ナタリー PowerPush - Salyu
新しい挑戦に満ちたシングル「青空 / magic」
salyu×salyuとSalyuは違うもの
──レコーディングは最近やられたんですか?
もう最近です。「Split The Difference」のあと、結構時間を空けずにポンと曲ができ上がってきたんですが、salyu×salyuの活動も決定してましたし、それを終えてからのリリースということで、アレンジもその場ですぐには進まなかったんです。で、salyu×salyuのツアーがしっかり終わってからアレンジにかかって、2番の歌詞が付いて。
──じゃあ本当に最近なんですね。
そう、叩き台みたいなものは前からあったけれども、実際リリースに向けて動き出したのはsalyu×salyuの後ですね。
──でも意外と早かったですね。salyu×salyuのあと、もうちょっと間を空けるのかと思ってましたけど。
ふふふ、そうなんです。
──それはもう、早くやりたいっていう?
アルバムを早くリリースしたいなっていう気持ちはあったんですよね。前回のSalyuのアルバム、そしてツアーっていう活動においての手応えもあったし、Salyuとしてはちょっとそこから空いてしまってたので。やっぱり王道のポップスを目指してるSalyuとしては、あまりメディアから遠ざかってしまうのも……。
──ああ。salyu×salyuとSalyuは絶対違うものであるという。salyu×salyuでいくら露出してても、それはSalyuとしての露出ではないから違うと。
そうですね、違いますよね。SalyuはSalyuで。そうしていかないと続いていかないと思うんですよね。私の一番の目的は両立なんです。Salyuとsalyu×salyuっていうそれぞれのプロジェクトが両立して、2つの次元で生活していくっていうスタンス。それをより充実させていきたいっていう気持ちもあるから、ちょっと慌てているようですけれども、うん、今後続けていけるために大切なポイントじゃないかな、って思うんです。
──じゃあ、その両方をやることによって、自分自身のアーティストとしての表現欲求が満たされる、という思いがある?
そうですね。それが大きいですね。
自分にとって切り替えなきゃいけないポイントがいくつもあった
──これ前にもお聞きしたと思うんですけど──もちろん曲を作る人が違うっていうのは大前提としてあるんですけど──Salyuとsalyu×salyuで、歌っていて自分の気持ちの入れ方とか、取り組み方っていうのはどういうところが変わってきます?
そうですね……まず、salyu×salyuの歌のアプローチってプレイヤーに近い。もちろんSalyuであってもsalyu×salyuであっても、フロントのボーカルであることや、果たすべきパワーみたいなものはそんなに違わないとは思うんだけど、salyu×salyuのほうがプレイヤーに近い。だから構築されてる、いろいろな楽器すべてに対してアプローチが必要というか。特に小山田さんの楽曲ってビート感がすごく重要なので、それを狂わさないためにも、ときには“気分”が必要ないときもありますし。私も1個の要素として、どうやってひとつの大きな曲を成立させるかっていうアプローチを取ってると思うんです。それに対して、Salyuっていうのはもっと、プレイヤーっていうよりは……。
──楽曲の中のいちパーツというよりは、歌い手としてのアプローチ。
うん、そうですね。どちらかというと、そうなんです。自分のバイオリズムで感じたままに表現するっていう、そういう感覚なんだと思います。
──その切り替えは結構大変だったんじゃないですか? 今回のレコーディングって、salyu×salyuのツアーをやってる最中とか終わった直後とか、そんな感じですよね。
そうなんですよ。違うものではあったので、大変っていうか、うん、工夫が必要でしたね。
──どんな工夫ですか。
例えば、いかにコンパスとか定規とか三角定規とか(笑)いろいろな道具を使って綺麗な線を描いたり、点を打ったりっていうことを楽しむのが「s(o)un(d)beams」だったとしたら、「青空」っていうのはもっと、墨に筆をバーンって浸してひと筆でガーンと文字を書くようなものなんですね。まったく違う美が必要とされるんで、「青空」をどういうふうに歌うか悩んだんですよ。
──Salyuの楽曲としても、これまでにない感じの楽曲ですものね。しかも桜井さんの楽曲だし。
そうですね。自分にとって切り替えなきゃいけないポイントっていうのがいくつもあって。作曲者が初めてであることとか、salyu×salyuの体からSalyuを歌う状態に切り替えなきゃいけないとか(笑)。そういうことがあった分、楽しかっただけじゃない、でもすごく意味のある葛藤みたいなのはちょっとありましたね。
どういうメロディラインを描いてほしいか提示している歌詞
──今回の歌い方は、salyu×salyuの歌い方とも、小林さんとみっちりやってこられた頃の歌い方とも違ってますね。もっと開放的というかリズミックな感じになってるのは、楽曲に合わせてなんですか?
そうですね。桜井さんの場合……歌詞がどういうメロディラインを描いてほしいか、提示してあるんです。「足元の影法師を ひとつふたつ」っていうところは、これ絶対テヌートで歌うラインじゃない、スタッカートを入れながら表現したい。歌詞だけで曲になってるから、どうやって歌ったらいいかな、そういう探し方をしていったと思うんですね。歌詞をかなり朗読して、どういうふうにメロディラインを描いたらいいか。いただくメロ譜って別にアクセントとかスタッカートとか付いてないから、自分でもっと楽譜を充実させてかなきゃいけないから。
──楽譜には書いてない歌い方のニュアンスみたいなことは、自分で考えなきゃいけない?
そうですね。ただ、歌詞によっては、どうしてほしいかって具体的に提示してあるところもある。ここはもうちょっと具体的に主張できるといいなとか、スキル的なディレクションを受けたこともあるんですけれども、基本的には、ニュアンスというか表現というのは、自分で見つけていくんです。
──それは今までもずっとそうだったんですか。
それがねえ、こんなに慎重に探してったのは、今回初めてかもしれない。仮歌を歌ったりして、それを受けて「もっとここはこうなるといいね」という補足っていうか、そういう形でのアドバイスは桜井さんからありましたけどね。「こうするともっとキャッチーになるんじゃないか」とか「サビの3連をもうちょっとタメてみたらどうですか」とか。「♪スターンターンターンターンっていうところを少しだけどタメたりするともっとキャッチーになるよ」って。ポップスボーカリストから言われる、すごく具体的なディレクション。
──気分で言ってるんじゃない。
ね。すごく刺激的だった。
Salyu(さりゅ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2006年にBank Band with Salyuとして「to U」、2008年にはWISEとのコラボによる「Mirror feat. Salyu」をリリースするなど、他アーティストのコラボにも意欲的。自身のオリジナルソロ作品もコンスタントに発表し、2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。
2010年3月にソロとして3枚目となるアルバム「MAIDEN VOYAGE」をリリース。2011年からは新プロジェクト「salyu x salyu」としての活動を開始し、Cornelius=小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。同年7月、小林武史プロデュースのニューシングル「青空 / magic」を発売。収録曲「青空」を桜井和寿(Mr.Children)が提供したことでも注目を集めている。