OKAMOTO'Sが4月15日にベストアルバム「10'S BEST」をリリースした。
今年デビュー10周年を迎えるOKAMOTO'S。彼らにとってキャリア初のベストアルバムは2枚組で、DISC 1にはファン投票で選ばれた楽曲が投票数順に並べられ、DISC 2には新曲「Dance To Moonlight」や配信のみでリリースされた人気曲、未発表曲などメンバーが厳選した楽曲が収録される。
音楽ナタリーではベストアルバムの発売を記念してメンバー全員にインタビュー。10年の歴史を物語る収録曲についてや、この節目を経てのバンドの方向性について聞いた。
取材・文 / 天野史彬 撮影 / 森好弘
ベスト盤はファンのための作品
──初のベスト盤「10'S BEST」はDISC 1にファン投票で決定した楽曲、DISC 2にメンバーが厳選した楽曲を収録するという重厚なボリュームの作品となりました。ファン投票による選曲というのは、皆さんから出てきたアイデアだったんですか?
オカモトコウキ(G) そうです。この10年間、俺たちは音楽性が変わりすぎていて、ベスト盤のために選曲するといっても、自分たちではなかなか選べないんですよね。
ハマ・オカモト(B) 僕らは出してきた作品も多いし、メンバーが1人3曲選ぶみたいなことをやっても、グチャグチャになっちゃうだけだと思うんです。それにベスト盤を出すとなったら、ファン投票でやるのが一番清いやり方なんじゃないかとも思うんです。ベスト盤って僕らの名前で出ますけど、本質的にはファンのために出る作品だろうと。なら、そこにどんな曲が入っていてほしいのか、ファンの方に選んでもらうことが順当だと思うんです。それでも残る僕ら自身のエゴやジレンマみたいなものは、DISC 2に入れればいいから。
──ファン投票で選ばれた楽曲の並びを見ての印象はいかがですか?
コウキ 流れで聴いたら面白かったですね。改めて聴くと意外な曲もあって。やっぱり最初の頃の曲は若さがあふれ出るというか(笑)、衝動がすごくこもっているし。
オカモトショウ(Vo) DISC 1の曲順は、ほとんど投票の人気順で決めているんですよ。だから俺らの手が加わっていない面白さがあるなと思っていて。「NO MORE MUSIC」(2017年8月発売の7thアルバム表題曲)の次に「Beek」(2010年5月発売の1stアルバム「10'S」収録曲)が来るところとか(笑)。
──「NO MORE MUSIC」と「Beek」の並びは、バンドの音楽性の変化を感じられますよね。
ハマ あと最近の自分たちやっていることをちゃんと愛してもらえているんだなって、アルバムの収録曲を見て感じましたね。
──2016年以降の曲が多いですよね。
ハマ そうなんですよ。「ベスト盤と言いつつ、最近の曲ばっかりじゃん」っていう声も出るかもしれないですけど、これでもし初期の2枚のアルバムの曲ばかり選曲されていたとしたら、作り手としてうれしいっちゃうれしいですけど、「あの頃の自分たちをあんまり好きでいられても困るなあ」とも思いますし(笑)。
ショウ そうだね(笑)。
ハマ それによく見ると昔の曲もバランスよく入っていますからね。例えば4曲目の「青い天国」(2012年7月発売)なんかは、近年のライブではそこまで大事に置いてきた曲ではないんですよ。でもこの頃の曲が上位に入っているのは、OKAMOTO'Sの歴史を物語っているなと思います。こういう一面で、僕らのことを好きになってくれた人も大多数いるということだと思うので。
オカモトレイジ(Dr) 俺らのことが本当に好きな人は、完全生産限定盤に付属するアナログ12inchの「Early Years Collection」で、昔の俺らの曲をレコードで初めて聴いてもらえればいいなと。こっちに初期のコアな曲が入っているので。
──初期曲で構成されたLP。これめちゃくちゃいいですよね。
ショウ 「最初の5年までの、MVを作った曲」っていう、わかりやすい理由で選んだ曲だけが入っていて。こういう曲だけが入ったベスト盤って、60年代のバンドによくあるじゃないですか。他人の意志だけで作られていそうな(笑)。そういうものもファンは愛せたりしますから。そんなアイテムも用意しております。
まっさらな気持ちで11年目をやっていきたい
ショウ 本当にいいベスト盤だと思います、これは。10年もやっていると、「OKAMOTO'S、名前は知っているけど聴いたことない」とか「高校生の頃聴いていました」っていう人もいると思うんですよ。そういう人たちに改めて聴いてもらうきっかけになればいいなと。それに、まだレコーディングには入っていないですけど、俺とコウキはもう次の作品に向けて曲を作り始めているんです。新しいことを始めるときに、いい加減そろそろ過去の清算をしていかないとなって思うんですよね。そうしないと背負っているものが重くなりすぎてくる。1回このベスト盤に10年間で積み上げてきたものをギュッと詰めて、まっさらな気持ちで11年目をやっていきたいっていう気持ちもあるんです。
