Salyu × 小林武史|呼吸をするように共に歩んできた17年

5月に初めて香港でライブを実施するなど、近年精力的にライブ活動を行っているSalyu。2000年にLily Chou-Chou名義でCD「グライド」をリリース、2004年にSalyuとしてCDデビューを果たし、今年で歌手活動17年目を迎えた。シンガーとしてはもちろんライブパフォーマーとしても成長をし続ける彼女の魅力を探るため、音楽ナタリーでは、Salyuとプロデューサーを務める小林武史にインタビューを実施。長年のタッグで見えてきた、Salyuの変化とは? 今月末に開幕する「Reborn-Art Festival 2017」への意気込みも含めて、2人にじっくりと話をしてもらった。

取材・文 / 小林千絵

驚きと喜びを感じた初香港ライブ

──まずは香港でのライブ「Salyu × Takeshi Kobayashi Live in Hong Kong」の感想を教えてください(参照:Salyu×小林武史、初の香港公演で大喝采「言語を超えて歌を届けられてうれしい」)。

「Salyu × Takeshi Kobayashi Live in Hong Kong」の様子。(Photo by Taku Fujii)

Salyu 香港でライブをしたのは初めてで。CDをリリースしていなくて、プロモーション活動もしたことがない場所だったのに、たくさんの地元の方々が足を運んでくださって驚きと喜びを感じました。ライブも楽しくできました。

──当日は小林さんとの2人編成でしたね。

Salyu はい。シーケンサーを使った曲もあったんですが、ほとんどがピアノと歌だけという編成で。かなりストイックな空間だったんですけど、1曲1曲、お客さんの反応が熱くて「こんなに喜んでいただけるんだ!」と感じました。

小林武史 アジアでSalyuのことを知ってもらえてるのって、映画「リリイ・シュシュのすべて」がきっかけだと思うんですよね。ただ映画はもう17年も前のものなのに、いまだにそれが響いてるというのはすごく不思議。17年前はどう考えても小さな子供だったんじゃないかな?っていう人が現在進行形でSalyuの音楽を聴いてくれてるのはわかるんだけど、Lily Chou-Chouの曲も知ってる感じがしたから。

Salyu それを踏まえて、ライブでもSalyuの曲と合わせてLily Chou-Chouの曲も普段より多く披露しました。私自身「海外に出て行きたーい!」っていう刹那的な衝動はあんまりないですけど、心を込めて作っている音楽を、さまざまな文化の方々に楽しんでいただける機会があるのであれば、これからも喜んで出かけていきたいなと思いました。

「to U」を録り直してみて

──改めて、小林さんから見たSalyuさんの魅力を教えてください。

「Salyu × Takeshi Kobayashi Live in Hong Kong」の様子。(Photo by Taku Fujii)

小林 やっぱり声質が素晴らしい。独特の、特徴的なファルセットを持っていますし。それと、女性シンガーだとかわいらしさを感じる人が多いと思うんだけど、Salyuには独特の力強さがありますよね。

──Lily Chou-Chouでタッグを組んでから17年が経ちますが、小林さんからご覧になって、Salyuさんの変化はどのように感じられますか?

小林 歌手としての生命力みたいなものがより強くなっている感じがします。ここぞというときに音を外したりもするんだけど(笑)。大きくなったというのは、声量とかそういうことじゃなくて……この間東京メトロのCMのために「to U」を録り直したんだけど(参照:東京メトロ「Find my Tokyo.」新CM曲はBank Band&Salyuのあの曲)、それがすごくいいんですよね。「to U」ってかなり聴かれている曲だと思うんだけど、それを歌い直して「こっちのほうがいいじゃん」って思えるものにするのは大したものだなって思いました。

Salyu そんなふうに思ってくださっていたんですね。今初めて聞きました。

小林 Salyuは「録り直さないで、前の歌でどうでしょう?」って言ってたもんね。

Salyu はい。今回のアレンジ、かなり要素が少ないじゃないですか。シンセのストリングスとノイズだけで、アカペラに近い。

小林 うん。

「Salyu × Takeshi Kobayashi Live in Hong Kong」の様子。(Photo by Taku Fujii)

Salyu それはやっぱり、「to U」という楽曲のメロディが一般的に定着した今だからこそできるアレンジなのかって思ってるんですけど、歌うほうとしてはかなり難しいんですよね。スタジオで今回のアレンジのオケに前回のボーカルテイクが乗っているものを聴いて、「小林さん、これ前のほうが絶対いいと思いますよ」って言ったんです。「もうこの声出ないし」って。当時、私すごくふくよかだったので……。

小林 ははは(笑)。

Salyu でも小林さんが、歌詞にもあるように「『あの頃』を振り返る今」を歌うことに意味があると言ってくださって。「じゃあとりあえずやってみます」という感じで録りました。結果的には、録り直してよかったと思います。この曲とのお付き合いも長くなりましたので、曲に対しての読解力みたいなものは成長できているのかななんてことも、歌い終わってから感じました。シンプルに素直に歌うっていうことは、前だったらできなかったかも。

──Salyuさんは今、「to U」をどのような曲だと理解されているんですか?

