制限緩和に伴いライブシーンもコロナ以前に戻りつつある中、日本最長寿の年越しロックイベント「New Year Rock Festival」が3年ぶりに有観客で開催されることになった。
今年は記念すべき50回目の開催ということもあり、加藤ミリヤ、高橋和也(男闘呼組)、DIR EN GREY、BAD HOPなど出演者もそうそうたる顔ぶれ。会場は2020年7月、コロナ禍の最中、東京・有明にオープンした東京ガーデンシアターが選ばれた。アリーナの後方に4層の客席フロアを扇状に配置し、どの席からもステージが見やすい立体的な構成となる日本最大級の劇場型イベントホールだ。
音楽ナタリーでは「50th New Year Rock Festival 2022-2023」の見どころを紹介するレビューと、出演者のうちAI、亜無亜危異、ANARCHY、瓜田夫婦、高橋和也(男闘呼組)、カイキゲッショク、原田喧太(KATAMALI)、KYONO、鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS)、Zeebra、J-REXXX、Shinya(DIR EN GREY)、BAD HOP、般若、JESSE(The BONEZ)、呂布カルマの16組によるイベントに向けた熱いメッセージを掲載する。
文 / 秦野邦彦
イベント情報
50th New Year Rock Festival 2022-2023
2022年12月31日(土)東京都 東京ガーデンシアター
OPEN 18:00 / START 19:00 / END 29:00
出演者
AI / 亜無亜危異 / ANARCHY / 瓜田夫婦 / 高橋和也(男闘呼組) / カイキゲッショク / KATAMALI / 加藤ミリヤ / KYONO / SHEENA & THE ROKKETS / Zeebra / 湾岸の羊~Sheep living on the edge~ / J-REXXX BAND / DJ MASTERKEY / DIR EN GREY / NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(DELI、DABO、SUIKEN、BIGZAM) / BAD HOP / 般若 / The BONEZ / 呂布カルマ / RUEED / the LOW-ATUS
Co Producer:Zeebra
Produced by HIRØ
【公式】New Year Rock Festival (@nyrf2020) | Twitter
内田裕也が守り抜いてきたもの
「紅白だけが祭じゃないぜ」をスローガンに、内田裕也主催で毎年大晦日に行われてきた「New Year Rock Festival」(以下「NYRF」)。その第1回目となる「FLUSH CONCERT -1974 NEW YEAR ALL NIGHT ROCK'N ROLL-」は1973年12月31日、同年5月にオープンした西武劇場(現:PARCO劇場)にて開催された。出演アーティストは、かまやつひろし、キャロル、クリエイション、頭脳警察、カルメン・マキ&OZ、ジャネット、ファニーカンパニー、ファー・アウト、ミッキー・カーチス&ポーカーフェイス、加藤和彦とサディスティック・ミカ・バンド、内田裕也&1815 Rock'n Roll Bandという日本のロック黎明期を代表するラインナップ。横尾忠則がデザインしたポスターは、中央に干支である虎の頭に牛の胴体を持つ生き物、背後に内田と、彼が敬愛するジョン・レノンの姿が小さく描かれていた。
この年は1月に予定されていたThe Rolling Stonesの初来日公演が、メンバーの麻薬逮捕歴を理由に日本政府が入国を拒否したことで中止となり、春には内田がプロデュースしていたフラワー・トラベリン・バンドが解散。シンガーソングライターの吉田拓郎が政治性のないフォークソングを歌って時代の寵児となり、ガロ「学生街の喫茶店」、かぐや姫「神田川」がヒットするなど日本のロックシーンが停滞した時期だった。
そうした中、内田はクリエイションの竹田和夫(G)、フラワー・トラベリン・バンドの石間秀樹(G)、近田春夫らとともに初のソロアルバム「ロックンロール放送局(Y.U.Y.A 1815KC ROCK'N ROLL BROADCASTING STATION)」をレコーディング。「ジョニー・B.グッド」「ブルー・スエード・シューズ」「コミック雑誌なんかいらない」など「NYRF」でもおなじみのロックンロールのカバーを収録した同作を引っさげ、キャロル、ファニー・カンパニーらと「ロックンロールカーニバル」を全国で開催した。当時24歳の矢沢永吉が在籍していたキャロルはThe Beatlesのコピーバンドとしてスタートし、フジテレビの人気番組「リブ・ヤング!」出演をきっかけに1972年12月、シングル「ルイジアンナ」でデビュー。リーゼントに革ジャン姿で時代遅れのロックンロールに再び光を当て、73年6月にリリースした「ファンキー・モンキー・ベイビー」は30万枚を売り上げるヒットに。日本語による軽快なロックンロールと不良性で若者の間に社会現象を巻き起こした。
