ゲスの極み乙女。結成10周年インタビュー「特異な個の集合体が歩んだ10年を『丸』に込めて」、親交ある3組のプレイリストも

今年結成10周年を迎えたゲスの極み乙女。が初のベストアルバム「丸」を発表する。このアルバムの収録曲は、なんと1曲だけ。10年の歴史から選び抜かれた25曲がマッシュアップとメガミックスの手法で「Best track」と名付けられた1曲に生まれ変わるという、なんとも彼ららしい遊び心を感じさせる仕上がりだ。また、同日にはベストアルバムとリミックス集をセットにしたデジタルアルバムも配信され、こちらにはドラマ「復讐の未亡人」の主題歌でもある「青い裸」を含む、2曲の新曲が収録されている。

音楽ナタリーはゲスの極み乙女。に「丸」のコンセプトや、6月に幕張メッセ・幕張イベントホールで開催される結成10周年記念公演「解体」について聞くとともに、特異な個の集合体であるゲスの極み乙女。のバンドストーリーを紐解いて、彼らが描いた10年の円環に迫った。

また特集後半には、ゲスの極み乙女。と親交のある北村匠海(DISH//)、Vaundy、山口一郎(サカナクション)からのコメントと、彼らが選曲したゲスの極み乙女。ベストプレイリストを掲載する。

取材・文 / 金子厚武撮影 / YURIE PEPE

迷ったのは「どこを削るか」

──結成10周年を記念したベストアルバムをリリースするわけですが、「ベストアルバムなのに1曲だけ」という、ゲスの極み乙女。らしい遊び心と批評精神を感じさせる仕上がりになりましたね。

川谷絵音(Vo, G) もともとベストアルバムは2018年頃に出す予定だったんです。それまでにリリースした作品のジャケットを集めた巨大パネルを作って、その前でアーティスト写真を撮影をしたり、今回のDVD / Blu-rayに入ってる「crying march」や「だけど僕は」のミュージックビデオも撮影しました。でも制作が終わる直前、最後の最後に僕が「やめよう」って言って、ぶっ壊したという。

ゲスの極み乙女。

ゲスの極み乙女。

──それはなぜだったんですか?

川谷 時代的にベストアルバムを出す理由ってあるのかな?と思ったのもあったし、その頃に米津(玄師)と仲よくなって、「もっと美しい曲を書きなよ」みたいなことを言われて、「もう切ないとは言わせない」という曲を書いたことも大きかった。そこからやっぱりベストアルバムじゃなくてオリジナルアルバムを作りたくなって「好きなら問わない」(2018年8月発売のアルバム)ができたんです。ただ、ベストを出すなら10周年のタイミングしかないというのは、そのときからワーナーと話をしていました。

──でもやっぱり、普通のベストアルバムにはなりませんでしたね。

川谷 普通にベストアルバムを出しても、「プレイリストでいいじゃん」ってなっちゃうから、何か面白いことをしようと思ったんです。僕らは「ストリーミング、CD、レコード」というアルバムをリリースしたときに歌詞カードとバームクーヘンだけの形態で販売したんですよ(参照:ゲスの極み乙女。アルバムは世界初の“賞味期限付き”、CDの代わりにおいしいバームクーヘン)。あのときのチームと一緒に今回もいろいろ話して、こういう形のベストアルバムになりました。ベストアルバムをリリースする前に10周年記念公演のタイトルが「解体」に決まっていたので、そのワードから「曲を解体して、ベストアルバムを1曲にする」というアイデアが出たんです。普通だったらあり得ない、矛盾した言葉がキャッチーで面白いんじゃないかなって。

──“1曲聴き”が主流のサブスク時代を逆手に取ったアイデアですよね。

川谷 まあその時点ではどう1曲にするかという具体的なアイデアがあったわけではなくて。そこから考えていく中で、ただ曲をつなげるだけではなく、曲と曲をマッシュアップして、完全な新曲みたいな形で1トラック30分とかにできたらいいですねとまとまったところで……ちゃんMARIに丸投げしたっていう(笑)。

川谷絵音(Vo, G)

川谷絵音(Vo, G)

川谷絵音(Vo, G)

川谷絵音(Vo, G)

ちゃんMARI(Key) 私とPARKGOLFの2人で作業しました。本当にがんばった(笑)。

──これは相当な力作ですよね。マッシュアップであり、ミックスCDのようでもあり、聴いたことのないものになってるなと。

ちゃんMARI 実はそもそもマッシュアップがどういうものなのかあんまりわかってなかったんですよ。だからまずはいろんな人のマッシュアップを聴いて……Daft Punkと吉幾三さんのやつとか(笑)。

川谷 そこなの?