Salyu うーん、「とにかく素直な、おしゃべりな曲」ですね。感覚的ですけど、私の中で、歌には2種類あるんです。“おしゃべり的なもの”と“楽器的なもの”。「to U」はおしゃべり的なほうと捉えていて、だから「どうやって歌を話させるか」ということを考えました。今回のレコーディングを通して、より「to U」でおしゃべりができるようになったんじゃないかなって思っています。

“一期一会感”が増している

──「to U」以外でも曲に対する理解が変化していくことってあるんですか?

「Salyu Live 2017 in Billboard Live」東京・Billboard Live TOKYO公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

Salyu うんうん、ありますよ。曲への理解とか読解力って言うか、曲へのモチベーションって言うほうが正しいかな。やっぱり生きていくうちにいろんなものに対する価値観って変わってくると思うんですけど、そういった変化によって曲の意義みたいなものは変わっていきますね。具体的に「この曲がどう」みたいな話はできないんですけど、1曲1曲にそういう変化はあると思います。その変化を意識しながら歌うことで私も1つ成長できますし。

──それが先ほど小林さんがおっしゃった「生命力が強くなっている」ということにつながっているんでしょうか?

Salyu そうだったらうれしいですね。

小林 今年の3月11日に仙台でやったライブ(東日本大震災 復興応援ライブ「The Unforgettable Day 3.11」)でのSalyuがすごかったんです。MCもかなり飛ばしていて、もう“外す”と言うレベルを超えるくらい面白い状態で……とにかくその日の「to U」はものすごいエネルギーに満ちていたよね。一緒にステージに立つときは、2人で呼吸しているみたいな関係だから、ある程度僕が仕掛けると言うか、先行して場の空気を作っていくんですけれど、あの日は僕のコントロールのもう1段階上、さらにエモい感じの「to U」だった。だからコントロールするには若干難があったけれど(笑)……パワーが出てきたってことなんだろうね。

「Salyu Live 2017 in Billboard Live」東京・Billboard Live TOKYO公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

──それは「制御できないぐらいの感情が出てくる」とかそういうイメージですか?

Salyu そういうことじゃないですよね……(笑)。

小林 いやいや、そういうことに近いんじゃないかな。別に泣きじゃくるみたいなことはないですけど、その日そのときにしかできないライブが増えていて……“一期一会感”みたいな感覚は増してる感じはしますね。

Reborn-Art Festival 2017

2017年7月22日(土)~9月10日(日)
会場:宮城県 石巻市 / 提携会場:松島湾(塩竈市、東松島市、松島町)、 女川町

Reborn-Art Festival 2017 × ap bank fes
  • 2017年7月28日(金)宮城県 国営みちのく杜の湖畔公園
    出演者 Bank Band / エレファントカシマシ / Awesome City Club / 大森靖子 / KICK THE CAN CREW / 水曜日のカンパネラ / スガシカオ / 秦基博 / back number / Mr.Children
  • 2017年7月29日(土)宮城県 国営みちのく杜の湖畔公園
    出演者 Bank Band / ART-SCHOOL / ACIDMAN / きのこ帝国 / ゲスの極み乙女。 / TK(凛として時雨) / Chara / 藤巻亮太 / ぼくのりりっくのぼうよみ / Mr.Children / LOVE PSYCHEDELICO
  • 2017年7月30日(日)宮城県 国営みちのく杜の湖畔公園
    出演者 Bank Band / 銀杏BOYZ / Salyu / 竹原ピストル / 七尾旅人 / NOKKO / ペトロールズ / Mr.Children / Mrs. GREEN APPLE / WANIMA
post rock opera「四次元の賢治 -第1幕-」

2017年8月29日(火)宮城県石巻市内(※詳細は近日発表)
2017年8月30日(水)宮城県石巻市内(※詳細は近日発表)

原案:宮沢賢治
脚本:中沢新一
音楽:小林武史
映像:伊藤存
出演:オオヤユウスケ(Polaris / SPENCER) / Salyu / 佐藤千亜妃(きのこ帝国) / 桐嶋ノドカ
ナレーション:安藤裕子

Salyu(サリュ)
Salyu
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。 また、2011年からは新プロジェクト「salyu x salyu」としての活動を開始し、Cornelius=小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。以降2つの名義で並行してリリース活動、ライブ活動を行っている。
小林武史(コバヤシタケシ)
小林武史
音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.ChildrenやSalyu、back numberといった数多くのアーティストのプロデュースを手がける。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」といった映画音楽も担当し、2010年公開の映画「BANDAGE(バンデイジ)」では監督も務めた。2003年、坂本龍一、櫻井和寿(Mr.Children)と共に一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざまな活動を行っている。Reborn-Art Festivalでは、実行委員長、制作委員長を務める。