いつの時代も閉塞感を打開するのは突き抜けた若いパワー。スーパースターからアンダーグラウンドまで、世間の流行や商業主義に迎合することない反骨精神旺盛な本物のアーティストたちが集う日本のロックの登竜門として大晦日をにぎわせてきた「NYRF」。内田はこの灯火を絶やさないようジョー⼭中、桑名正博、安岡⼒也らとともに半世紀近くにわたって大切に守り続けてきた。
ロックンロールは永遠
時は流れ、ジョーが2011年、桑名と安岡が2012年、内田が2019年に他界(参照:「僕は今、あの世にいます」ロック人生貫いた内田裕也のRock'n Roll葬 / 追悼・内田裕也 ロックプロデューサーとしての多大な功績)。同年末「追悼 内田裕也 Rock'n'Rollよ永遠に!」と題した47回目の「NYRF」が開催されると、このまま同フェスの歴史は幕を閉じてしまうのかと誰もが思った。そこで立ち上がったのは1994年に自身のバンド・RISING SUNで初参加以来25年間「NYRF」に出演してきたHIRØ(カイキゲッショク、湾岸の羊~Sheep living on the edge~)だった。内田からの信頼の厚い彼は、その遺志を継いでプロデューサーに就任。SHEENA & THE ROKKETSの鮎川誠(G, Vo)、亜無亜危異の仲野茂(Vo)、Zeebraらの協力のもと「47+1 新生 New Year Rock Festival」として継続することを発表する(参照:「47+1 新生 New Year Rock Festival」特集|内田裕也の思い引き継いだカイキゲッショクのHIRØが語る“今ロックがやれること”)。
だが、2020年、新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲った。来場者の安全を第一に考えて無観客生配信での開催を決定し、クラウドファンディングで支援を募るなど手探りのまま開催された新生「NYRF」は、HIRØの妻であるAI、清春、細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES、the LOW-ATUS)、ALI、J-REXXX、RUEEDら幅広い世代のアーティストが参加し、サプライズゲストとして長渕剛が登場するなど大きな話題を呼んだ。
翌2021年も続くコロナ禍で無観客開催を余儀なくされ、大黒摩季、江口洋介、GASTUNKらが初登場する中、全国6カ所からの中継となる「同時多発オンラインフェス」としてYouTubeで無料配信された。しかし、これがそれまで敷居が高く感じていたであろう若い世代に「NYRF」をアピールできる機会となった(参照:大みそかはロックで年越し!「47+2 新生 New Year Rock Festival」出演者13組が意気込み語る)。
最高の会場と最高のラインナップ
そして迎えた50回目。満を持して有観客開催となる新生「NYRF」は、CoプロデューサーとしてZeebraの参加も決定。その舞台となるのは、東京・有明に2020年に新設された最大約8000人を収容できる劇場型イベントホール・東京ガーデンシアターだ。客席フロアは4層で、どの席からもステージが見やすい立体的な構成。上質な音を追求した音響設備もあり、ライブの迫力を存分に感じることができる。今年の「NYRF」は最高の会場と最高の出演者がそろったロックイベントと言えるだろう。ここでそのラインナップを見ていこう。
まずは1978年の「NYRF」初登場以来、45年連続出場のSHEENA & THE ROKKETS。元サンハウスのギタリスト・鮎川誠が妻のシーナとともに福岡から上京し結成。1978年にシングル「涙のハイウェイ」でデビュー。「レモンティー」「ユー・メイ・ドリーム」など数々の名曲を生み、現在までブランクなく活動を続ける日本を代表するロックンロールバンドだ。2015年のシーナの逝去後は鮎川(Vo, G)、奈良敏博(B)、川嶋一秀(Dr)のトリオ編成で活動し、特別なライブのみ鮎川夫妻の愛娘・LUCY MIRRORをボーカルに迎えるスタイルだったが、今年の全国ツアー「HIGHWAY 47 REVISITED! TOUR 2022」からはLUCYが全面参加していることもあって、例年以上にパワフルでキュートな歌声が会場を包むことだろう。
