OKAMOTO'S|フレッシュであり続けた10年の集大成

どういう人がOKAMOTO'Sを好きになるのか

──DISC 1の選曲を見ていて驚いたんですけど、実は2016年12月発売のミニアルバム「BL-EP」の収録曲が、ほぼ網羅的に入っているんですよね。

ショウ そう! すごいですよね、これ(笑)。「BL-EP」って、「ライブで大トリになるような曲を作ろう」みたいな意識ゼロの、完全に家聴き用に作ったような作品で。だからこそ音源としてすごく優秀なんですよ。ライブでどうなるかはわからないけど、とにかく家で聴いていて心地いいものが作りたい、なおかつ次の作品に向けての実験をしたいということで、渡辺省二郎さんをエンジニアに迎えて作った作品だったんです。それがちゃんとうまくいって、こうやってベスト盤にも入ってくるのはうれしいですね。

ハマ 僕ら的にも「BL-EP」を作ったことによって、そのあとの2枚のアルバム(2017年8月発売の7thアルバム「MO NORE MUSIC」と2019年1月発売の8thアルバム「BOY」)の方向性が見えたところがあるので、OKAMOTO'Sにとって大事なターニングポイントの作品なんです。しかもDISC 2の1曲目に入っている新曲「Dance to Moonlight」は、「BL-EP」の方向性の延長上にある曲ですからね。

──そう、まさにここにDISC 1とDISC 2のつながりを僕も感じたんです。「Dance to Moonlight」は、「BL-EP」期の路線を継ぐディスコ~ガラージテイストのある流麗なダンスチューンですよね。「ラリー・レヴァンが回しそうな曲だな」と僕は思ったんですけど。

ショウ なるほど(笑)。

オカモトレイジ(Dr)

レイジ でも確かに俺、「OKAMOTO'Sって、ハウス的だな」って思ったことがあったんですよ。前に友達のDJに俺たちの音源を聴かせたとき、「これは概念的にはハウスだね」って言われたことがあって。そう言われたとき、確かになって思ったんです。もしかしたら俺ら4人の感じって、ロックとかパンクのオラついたアティチュードというよりは、ハウス的なのかもしれない。優しく包み込んで解放させる、みたいな。OKAMOTO'Sを好きな人って、別にいじめられっ子ではないんだけど、周りにOKAMOTO'Sを好きな人がいない、みたいな……クラスの中でも他人と趣味が共有できない人っていうイメージが俺の中には勝手にあるんですよね。ちょっと偏りすぎちゃっている人、みたいな。OKAMOTO'Sの音楽は、そういう奴らが自分を解放する場所になったらいいなと思うんです。

ショウ ハウスの精神性って、ざっくり言うと、普段迫害されている場所にいたり、辛い思いをしている人たちが、その音楽が流れる場所にいる瞬間だけは解放される……そういうことだよね?

レイジ そうそう。そこだけは許される場所なんだっていう。2016年くらいから俺らの中に入ってきている要素の1つは、そういう“ハウス的なもの”という感じもするんですよね。俺ら自身は別にハウスやエレクトロに詳しいわけではないんですけど、かつてディスコやウェアハウスで流れていた音楽の持っている精神性みたいなものは、今回の「Dance to Moonlight」にも通じているものはありそうだなって思う。実際、ドラムのサウンドはアーサー・ラッセルがやっていたLoose Jointsの感じを意識していましたし。ハウスになり始めた頃のディスコというか。

ハマ 「Dance to Moonlight」は“80年代感”っていうのが、どこかポイントになっている感じがしますね。今までは70年代っぽいダンスナンバーが多かったけど、音色しかり、12inch的なイントロの長さしかり、80年代的なカルチャーの感覚があるというか。

──そういう意味でも、やはり「BL-EP」と「Dance to Moonlight」は地続きな感じがしますね。

コウキ 「BL-EP」のときも80年代の感じは意識していたよね。あの作品を作っていた頃はNew Orderにめっちゃハマったりしていたから。

本物のミュージシャン・BRIAN SHINSEKAI

ショウ あと「Dance to Moonlight」ではBRIAN SHINSEKAIをキーボーディストとして呼んだんですよ。

──BRIANさんとOKAMOTO'Sは旧知の仲ですけど、映画「HELLO WORLD」のサントラから引き続きのコラボですね。

ハマ この4年くらいずっと僕らは「鍵盤がいるバンドはズルいからダメ」って言っていたんですけど(笑)。でもやっぱり鍵盤が入ると新鮮だったし、「鍵盤がいるなら、こうしよう」という新しいアイデアを自分たちでも出すことができたのでよかったです。これまで先輩を呼んで鍵盤を入れてもらうことはありましたけど、BRIANは世代的にも同期。僕らが言うのもなんですけど、彼は本当に変わり者なんです(笑)。BRIANがいても制作のムードは普段となんら変わらなくて。BRIANはずっと一緒にいたわけでもないんですけど、それでも思った以上に僕らになじんでいましたね。類は友を呼ぶっていう感じで。

コウキ プロデューサー的な人を呼んだらまた違う空気感になっちゃうと思うんですけど、僕らと対等に話せる人で、音楽に入り込める人を探したときに「そういえばBRIANがいた!」っていう感じで(笑)。

レイジ 一緒にスタジオで作業してみて、あいつは本物のミュージシャンだなって思いました。本当に天才肌というか。普段は黙っているくせに、レコーディングを始めると横でずっとハモってたりするんですよ(笑)。

ショウ 1人でエアピアノ弾いてたりするし(笑)。あと、例えば「Prefab Sproutみたいな感じ」とか「シルベッティの『Spring Rain』みたいな感じで」っていう音楽的なリファレンスを出したりすると、「ああ、あの感じね」って一発でわかってくれるんですよね。そこはすごくやりやすかったです。「Dance to Moonlight」のイントロはBRIANが作ったんですけど、これは「ディズニーランドに昨日行った影響が出ちゃったかもしれない」とか言ってましたね(笑)。

ハマ そこは意外と安直っていう。

──(笑)。本能的に音楽家なんですね、BRIANさんは。

コウキ BRIANの実力は、この先もっと発揮されていくと思います。