「ゾッキ」Chara×HIMI|母と子の自然なセッションから生まれた歌

映画「ゾッキ」のオリジナルサウンドトラックが3月31日に発売された。

4月2日公開の映画「ゾッキ」は、マンガ家・大橋裕之の初期短編集「ゾッキA」「ゾッキB」のエピソードを多数織り交ぜて実写化した作品。竹中直人、山田孝之、齊藤工の3人が監督を務め、Charaが音楽監督を担当した。サウンドトラックには、Charaと息子のHIMIが歌う主題歌「私を離さないで」のほか、ドミコ、ドレスコーズ、Salyu、仲井戸“CHABO”麗市、quu、AAAMYYY、ermhoi、Julia Shortreed、韻シストBAND、LeyonaとBASI、MELRAWらが参加した書き下ろし曲が収録されている。

音楽ナタリーでは映画の公開とサウンドトラックの発売を記念して、CharaとHIMIにインタビュー。親子で主題歌を歌うことになった経緯や制作のプロセス、さまざまなアーティストが参加したサウンドトラックについて話を聞いた。

取材・文 / 三浦良純 撮影 / 前田立

音楽は3人の監督の作品をつなぐ1本の糸

──Charaさんが映画「ゾッキ」の音楽を担当することになったきっかけや、参加するにあたって考えたことなどを聞かせてください。

Chara

Chara この映画は、どうしても作りたいという竹中(直人)さんの思いから始まってると思うんですけど、音楽が好きな彼の直感で私は声をかけてもらって。「いいよ、全然やるよ」ってラフな感じで引き受けました。「映画の音楽やるぞ!」ってそんな気合い入りすぎな感じではなく、全然違う3人の監督の作品をつなぐ1本の細い糸になればいいなと思いながら作りました。

──制作はどのように進めていったんですか?

Chara それぞれの監督と会って打ち合わせできない状況だったんだけど、間違いがないようにLINEとかで、それぞれの監督にイメージを聞いて、どのシーンに音楽が必要かを最初にしっかり確認させてもらって。私がここに入れたいと思っても実際いらないってなったら困るし、制作費がめっちゃあるというわけでもないので、無駄がないように。この映画はそんなにたくさん曲いらないかなとも思ったんです。

──音楽が流れる場面はかなり絞られていますよね。どれもすごく素敵な曲なんですけど、映画の中で聴けるのは、ほんの一部ですし。

Chara そうなの。役者さんの演技を邪魔しないものにしたかった。

遊びの一環で普段からセッション

──HIMIさんはどういう経緯から主題歌「私を離さないで」に参加することになったんですか?

Chara HIMIとは一緒に住んでるから、家でレコーディングするときにたまたまいて。一緒に作ろうよみたいなノリですね。

──なるほど。これまでも2人で共作することはあったんですか?

Chara セッションは昔からしてるよね。

HIMI 仲いい方だし、うちはずっと音楽が鳴ってるから。

Chara たまたまいたから「ドラム叩いてよ」みたいなことはこれまでもあったよね。

HIMI

HIMI 「世界」(2006年9月発売のCharaのシングル)のドラムとかね。

Chara そうそう。HIMIがまだ小さいときに「図書券2000円分あげるからママのあとに歌って」って頼んで、「イェイ! イェイ! イェイ! カモン!」みたいな感じで歌ってもらったり。遊びの一環というか、絵本の読み聞かせみたいなものですよね。まあミュージシャンの親子ってこういう感じなのかなって思うし、セッションとかも本当に普通のことですけど、ここ2年くらいは特にね。

HIMI 僕が自分でも音楽を作り始めて。

Chara 気が付いたらHIMIもミュージシャンになってたから、こっちの機材のスペースで私が作ってて、向こうの部屋ではHIMIがレコーディングしてる、みたいな感じなんです。

「俺はミュージシャンだから」と思ってた

──HIMIさんが本格的にアーティスト活動を始めたきっかけは?

HIMI 先に役者としての活動を始めていたから、周囲には「役者」として見られるんですけど、「俺、ミュージシャンだから」と思ってたし、それをちゃんと出していかなきゃいけないなと思ったんです。それで2年くらい前に本格的に曲を作り始めました。そのタイミングでいろんな新しい友達に出会って、レーベル(ASILIS。PERIMETRONの企画プロデューサー西岡将太郎らも参加)も立ち上げて。

Chara そしたらコロナになっちゃったんだよね。本当はツアーもやるはずだったんだけど。

──CharaさんからHIMIさんに音楽活動を勧めるようなことはあったんですか?