そして伝説のパンクバンド、亜無亜危異。1978年結成。1979年にヤマハ主催のアマチュアバンドコンテスト「EastWest」で優秀バンド賞、最優秀ボーカリスト賞を受賞する。翌1980年にメジャーデビューし、同年の「NYRF」に初登場。旧国鉄服に身を包み、歯に衣着せぬメッセ―ジを叫ぶスタイルは若者から圧倒的な支持を集めた。2017年にオリジナルメンバーの逸見泰成(G)が急逝。残る4人の仲野茂(Vo)、藤沼伸一(G)、寺岡信芳(B)、小林高夫(Dr)により活動を再開し、2020年には実に20年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「パンク修理」をリリース。還暦を過ぎてなお彼らのボルテージはヒートアップするばかり。高樹町ミサイルズ、LTD EXHAUST IIとしても「NYRF」に出演してきたボーカル・仲野の、モヒカンを立てて激しいシャウトで暴れ回る迫力のステージは必見だ。
もちろんHIRØ率いる音楽集団・カイキゲッショクのステージも見逃せない。HIRØ、Zeebra、K-A-Z、YOSHI、NOKS、CHARGEEEEEE...、TxBONE、映像担当のPECCHINI(薗田賢次)という各界のオリジネーターが集結。2020年5月25日、新型コロナウィルス感染拡大防止のため発令された緊急事態宣言の解除と同時に投下された「KILL COVID ~いまROCKがヤレること!?~」は、これまで国難や災害が起こるたびチャリティなど身を挺してアクションを起こしてきた内田裕也、ジョー山中のイズムを継いだ映像作品。外出自粛要請で人波が消えた東京の景色は、忘れてはいけない貴重な記録だ。誰もが長いトンネルの中にいるような状況下、 反骨精神あふれるメッセージと「降りやまない雨はない」という祈りを込めた超強力なナンバーを、ついに生のステージで体感できる日がやってきた。
BAD HOPとキャロルの姿がリンク
若い世代の台頭として、今年の「NYRF」の目玉の1つが、初登場となるBAD HOP。神奈川県川崎市川崎区を拠点とするT-Pablow、YZERR、Tiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、G-K.I.D、Vingo、Barkからなる8人組ヒップホップクルー。勢いのすごさは「Ocean View feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow」「Life Style - T-Pablow, YZERR」「Kawasaki Drift」のYouTube再生回数がいずれも2000万回を突破していることで一目瞭然だ。2018年に開催した初の日本武道館でのワンマンライブ「Breath of South」は告知、ステージング、演出などすべてをメンバー自らこなし、約8000人を動員。5月に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで開催された「POP YOURS」、10月に東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された「THE HOPE」という2つの国内最大級ヒップホップフェスでトリを務めるなど飛ぶ鳥を落とす勢い。まるで工場のフレアスタック(煙突の炎)のように時代を照らす彼らの姿は、同じく川崎南部で結成されたキャロルの姿が重なって見える。
DIR EN GREYの初参戦に驚いた人も多いだろう。1997年、「人間の弱さ、あさはかさ、エゴが原因で引き起こす現象により、人々が受けるさまざまな心の痛みを世に広める」という意志のもと、京(Vo)、薫(G)、Die(G)、Toshiya(B)、Shinya(Dr)により結成。ヘヴィロックをゴシック的な様式美で表現する彼らは、孤高の存在として海外でも熱狂的なファンを多数獲得している。コロナ禍が始まって間もない2020年3月、神奈川・KT Zepp Yokohamaにて行われた無観客ライブ「The World You Live In」はバンドのYouTube公式チャンネルを通じて生配信され、国内のみならずメキシコ、ポルトガル、中国など世界規模の反響を集める結果となった。果たして彼らが「NYRF」の舞台でどのようなステージを繰り広げてくれるか、刮目して待ちたい。
