アメリカで爆発的な人気を誇る、現在Huluで配信中のドラマ「POWER / パワー」。ラッパーの50セントが製作総指揮を手がけた本作。主人公のジェームズ“ゴースト”セントパトリックは、ニューヨークで一番イケてるクラブを経営している。だが裏の顔はカリスマ的ドラッグディーラー。クラブ経営とドラッグディール、そして仕事と仲間、家族と恋愛。さまざまな要素が複雑に絡み合い、物語を織り成していく。
今回音楽ナタリーでは、国内外のヒップホップシーンをよく知るZeebraに「POWER / パワー」のシーズン1を視聴してもらい、インタビューを実施。ヒップホップはもちろん、さまざまな文化から人種に至るまで、アメリカに深い造詣を持つ彼ならではの視点から本作の魅力を読み解いてもらった。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 後藤倫人
「POWER / パワー」は50セント版「ゴッドファーザー」?
──「POWER / パワー」のシーズン1を見た感想を教えてください。
50セント版の「ゴッドファーザー」や「カリートの道」みたいだと思った。いわゆるクライムストーリーだけど、ドンパチだけじゃなくて家族や恋愛、友情もちゃんと描いてる。すごく正統派なドラマだよね。だからアメリカでもヒットしたんだと思う。
──クラブ経営とドラッグディール、そして仕事と仲間、家族と恋愛……このドラマには本当にいろんな要素が盛り込まれていますよね。
50セントが製作総指揮だと聞いて、オープニングを観た時はドラッグディーラー版の「オーシャンズ11」みたいな話かも?と思ってたの。そしたら第1話でジェイミー(ジェームズ“ゴースト”セントパトリック)が、いきなり昔の彼女・アンジェラ(・ヴァルデス)と再会するじゃん。ターシャという奥さんがいるのに。あの辺の感情の動きが妙にリアルでさ。俺も「20年前の彼女と再会したら……」とか想像しちゃったよ(笑)。共感しやすいポイントを絶妙に混ぜてるところがうまいよね。
──50セントは主演映画「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」をはじめ、俳優業に積極的ですよね。
たぶん50セントは昔からハリウッドで仕事がしたかったんだろうね。アメリカだとヒップホップゲームを制したら、次はハリウッドを目指すんだよ。一番有名なとこだとウィル・スミス。今や知らない人のほうが多そうだけど、彼はもともとザ・フレッシュ・プリンスっていうラッパーだった。あと俺が最初にアイス・Tを知ったのは、1984年に公開された「ブレイクダンス」という映画だったし。そういう流れの中で、50セントも自然と気持ちがハリウッドに向かったんだと思う。しかし、この「POWER / パワー」には50セントのやりたいことが全部ぶち込まれてる感じがしたな。
──どういうことでしょうか?
50セントくらいの世代のラッパーたちは、マフィア映画やカンフー映画にものすごく影響を受けてるのね。現在のヒップホップの価値観も、そういうカルチャーのカッコいいところをミックスしてできあがっているところがあって。「POWER / パワー」には、その辺りのクラシックムービーからの影響がモロに出てるんだよね。例えば、ドラッグディーラー同士が顔を叩いて頬にキスするシーン。普通に考えて、黒人はあんなことしないでしょ(笑)。あと中華料理屋でミーティングしたりとか。カッコいいラッパー像を作り上げるように、50セントは「洗練されたドラッグディーラー」という架空のキャラクターを作ったんだと思う。
まるで50セントとエミネムを描いたようなドラマ
──好きなキャラクターを教えてください。
主人公のジェイミーだね。特に親友のトミー(・イーガン)との関係が面白かった。黒人と白人のコンビ。50セントは、あの2人に自分とエミネムを重ね合わせてるんじゃないかな? 実際、トミーのルックスはちょっとエミネムっぽいしね。喧嘩はよくするけど、お互いに心から信用し合っているのが伝わってきた。
──50セントとエミネムはどんな関係性なのでしょうか?