ちゃんMARI もちろんほかにもいろいろ聴いて、「メガミックスは普通こうする」みたいなことをPARKGOLFから聞きつつ、先に曲を選んで曲ごとにどういうトラックを使うか細かく決めていきました。使いたいところばっかりだから「どこを削るか」でけっこう迷いましたね。特に伝えたい部分はどこかを探して、詰めていきました。もともと使う曲はメンバー4人で決めて、1回それを並べたうえで、「この曲も必要だな」っていうのを足して、最終的にこの25曲になったんです。

僕らの10年を全部知っている人がやることに意味がある

──できたトラックを聴いて、メンバーの皆さんはどんな印象でしたか?

休日課長(B) 聴く前はまったく想像ができなかったんですけど、“想像以上のクオリティ”だったというか……本当にびっくりしました。フレーズの位置関係が変わっているところもすごいと思ったし、新たな魅力が生まれていましたね。

ほな・いこか(Dr) 企画段階でYouTube用のティザー映像を先に撮って、そのときはまだちゃんMARIも手を付けてなかったんですけど……「ベストアルバムなのに1曲」って、そもそも意味がまったくわかんないじゃないですか(笑)。

──ですよね(笑)。

いこか だから最初は本当にどうなるんだろうなと思ったんですけど、できたものを聴かせてもらったら、ただただすごいというか。ゲスの極み乙女。の曲なんだけど、ちゃんMARIが作るとちゃんMARIの作品になるんだなと思いました。ちゃんMARIがすごいのは前から知ってたけど、また新たな一面を見れた。本当に素晴らしい作品をありがとうございます!

ちゃんMARI えへへ(笑)。

──YouTubeの映像を撮ったときは、トラックがどうなるか誰1人見えてなかったわけですよね。

ちゃんMARI そういうことです(笑)。

ちゃんMARI(Key)

ちゃんMARI(Key)

ちゃんMARI(Key)

ちゃんMARI(Key)

──でもその感じもゲスっぽいというか、アルバムも毎回先にタイトルを決めて、そこに向かって動いていく作り方だし、そうやってワードやアイデアを面白い形で具現化させていくということを10年やってきたバンドですよね。

川谷 そうですね。「受験勉強するには先に志望校を決めないと、どの赤本解いていいかわからない」みたいな(笑)。例えば「両成敗」(2016年1月発売のアルバム)というタイトルを先に決めることで、みんなの頭の中でその言葉が共有されたり。まあ、今回もどうなるかは正直わからなかったけど、ちゃんMARIに振っておけば間違いないという自信が僕の中にあった。あとこの作業は僕らのことをよく知らない人がやったらトンチンカンなものになる可能性が高かったし、それだったらもうメンバーにしかできないと思って。というか、僕らの10年を全部知っている人がやることに意味があるんですよね。

──確かに。

川谷 10年全部を知ってるちゃんMARIが作ったトラックだからこそ、僕らもこれを聴いて走馬灯のように10年いろいろあったことを思い出したし、曲はもちろん、「この曲のこのフレーズいいな」ってフレーズ単位で自分たちの音楽の魅力を再確認することができた。ファンの人にもきっとそうやって楽しんでもらえると思いますね。アイデア先行でスタートしたけど、ほかにこういうことをやってる人はいないし、僕らは各楽器の音がちゃんとフレーズだけでも聴けるようになってるバンドなので、このやり方が通用したなとできあがってから思いました。

──確かにゲスの楽曲はキャッチーな歌ものであると同時に、それぞれのプレイヤーとしての魅力が存分に発揮されていることが特徴ですもんね。だからいいフレーズが曲ごとにたくさんあって、その分さっきちゃんMARIさんが言ってたように「どこを削るか」が難しい。

ちゃんMARI そうなんですよね。もう1回違う形で聴いてみたいと思う箇所がいっぱいありすぎて。

──普通に1曲で聴いても楽しいし、ファンの子たちは「このフレーズはどの曲のどの部分」みたいに探すのも楽しめるでしょうね。

ちゃんMARI ドラムとかけっこう難しいから、全部はわからない気がしますけどね(笑)。いろんな楽しみ方をしてほしいです。