──一度、肩の荷を下ろしたいというか。
ショウ この10年間、常に「前よりもいいものを作りたい」と思いながらやってきたんです。常に前の自分と今の自分を比較して、前の自分を否定しながら次に進むっていうことを続けてきた。結果的にブレずに続けることができたし、それが正しい作り方だったんだろうなと思うんですけど、いい加減「否定して、さらに前へ」っていうやり方が厳しくなってきているというか。今はもうギリギリまでゴムが伸び切っている状態まできていると思うんですよね。だから一度、そういう自己否定をなしにして作品を作ってみたいっていう気持ちが大きいんです。
──なるほど。
ショウ 10代の、何も考えてなかった頃から始まった10年間でもあるので、今の自分がまっさらな気持ちでバンドをやったらどんなことを思うんだろう?って自分でも興味があるんです。
──OKAMOTO'Sは作品ごとに自己を刷新してきたバンドだと思いますし、2010年代といういろんな物事が変化した時代に対しても、明確にリアクションを取ってきたバンドだと思うんです。変容し続け、自己否定をし続けながらバンドを続けてきた。その原動力になっていたものはなんなのでしょうね?
ショウ 前の作品が一番いいのであれば、新しい作品を作る必要はなくなりますからね。時代に対する意識にもつながると思いますけど、今を生きて、今の時代に新譜を出し続ける理由って、「前よりもいい」と、少なくとも自分自身は思えるからだと思うんですよ。もちろんファンの人に「10年前のアルバムが好きだ」と言われたら、それはそれでうれしいですよ。でも自分自身に対しては、「いやいや、もっとやれるでしょ?」って言い続けたいし、常に「俺、今はこんなことにも興味があるよ」っていうフレッシュな衝動を持っていたい。そういうところが、続けることができた理由なんだろうなと自分では思います。
レイジ あと、ツアーを回ってお客さんの顔を見ていると「続けていかないとな」っていう気持ちになります。ツアーで地方に行って街を散歩していると、本当に何もない、誰ともすれ違わないような街もあるんですよ。でも夜になると、150人や200人っていう数の人が、お金を払って俺らのワンマンライブを観に来てくれる。そういう現実を10年間見てきましたからね。そういう人たちが全国にいてくれることを実感しているからやり続けているっていうのも大きいと思います。
お客さんとのコミュニケーションが取れてる
──今OKAMOTO'Sの音楽に集う人たちは、何を求めてこの場所にたどり着いているのだと思いますか?
ハマ OKAMOTO'Sを好きな人は高水準なものが好きな人たちだと思うし、今は“集団”としてのOKAMOTO'Sがやるすべてをキャッチしたいと思ってくれているなって感じます。しゃべっているOKAMOTO'S、演奏しているOKAMOTO'S、その他諸々……我々から発信されているものが多ければ多いほど喜んでくれるし、それを観に来てくれているなっていう感じがするんです。もちろん音楽は絶対的な要素としてあるんですけど、それに付随するものにも興味を示してくれている人が増えているなって思う。だからこそ僕ら自身、そこもブラッシュアップしていかなきゃいけないなって思うんですよね。本当にサブいことはできないというか。
──確かに音楽だけでなく、その周囲にあるカルチャー的な側面においても、OKAMOTO'Sが発信しているものに魅力を感じる人は多いですよね。
ハマ 今はすごくバンドとファンの擦り合わせがいいと思うんです。ファン投票の選曲に関しても、自分たちでも「いい感じだよね」と言えているのは、すごいことだと思う。「『青い天国』なんて、今はもう恥ずかしいですよ」なんていうことに自分たちがなっていない。「OKAMOTO'Sってこれなんだ」とファンの人たちも言えるし、自分たちでも言える。
レイジ 冷静に考えて、すごいことだよね。10周年のベスト盤の選曲をファン投票で決めて、その結果に納得がいっているって。うちらの気分や内情を詳しく知らないはずの人たちが、すべてを汲み取ってくれている。それはお客さんとバンドのコミュニケーションがめちゃくちゃうまく取れているということだから。今気付いたけど、すごいことが起きちゃっているなって思います。
ハマ えらいことになりましたよ、OKAMOTO'Sは。
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どういう人がOKAMOTO'Sを好きになるのか