2人の関係性の前に、まずドクター・ドレーが白人のエミネムを拾ったとこが始まりなの。当時、ドレーはすでにヒップホップシーンの大スターだったけど、あの頃のヒップホップはどちらかというとまだ黒人のための音楽だった。だけど、ドレーがプロデュースしたエミネムが大ヒットして、白人たちもヒップホップを聴くようになったのね。興味深いのはここからで、白人のエミネムは黒人のドレーから受けた恩恵を、当時ストリートで一番悪いやつだった50セントを拾うことで、再びブラックカルチャーに返すんだよ。最近は人種間の平等や多様性みたいなことが世界中で注目されてるけど、ドレー、エミネム、50セントのラインはもう20年くらい前からインターレイシャル(異人種)な関係を体現してたわけ。
──ストリートワイズを受け継いでいく描写はドラマの中にもありましたね。
50セント演じるドラッグディーラーの大物・カナンは、もともとジェイミーとトミーのボスだった。カナンは刑務所に入っているから、ジェイミーとトミーがカナンのシマを守って、息子・ショーンの面倒も見てる。2人がショーンにドラッグディールの基礎を教えるシーンで「俺らもカナンに教わった」って話してた。ああいうのがすごくヒップホップっぽいよね。知恵がつながっていく感覚。同時に日本のヒップホップにもよく出てくる「しがらみ」も描かれていた。
──ジェイミーは裏稼業から足を洗いたいけど、トミーたちはそれを快く思ってない。その葛藤も物語の大きなポイントでした。
2人は子供の頃から同じ地元で育ってきた。楽しいことはもちろん、それこそ死ぬほどつらいことも一緒に乗り切ってきている。それは言ってみたら、自分の根っこみたいなもの。ジェイミーが裏稼業から足を洗いたいってのは正論だと思うよ。子供もいるし、堅気のほうがいいに決まってる。けど2人の関係性を踏まえると、「自分さえよければいい」って簡単にそこから抜けることはできないんだよね。だって2人はもはや他人じゃないから。家族にも等しい、いやもしかしたらそれ以上に濃い関係だから。それこそが「しがらみ」なんだよ。先輩後輩とかそういう堅苦しいものだけじゃないからこそ簡単には切れない。その理屈じゃない気持ちを、世界中のいろんなラッパーたちも歌ってるんだ。
──ちなみに日本から見ると、アメリカでは黒人は黒人同士、白人は白人同士で集まっている印象があります。ジェイミーとトミーのような関係性は普通なんでしょうか?
確かに日本のマスメディアから情報だけ見ていると、人種間が断絶しているように感じるかもしれないけど、実際はもっとフランクだと思う。人種にまつわるジョークを普通に言い合えるくらい、アメリカでは多民族が当たり前だから。それに学校には、同じ教室に黒人や白人はもちろん、ヒスパニックとかアジア系とか、いろんな子供たちがいる。そこでは当然差別もあると思う。ドラマの中で、黒人だらけの地元で白人のトミーはいつも喧嘩してた、みたいなエピソードもあったしさ。だけど、それ以前に子供たちはウマが合えば、人種とか関係なく友達になっちゃうと思うんだ。ジェイミーとトミーのような関係はリアルなんじゃないかな。
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- 「POWER / パワー」
- シーズン1~3 Huluで配信中
シーズン4が4月18日(木)からHuluで配信スタート!
- ストーリー
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ニューヨーク・マンハッタンで毎晩行列ができるナイトクラブ「TRUTH」。クラブのオーナーのジェームズ“ゴースト”セントパトリックは元来持ち合わせているカリスマ性と礼儀正しい態度でスタッフからの信頼も厚いが、裏では裕福な有力者だけを対象にした儲けの大きいドラッグ販売を営んでいた。しかし、クラブの盛況ぶりを見たジェームズは、企業家としての自信を持ち、真っ当な人生を送りたいと考え始める。一度踏み込んだ道から、抜け出す手はあるのか?
- スタッフ
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製作総指揮:カーティス“50セント”ジャクソン、コートニー・ケンプ・アグボウ
- キャスト
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ジェームズ“ゴースト”セントパトリック:オマリ・ハードウィック
アンジェラ・ヴァルデス:リラ・ローレン
トミー・イーガン:ジョセフ・シコラ
カナン:カーティス“50セント”ジャクソン
ターシャ・セントパトリック:ナトゥーリ・ノートン
ホリー:ルーシー・ウォルターズ
ショーン:シンクゥア・ウォールズ
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- Zeebra(ジブラ)
- 東京都出身のヒップホップ・アクティビスト。キングギドラのフロントマンとして1995年にデビューする。日本語ラップの礎を築いたグループとして高い評価を得つつも、翌年にグループは活動を休止。1997年にシングル「真っ昼間」をリリースし、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。日本のヒップホップシーンの顔役として活動し、2014年に自身のレーベル「GRAND MASTER」を設立。同年夏には自身がプロデュースしたヒップホップ・フェス「SUMMER BOMB」をスタートさせた。2015年にはZeebraがオーガナイズとメインMCを務めるMCバトル番組「フリースタイダンジョン」がテレビ朝日で放送開始。空前のヒップホープブームを巻き起こす。2017年、自身の長年の夢でもあったヒップホップ専門ラジオ局「WREP」をインターネットラジオとして開局した。現在、東京都渋谷区の「渋谷区観光大使ナイトアンバサダー」を務めるなどその活動は多岐にわたる。