「NYRF」インタビュー|プロデューサーHIRØが優しさと愛を持って臨む伝統の年越イベント

年越しイベント「50+1 New Year Rock Festival 2023-2024」が12月31日に東京・渋谷ストリームホールで開催される。

「New Year Rock Festival」は内田裕也が「紅白だけが祭じゃないぜ」というスローガンのもと、1973年にスタートさせた恒例の年越しオールナイトイベント。内田が2019年3月にこの世を去り、彼のロック魂を受け継いだHIRØ(湾岸の羊~Sheep living on the edge~)が2020年よりプロデューサーを務めている。

音楽ナタリーでは今回もプロデューサーに就任したHIRØにインタビュー。「『50+1』からは、優しさと愛を持って楽しいフェスにしたい」と語るHIRØに訪れた心境の変化に迫る。さらに最終ページには出演者の瓜田夫婦、KYONO、J-REXXX、キングギドラのZeebra、湾岸の羊~Sheep living on the edge~のTATSU(G)、CHARGEEEEEE...(Dr)、REDZ(Vo, G)、Mountain manの高橋和也(Vo, B)と原田喧太(G, Cho)、呂布カルマ、RUEEDの意気込みコメントを掲載する。

取材・文 / 秦野邦彦撮影(P1~2) / 入江達也

イベント情報

「50+1 New Year Rock Festival 2023-2024」

2023年12月31日(日)東京都 渋谷ストリームホール
OPEN 17:00 / START 18:00 / CLOSE 26:00(予定)

出演者

瓜田夫婦 / KYONO / キングギドラ / J-REXXX / Mountain Man / 呂布カルマ / RUEED / 湾岸の羊~Sheep living on the edge~

Co Producer:Zeebra

Produced by HIRØ

公式サイト

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HIRØインタビュー

コロナとの戦い

──今年も日本が世界に誇る最長寿の年越しロックイベント「New Year Rock Festival」(以下「NYRF」)の開催が決定しました。3年ぶりに有観客開催となった昨年に続き(参照:開催迫る「New Year Rock Festival」50回目の見どころを紹介、出演者16組からのコメントも)、「50+1」と銘打っての「NYRF」。まずはプロデューサーのHIRØさんの今の気持ちをお聞かせください。

去年、皆様のおかげで50周年を無事に迎えることができて感謝しております。それまでは僕の中でものすごく使命感と言いますか、あまりいい表現じゃないかもしれないですけど、がんじがらめの中でやってきたところがあるんです。内田裕也さんが亡くなった2019年、47回目のときに追悼イベントをやって、翌年の「47+1」は自分がプロデューサーになろうと決めたんですけど(参照:「47+1 新生 New Year Rock Festival」特集)、ちょうどコロナ禍の真っ只中だったじゃないですか? 僕の中ではパンデミックのない普通の状態で「47+1」を開催していたら「50+1」はやらなかったんじゃないかと思っているんです。

──どうしてですか?

裕也さんが亡くなってフジテレビでのイベント放送がなくなり、スポンサーやいろいろなものがスーッといなくなった中、パンデミックになって、もう開催できないと思っていた2020年の「47+1」。あのときはコロナという敵があったから燃えたんでしょうね。

HIRØ

──「47+1」は無観客配信での開催でしたね。

裕也さんがよく口にしていた「いまROCKがヤレること」という言葉を胸に、カイキゲッショクで「KILL COVID ~いまROCKがヤレること!?」という曲を作ったら、同じように長渕剛さんとAIちゃんの「しゃくなげ色の空」、BRAHMANとILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)の「CLUSTER BLASTER」、瓜田夫婦の「NeverForget」という楽曲が次々と生まれて。「コロナと戦うぞ」という思いがあったからこそ、世間的に裕也さんと確執のあった長渕さんも出演してくださったし、「47+1」ができたと思うんです。

──ミュージシャンが一丸となってパンデミックに立ち向かった。

翌2021年の「47+2」は、まだコロナが猛威を振るい、イベントをやると叩かれる風潮だった中、前年と同じ無観客じゃ面白くないから、6カ所での無観客ライブの模様をYouTubeで無料配信する「同時多発オンラインフェス」としてやらせてもらいました(参照:大みそかはロックで年越し!「47+2 新生 New Year Rock Festival」出演者13組が意気込み語る)。そして昨年、満を持して有観客で迎えた50周年。ここまでが僕の使命感というか。裕也さんから「NYRF」を引き継いだという気持ちがいい原動力になって、この3年間できたと思うんです。ちょっと時間かかっちゃったんですけど、ありがたいことに50周年の模様は、ジョー山中さんの誕生日の翌日9月3日にTOKYO MXで放送してもらって、3年ぶりに地上波でオンエアしていただく機会を取り戻すことができました。

51ではなく50+1

──そして今年も「NYRF」の開催が近付いてきました。

今回の「50+1」も「47+1」同様、“51”にせず「ここから+1なんだぞ」って。今年もまたTOKYO MXでの放送が決まって、少しずつですけど前に進めている感があります。ただ、ここからはちょっと僕自身も楽しませていただきたいなと。やっぱ楽しくないと年越しはダメじゃないですか。「コロナを倒すんだ」とか、僕の中の「NYRF」はいつも“闘ってる”イメージがあって。そこもまたロックのレベルミュージック(闘う音楽)でありパンクスピリッツたるところかもしれないんですけど、今年からはせっかくの年越しなんだから「ハッピーニューイヤー!」と楽しむことを目指したいと思ってます。

