ナタリー PowerPush - サカナクション

あの“革新的音楽体験”がもたらしたもの

僕の中で究極のライブはゆらゆら帝国

──サラウンドシステムによって、会場の前後左右に広がるオーディエンスがほぼ同質の音像を体感できることで、自ずとフロアの一体感も高まりましたよね。本番中にステージ上から見るフロアの光景はどんな感じでしたか?

僕らのライブの面白いところって、縦ノリと横ノリが混在しているところで。ダンスミュージックを浴びて踊り慣れている人もいるし、大勢で同じ動きをしたい人もいるんです。幕張はいつも以上にいろんなタイプのお客さんが混在していて、いい意味でのカオスが生まれてるなって思うことが幾度となくありましたね。そこはしてやったりというか。

──「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」や「Aoi」での、コーラスのシャワーを浴びるような音像はホントにすごかったです。

山口一郎(Vo, G)

コーラスをサラウンドでどう生かすかはスタッフとかなり話し合いました。音の速度って意外と遅いから。幕張くらい大きな会場だとすべてのスピーカーから音を出すと、真ん中のベストポジションにいる人は時間差なく音が聴けるんだけど、最前列や最後尾にいる人は近くにあるスピーカーのほうから先に音が聞こえちゃうんですよ。そうすると音像の気持ちよさが失われるんです。だから、コーラスで会場を包み込もうとするときに全部のスピーカーから音を出すんじゃなくて、前からだけ出して、サイドとうしろは残響音だけ出したんです。そうするとハコ全体がコーラスに包まれてるような感覚になるんですよ。幕張はそれがすごくうまくいきましたね。

──幕張公演は、一郎くんがずっと目指していた理想のライブ空間が具現化されたとも言えますか?

うーん、でも、やっぱり難しいですよ。僕の中で究極のライブってゆらゆら帝国なんですけど。僕がゆら帝のライブを観ているときは、始まって本編が終わるまでずっと食らいっぱなしなんです。その音楽と世界観にずっとハメられていて。

──ナチュラルに恍惚とする感じがありますよね。

うん。ただ、あのライブ感って、ポップスや歌モノしか聴いてこなかった人からすると、ちょっと難易度が高いと思うんですよ。素晴らしいものだけに。でも、サカナクションの音楽はポップソングとして受け入れてる人たちがたくさんいて。その人たちをどれくらいナチュラルにハメていけるか。今回のツアーでもその加減はかなり気をつけてましたね。派手ではあるけど、アナーキーでもある。そのバランスってアルバムの内容によっても変わってくるし、追求してもしきれない部分で。まだまだやれることはあると思います。

ワンマンでレイブパーティをやってみたい

──サラウンドシステムは今後も積極的に導入しようと考えてますか?

ドルビーさんが今回のライブを気に入ってくださったのなら、ぜひ(笑)。自分たちもいろんな可能性を感じることができたし。例えばこれが野外ならどうなるんだろう?とか。もちろん音が風で流されるから平等には届かないけど、音が返ってこない分、ダイレクトに伝わると思うんですよ。それを踏まえて、屋内会場よりもさらに面白いことができるんじゃないか?って思ったりもするし。

──新しいレイブ体験みたいなライブができたら面白い。

そうそう。昨今の若者たちが外で音楽を聴くっていったら、フェスしかないじゃないですか。しかもショーケースのように次から次にバンドが出てきて、転換があって、休憩する場所があって、夜になったらみんな家に帰っていくという。そういう行儀のいいフェスばかりで。お客さん同士も音楽が好きというつながりはあるけど、同じミュージシャンの音楽を求めてるという共通点は分散されますよね。フェスだから当然なんですけど。だから、僕らはワンマンでレイブパーティをやってみたい。レイブっていったら不健全な感じがするかもしれないけど、今この日本で不健全なレイブをやろうとしても無理だし(笑)。野外で、大きな音で1組のバンドの音楽を聴くという感動を味わうことが日本の音楽シーンで当たり前になったら、もっと面白いことが起こると思う。だって、もし10代で生まれて初めてのキャンプと生まれて初めてのレイブを同時に経験したら、その子の音楽人生は確実に変わりますよね。しかも目の前にいるたくさん人たちが同じミュージシャンの音楽を求めていて。そういう光景って特別だと思うんですね。

──例えば盆踊りに行くのと同じような感覚でそういう音楽体験ができたらいいですよね。

そうそう。お祭りとか花火で大勢の人が集まって、大人も子供も同じイベントを共有するあのドキドキ感ね。あとは、ただ音楽を楽しむだけじゃなくて、音楽のあり方を知ってもらうこともすごく大事だと思っていて。例えばワークショップのように高校の先生が生徒を何人か引率して課外授業として来れるレイブパーティがあってもいいと思うし。

──素晴らしいですね。

そういうことをいつかやりたいなと思いますね。それは今回のライブを経て生まれた目標でもあります。

ここまできたら確固たる存在になりたい

──今後のサカナクションの音楽的なビジョンはすでに描いているんですか?

今、新曲を作りながら一生懸命探ってます。「sakanaction」は踊れるグルーヴを意識して作ったアルバムだったんですね。歌詞における言葉の乗せ方も意味を成しながらリズムを失わないようにするとか、そういった細かいところに気を遣った分、いい意味でのストレスがあって。でも、今作ってる曲はホントに自由なんですよ。

──どれくらい自由なんですか?

山口一郎(Vo, G)

ラップとも言えず、フォークとも言えず、なんて形容していいかわからない曲がちょこちょこ生まれていて。打ち込みから離れてバンドの生演奏で一気に駆け抜けたい気持ちもあるし、逆にもっと打ち込みを極めたいという気持ちもある。いろんなことが錯綜しているけど、それは僕個人のモードでもあって。「sakanaction」はメンバー5人の意識が入ったアルバムでしたけど、また次のフェーズに向けて4人も僕と同じようにいろんな音楽を聴いてるだろうし、いろんな研究や勉強をしていると思うので、また5人で集まったときに話し合って曲を形にしていけたらいいなと思います。

──そこから「表裏一体」に次ぐテーマが生まれるだろうし。

うん。でも、まず思うのは、やっぱり僕は「今」を歌いたいですね。すごく不安定な時代だけど、なぜ不安定なのかを一言でパンと言い当てたり、ひとつの音楽で表現できたら、それはきっと大衆に響くと思う。ここまできたらサカナクションはホントの意味でマジョリティのなかのマイノリティとして確固たる存在になりたいと思うし。そこを目指すためにも踏み込んだポップソングやバラードを作らなきゃいけないのかなという気持ちも出てきてます。そのあたりも曲を作りながら定まっていくのかなと思うんですけど。ただひとつ確実に言えるのは、流行ってる音楽やポップスを聴くのが恥ずかしくなってそこから卒業する人たちの受け皿になるような存在って、オーバーグラウンドにあまりいなかった気がするから。僕らはそこを役割として担って、うまく自分たちの音楽を作っていけたらなと思ってますね。

サカナクションがこの夏出演するフェスも続々放送!
WOWOWライブ「現地より生放送!ROCK IN JAPAN FES.2013」

2013年8月2日(金)15:00~
2013年8月3日(土)15:00~
2013年8月4日(日)15:00~

WOWOWライブ「現地より生放送!SONICMANIA 2013」

2013年8月9日(金)22:30~

サカナクション
サカナクション

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースし、全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction」を開催した。