the LOW-ATUSの登場もうれしいところだ。2011年、東日本大震災、精力的に支援活動を続ける細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES)、TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)の2人が、それぞれバンド活動と並行して被災地を中心とした弾き語りでのライブを開始。2021年にはコロナ禍において、今の時代を自らの言葉で歌うべくオリジナル曲を書き下ろした1stアルバム「旅鳥小唄 / Songbirds of Passage」をリリースした。日本語で歌われる歌の数々は、今の世の中に対する怒りや人への温かさに満ちた内容となっている。2年前の「47+1 新生 New Year Rock Festival」無観客配信では細美はソロとして、TOSHI-LOWはBRAHMANとして出演。BRAHMANはILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)と「CLUSTER BLASTER」をパフォーマンスした。当日は細美とTOSHI-LOWの紡ぎ出す歌にじっくりと耳を傾けたい。
高橋和也はKATAMALIとコラボ
初登場組では高橋和也の参加も目を引く。1988年、男闘呼組のメンバーとしてデビュー。バンドは約5年で活動休止となったが、今年7月に音楽番組で29年ぶりに成田昭次(Vo, G)、岡本健一(Vo, G)、前田耕陽(Vo, Key)とともに再集結して期間限定で復活を果たした。再結成ライブのチケットが即完売したことは記憶に新しい。高橋は男闘呼組解散後もさまざまなバンドで音楽活動を続けながら、映画「ハッシュ!」「そこのみにて光輝く」など俳優や声優として幅広く活躍。ロックだけでなくカントリーミュージックにも精通し、ハンク・ウィリアムズの影響で純粋なアコースティックサウンドのみによるカントリーバンド・The Driving Cowboysも結成している。今年1月にリリースされたソロアルバム「MOUNTAIN MAN」は全9曲中8曲を高橋が作詞作曲。レコーディングには小関純匡、原田喧太(KATAMALI)、平山牧伸、うじきつよし、前田耕陽、成田昭次、西村ヒロ、TATER安田、Tokyo Plastic Boy、なぎら健壱が参加している。今回の「NYRF」ではKATAMALIとのコラボレーションで最高のロックンロールを届けてくれるとのことだ。
男性陣が続く中、大いなる母性をもって平和と博愛を歌うAIの存在は力強い。その歌声でジャンルや国境をボーダレスに飛び越え、人々に笑顔と感動を届けてきたAI。2020年にはデビュー20周年記念ミニアルバム「IT'S ALL ME - Vol.1」「IT'S ALL ME - Vol.2」を発表。Awichを迎えた「Not So Different Remix feat. Awich」は、世界中で広がりつつあった分断を前に一度立ち止まり、差別や偏見について考えるきっかけを与えてくれた1曲だった。昨年末はNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の主題歌「アルデバラン」で4度目となる「NHK紅白歌合戦」に出場。今年は5月から12月まで続いた全国ツアー「AI "DREAM TOUR"」を経ての「NYRF」出演。その歌声とメッセージはきっと胸に迫るものがあるはずだ。
再びヒップホップ勢からは2002年に妄走族で出演して以来20年ぶりの「NYRF」出演となる般若。“ラスボス”として出演したテレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」で知名度を高め、2019年に日本武道館で初のワンマンライブ「おはよう武道館」を開催。ラッパーと俳優双方において幅広く活動を続け、今年は新レーベル「やっちゃったエンタープライズ」設立後初となるアルバム「笑い死に」をリリース。そして「虐待のない世界をつくること」を目的に設立されたFOR CHILDREN PROJECTもスタートさせた。人生の喜怒哀楽を表現した力強い言葉と巧みなユーモアセンスを武器に、スケールの大きなラップを聴かせてくれるに違いない。
岡山県津山市出身のレゲエアーティスト、J-REXXXは自身のバンドで参戦。MIGHTY CROWNが主催する日本最大級のレゲエフェス「横浜レゲエ祭」のトップバッターを決めるトーナメントバトル「ROAD TO 横浜レゲエ祭」で2011年に優勝。昨年ORNIS MUSIC WORKSとタッグを組み、アルバム「2021」をリリースしている。モヒカンヘアにシド・ヴィシャスのトレードマークである南京錠を身に付け、客席へダイブするパンクスタイルはぜひ生で堪能したいところ。
半世紀続いている年越しロックフェスはおそらく世界でも例がないだろう。コロナ禍の3年間、内田裕也氏の灯した火を消えないよう大事に守ってくれたHIRØに最大級のリスペクトと感謝を捧げつつ、あなたも今から歴史の証人となる準備を始めよう!