでも注目を集めている。