Chara そういうふうに言うと「俺の人生なのに」って反発されるかなと思うような時期もあって。ほっとけばいいかなって。

HIMI そう、放任ですよ。

Chara 高校時代には留学もしたんですよね。それで外に出たら、やっぱり音楽がやりたいと思ったのかな?

HIMI うん。ドラムやギターが家にあって、それをわーっと演奏したり、お風呂で歌ったりするのが子供のときから好きだったけど、その頃から今まで音楽が一番好きなのはずっと変わりなくて。

Chara お風呂で超歌うんだよね。

──HIMIさんはCharaさんのアーティスト活動をどのように見ていたんですか?

HIMI 家で作ってるから、曲は世に出す前から全部覚えてるような感じでした。

Chara

Chara 作ってる途中に「前のほうがよかった」とかよく言われてた(笑)。「なんで変えちゃったの?」みたいな。

HIMI まあ普通に好きですね。好きな曲はいっぱいあって普段も聴いていますし、尊敬しています。アーティストとして、いろんな時代に活動していて。

Chara うれしいですね! 私は普通のお母さんより機材が好きで意見が言えるから、その点はHIMIがアーティスト活動をする上で便利なんじゃないかと思う。私の周りのすごいおじさんたちもHIMIのことをかわいがってくれるし。でも、二世とか言われるのは本人からしたら「え?」みたいな感じだと思う。

HIMI 周りに言われて気付くくらいな感じ。結局は自分次第だと思う。

Chara うん、自分次第。HIMIに才能がなかったら、私の周りの人たちも一緒に何かやろうとは思わないだろうし。いろいろやってみたらいいと思うんですよね、若いときって。

何かにしがみついて生きている人たち

──「私を離さないで」はどのように作っていったんですか?

Chara 私の中に曲のイメージがあったからAメロを作って歌っていて、そのあとどうしようかなって考えてたら、BメロくらいからHIMIも一緒に考えてくれたんだよね。

HIMI

HIMI 最初はギターで弾きながら考えて。

Chara そしたらすごくいいサビのメロディが出てきて、「あ、いいねそれ」って。サビは彼の作ったメロディなんです。

──自然なセッションから曲ができていったんですね。この曲にはギターで君島大空さん、ベースで山本連さん、ドラムで伊吹文裕さん、フリューゲルホルンで石川広行さん、サックスで安藤康平(MELRAW)さんが参加しています。

Chara 今回、音楽の助監督がいてほしいなと思って。いろんな楽器のことがわかる真面目な人、ということで安藤くんに声をかけたら「やりたい」って言ってくれたので、サウンドプロデュースをお願いしました。彼はmillennium paradeのメンバーでもあるけど、本当になんでもできるし、いろんな若手のミュージシャンとつながっているから。例えば君島くんとセッションしたいって伝えたら安藤くんがつなげてくれた感じでした。

──「私を離さないで」というタイトルから同名の小説(カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」)も連想しましたが、関係はありますか?

Chara ああ。直接関係はないんですけど、すごく切ない物語。

HIMI 竹中さん、切ないの大好きだから。

Chara でもあんまり切なすぎると「岩井俊二監督みたいだ」みたいに言うと思うんだよね。むしろ私、岩井監督の作品出身という感じなんだけど(笑)。テーマに関して言うと、私はエーリッヒ・フロムの「愛するということ」という本がすごく好きで、昨日も少し読んでたんだけど、仕事でもなんでも一生懸命やることは愛することにつながるということが書かれていて。

──そのようなテーマが楽曲に込められているんですか?

Chara そうですね。「ゾッキ」という作品について、「何かにしがみついて生きている人たち」というイメージがあったんですよね。

「映画『ゾッキ』オリジナル・サウンドトラック」ジャケット

HIMI 必死に生きている感じだよね。

Chara うん。それで言うと、サントラのジャケットも気に入ってるんですよね。大橋(裕之)さんが描いた目のイラストなんだけど、子宮にしがみついてる赤ちゃんみたいにも見えて(笑)。

──おお、なるほど。

Chara あんまり意識はしてなかったんだけど、この曲をHIMIが歌うことは、そういう部分にもつながるし、美しい形かなと思いました。