──楽しく新年を迎えようという思いは、今の時代すごく大切ですよね。

はい。今、あちこちで戦争が起こっていますよね。悪者みたいに言われているけど、僕にだってイスラエルやロシアの友達がいますし、いろいろなことを考えますよ。戦争反対を歌い続けることはもちろんだけど、結局のところは僕たち1人ひとりが愛や優しさを身近なところから広げていくことが戦争をなくす一番の近道じゃないかと思うんです。この間、車に乗ってて二車線の道路で右折するとき、いつものように対向車線の交通が絶えるのを待とうと思ったら、1台目がスッと止まってくれたんです。「行きなさい」って。「ありがとうございます」という気持ちで渡ったら、今度は自転車が道を渡ろうとしていたから、今度は僕が止まって、「お先にどうぞ」と道を譲って……この連鎖だなと思いました。

──他人を思いやる気持ちが大事だと。

昔「ペイ・フォワード」という映画があったじゃないですか? 人から施しを受けたら別の3人に返そうという内容の。あのテーマと一緒で、優しさをいただいたら、その優しさをほかの人に返したくなる。これだなと僕は思って。だから「50+1」からは、優しさと愛をもって楽しいフェスにしたいんです。たぶんおひとり様の方も来てくれると思うんですけど、隣の人やみんなと思いやりを持って、仲よく楽しく、いい年越しができたらいいなと心から願っています。

HIRØ
HIRØ

HIRØは猛獣使い

──「50+1」というタイトルには内田裕也さんが築き上げてきたものへのリスペクトと、これからはHIRØさんが新たな「NYRF」を作り上げていこうという強い意志が感じられます。

裕也さんってものすごい“ボス感”がありましたよね。僕が初めて「NYRF」に参加したときは、裕也さんがいて、ジョーさんがいて、安岡力也さん、桑名正博さんも。その隣を見ると、鮎川誠さん、陣内孝則さん、白竜さん、仲野茂さん。1人ひとりの“猛者感”というか、キャラ立ちというか。ああいう個々の猛獣たちのファミリーっぽい雰囲気を、これからの「NYRF」では出していけたらと思います。

──そうそうたるメンバーですね。

当時僕は最年少だったんですけど、我ながらなかなかの猛獣使いだったと思っていまして(笑)。今回の出演者にしても、見てくださいよ。J-REXXXなんて恐竜の名前が入ってるじゃないですか(笑)。第1弾で発表したKYONO、瓜田夫婦、呂布カルマ、Mountain Man、そしてキングギドラで出演し、今年もCo Producerとして「NYRF」に携わってくれるZeebra。1人ひとり際立った猛者たちです。とはいえ、みんな結局必要なのは愛だってことがわかってる人たちなので、このタイミングで猛獣たちが“ペイフォワード”で愛を広げながらエネルギーほとばしるステージを繰り広げる「NYRF」をまた始められたらいいなと思ってますね。

HIRØ

──それもHIRØさんがここまでつないできたからこそです。

みんな去年で終わると思ってたんです。僕もそんな空気出してましたし(笑)。「とにかく50周年までは……!」という使命感ですよね。ここまで車を売ったり、家を抵当に入れたりしながらがんばってきたので、きっと裕也さんも「お前、ロックだなそれ!」と言ってくれるんじゃないですか(笑)。

──目に浮かびますね。

これはほかのインタビューでも話したことなんですけど、自分の役割は「スター・ウォーズ」でいうところのハン・ソロだなと思うんですね。宇宙船の船長としてみんなを船に乗っけて、あっち行ったりこっち行ったりしながら、国籍・年齢問わず、人と人をつなげる。そういうトランスミッションの役割として、次の世代の若い人たちにもロック魂を受け継いでいけたらいいなとすごく思っていて。僕もじいさんになってまでやりたくないんです(笑)。いい年越しパーティにして、出たいといってくれる人がもっと増えて、「NYRF」のレガシーを次世代につなげていけたらなと思っています。

──今年は鮎川誠さん、PANTAさん、もんたよしのりさん、「NYRF」と縁の深いアーティストが亡くなられた年でもあります。

「NYRF」を作り上げてきた先輩方が亡くなられてすごく寂しいです。「47+1」以降も鮎川誠さんと仲野茂さんには僕からお声がけさせてもらっていたんです。今年1月に鮎川さんが亡くなられて、亜無亜危異は無期限の“活動禁止”に入ることを発表されて。「NYRF」も50年をひとつの区切りに、これからは若い人たちにシフトしていけたらと思ってます。これは言っていいのか悪いのかわかんないですけど、いつからかメーカーさんだったりいろんな政治が入ってきて、誰も知らないようなバンドだったり、「なんでこの人たちがいるんだろうな」と思う顔ぶれが入ってくる時期もあって。「47+1」からそういうことは一掃できたかなと思っているんです。政治ではなく本物のアーティスト……その年を全力で駆け抜けてきた人たちばかりに出てもらってるので。これからも「NYRF」ならではの危険な香りがする空気感、“本物”を提示していきたいですね。