OKAMOTO'S|フレッシュであり続けた10年の集大成

この時代の表現に必要なもの

──DISC 2には「Regret」と「LOVE」という未発表曲が収録されていますが、この2曲はそれぞれどの時期に作られた曲だったのでしょう?

ショウ 「Regret」は確か「BOY」のレコーディングの最初に作った曲だったんだよね?

コウキ そうだね。でも仕上がりがヘビーすぎて、アルバムには入り切らなかった曲なんです。曲単体としてはものすごく完成度が高いと思うんですけど、「BOY」には「Dreaming Man」とか、ほかにも際立たせたい曲があったので。

──「LOVE」のほうは?

コウキ 「LOVE」は、ちょっといわく付きの楽曲なんです。「NO MORE MUSIC」のレコーディングの中で作った曲なんですけど……ニューヨークレコーディングの端くれと言いますか(笑)。

ショウ ニューヨークで「Cold Summer」(「NO MORE MUSIC」収録曲)を録ろうと思ったんですけど失敗して、何も録らずに「もう帰ろうか」って言っていたんです。でも「せっかくニューヨークに来たんだから1曲は録ろう」ということになり、そこで録って帰ってきたのが「LOVE」だったんです。

オカモトショウ(Vo)

コウキ でも結局、アルバムには入らなかったという(笑)。「NO MORE MUSIC」が洗練されたテイストのアルバムだったから、「LOVE」はちょっと雰囲気が違ったんですよね。

──「LOVE」も「Regret」も、アルバムに入らなかったといえど、めちゃくちゃいい曲ですよね。

ショウ 自分でもそう思います。どっちの曲も歌詞も気に入っていて。ニューヨークでレコーディングに失敗したのに、そこで書いた曲のタイトルが「LOVE」っていうのもいい話だなって思います。

──DISC 2には「BROTHER」(2016年6月発売のシングル)のカップリング曲「Lagoon」も収録されていますけど、「BROTHER」や「Lagoon」あたりから生まれてきたショウさんの内省的な詩情が「Regret」と「LOVE」にも生きていますよね。

ショウ そうですね。自分の濃い部分が出ている2曲だと思う。ちょっと濃すぎたくらいだと思うんですけど(笑)、それでもいいかなって。最近、アカデミー賞のスピーチでポン・ジュノ監督が「もっとも個人的なことがもっともクリエイティブなことである」っていう(マーティン・)スコセッシの言葉を引用していたじゃないですか。いい言葉だなって思うし、本当にそうだなって思うんですよね。

コウキ やっぱり実態を伴ったものじゃないとダメだよね。

ショウ うん、それこそが真実だと思うし、そういうことを俺もやり続けたいなと思う。

──特に今は、どれだけその表現の中に実態や実感があるかが問われる時代だなと思います。ふわふわしたファンタジーだけだと、もう通用しないというか。

コウキ 世界の動きを見ていても、もうファンタジーなんて言っていられないですよね。今の時代にラッパーが強いのは、現実や実態が表現の中にちゃんとあるからだと思うし。

ショウ それに今は“○○っぽい”ものを簡単に作れる時代じゃないですか。だからこそ、その人しか経験したことがないことやその人が本当に考えたことが重要になってくるし、それによって思いの強さが作品に表れる時代になっている。今だからこそ、嘘をついたらお客さんにはすぐにバレますよね。音楽を聴く人はそこに敏感だと思うから。嘘はつかずにいきたいです。

ミュージシャンとして健全なマインドで

──恐らく「Dance to Moonlight」が1つのヒントになるだろうと思うんですけど、この先のOKAMOTO'Sはどうなっていきそうですか?

コウキ この間また新曲を1曲録ったんですけど、めちゃくちゃいいんですよ。今までのどれとも違う感じなんですよね。OKAMOTO'Sが今までやってきたいろんな側面がアップデートされた曲というか。

レイジ 俺も思った。「BROTHER」っぽさもあるけど、「Phantom(By Lipstick)」っぽさもあるし、「Regret」っぽさもある。だけど本当に今までにない感じの曲なんだよね。

ショウ この10年間一度もやってこなかったことなんですけど、実は「HELLO WORLD」(2019年9月公開のアニメ映画)のサントラを作らせてもらったタイミングから、コウキと俺の2人でデモを作るようになったんです。俺がコウキの家に定期的に行ってデモを作るっていうやり方を、サントラを作り終えたあともずっとやり続けているんですよね。

コウキ 2人の完全共作スタイルみたいな。僕が去年ソロアルバムを作ったことも大きくて。ソロを作ることで個人的な欲求を発散できたから、いい意味で自分の中のこだわりがなくなってきたんです。だからショウさんと一緒に作るときには、僕はマニピュレーター的な役割ができるというか、楽器をなんでもできる人に徹することができるようになって。

ショウ そのスタイルで作ったデモが去年の段階で既に30曲くらいあって、「Dance to Moonlight」もその中の1曲なんです。ありがたい話ですけど、この10年間、俺らは締め切りと戦いながら曲を作り続けていたんですよね(笑)。それは「次も作品を出せる」ということだからすごくうれしいことなんだけど、裏を返すと、ケツを叩かれながら曲を作る以外の作り方をしてこなかった。でも今は初めて締め切りに追われず、思いつくままに曲を作ることができていて。ミュージシャンとしてはすごく健全なマインドになれているんです。やっぱり締め切りを気にせずに曲を書くって最高に楽しいんですよね(笑)。

──すごくいい状態で制作ができているんですね。

ショウ そう、すごくヘルシー志向。この先のOKAMOTO'Sは、めちゃくちゃいいと思いますよ。もう次の10年の準備は整っているので、楽しみにしていてほしいです。

OKAMOTO'S