大橋トリオ|人に支えられ、人と作り上げた14枚目のアルバム

「誰か、曲ある人ー!」

──楽曲提供に関しては大橋さんが楽曲を発注したんですか?

発注というより、曲が全然そろわないから「誰か、曲ある人ー!」って呼びかけたらすぐに「あります!」って手を挙げてくれたんです(笑)。零さんなんか5、6曲送ってくれましたよ。その中で、この「quiet storm」が一番輝いていた。

──この曲は素晴らしいですね。歌詞も面白いし。

大橋トリオ

ですよね。冒険感が半端ないです。零さんはベーシストだけど詩人でもあるんですよ。ライブでもウッドベースで変なフレーズを弾きながらポエトリーリーディングみたいにしゃべり始めるんです。それが面白くて、メンバーみんなでハマってる。しかも本人が自分からやりたがるんですよね。究極のナルシストだと思います(笑)。でもそこまでいくと、書き手としていいものを持っているはずなんですよ。この人が本気で僕に曲を書いたらどうなるのか、ずっと興味があったんです。

──「quiet storm」のアレンジは大橋さんですよね。

デモの段階ではギターとベースと歌だけだったので、それをもとにアレンジしました。途中で「サックスを入れたら面白そう」と思い付いてたけぽんをスタジオに呼んだんですけど、録るのにえらい時間がかかって。確か5時間ぐらい。

──サックスだけで?

そう。イメージを伝えるのにすごく時間がかかって。ワンフレーズワンフレーズ、全部指定して吹いてもらいました。確か夜中の12時に始まって、終わったのは朝の5時ですよ。たけぽんにもスタジオの方にも申し訳なかったけど、なんとかやりきりました。

──ファンクっぽい曲調で、アコギとベースとサックスで、ドラムが入っていない。こういう曲はあまり聴いたことないなと思いました。

ないですよね。ドラムが入ってないから曲順が難しかったんですけど、零さんへのリスペクトと愛を込めて、一番いいところに置きました。この曲はライブでどうやるか、今から楽しみです。

ストリングスへのこだわり、シャッフルの封印

──ストリングス入りの曲は「LIFE」「青月浮く海」と2曲ありますね。特に「LIFE」はとてもドラマチックな使い方がされています。

ジョン・ウィリアムズ(「スター・ウォーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」などの映画音楽で有名な作曲家)の曲みたいな感じになるといいなと思ってストリングスを入れてみました。高い音域できれいなメロディをみんなでユニゾンされると、グッとくるじゃないですか。それの最たるものをやりたかったんです。ちょっと「E.T.」っぽいというか(笑)。以前、「The Day Will Come Again」(2017年2月発売のアルバム「Blue」収録曲)という曲で初めてダブルカルテットを入れてみたんですよ。そのときはバイオリン2本、ビオラ、チェロのカルテットの方々に2回弾いてもらって音に厚みを出すようにしました。今回は同じダブカルでも音を重ねるのではなくて、バイオリン4本、ビオラ2本、チェロ2本を同時に演奏してもらったんです。

──音の数は同じだと思いますが、どう変わるんでしょうか?

音の厚みが全然違うんですよね。荘厳な感じというか、映画っぽさみたいなものが出るんですよ。なぜかと言うと、クラシックの演奏家って練習量がすごいから、何回弾いても同じように弾くことができるんです。伸ばし方とか揺らし方とかね。もちろん厳密に言うと違うんだけど、要は2回演奏してもらってもほぼ同じだから、重ねるとコーラスがかかったみたいになるんです。

──コーラスがかかるというのは?

えーと、同じ楽器で同じクセだから、重ねると同じ波形が2つ重なった状態になるわけです。でも当然ちょっとのズレがあるから、それがコーラスエフェクトがかかったみたいに揺らいだ聞こえ方になるんだと思います。ハンドクラップとかもそうですけど、人が多いといい具合にバラけて、そこに面白みが出るということですね。

大橋トリオ

──ダブルカルテットの音を入れた「青月浮く海」は、歌が耳元で囁かれているみたいに聞こえるのが印象的でした。

近くで聞こえるようにと意識したわけではないんですけど、一番そーっと歌った曲かもしれないですね。サビがちょっと下がるので、その分全体的なキー設定をあえて高くしたんですよ。そうしたらウイスパーっぽくする必要性が出てきて、自然とそうなっちゃったって部分が大きいですね。

──歌もちょっと変わったように感じました。

機材をちょっと変えたんですよ。前作のレコーディングのときにマイクを変えて、今回はSSLのミキサーを買ったんです。小さいのにけっこう高くて、それでインプットしたら歌の存在感がグッと出るようになって、音作りが楽になりました。「自分の声がもっとこうだったらな……」みたいな不満がなくなりましたね。

──「夕暮のセレナーデ」は3拍子ですか? 8分の6拍子ですか?

ドラムのパターンとかはワルツのイメージですね。あ、でもパートによって変わりますね。サビはワルツだけど、歌い出しはハチロクっぽい。

──「LIFE」も8分の6拍子ですよね。

好きなんですよ。どのアルバムにも最低1曲は入っていると思います。あと僕、シャッフルが多くて。今回は封印できてると思うんですけど……(曲目リストを見て)うん、できてますね。今までは推し曲を意識して作るとどうしてもシャッフルになっちゃう傾向があって、「これは本当にどうにかしなきゃいけないな」と思ったのが5年くらい前なんです。でもその後、何曲も作っちゃいました(笑)。CMの話とかいただくじゃないですか。そうするとね、やっぱりシャッフル系が採用されるんですよ。

──好きは好きなんですよね。

でもだいぶ飽きました。だって本当に多いから(笑)。でもほかの人があまりシャッフルをやらない傾向にあって、この部分が自分の新しさにつながるのかな、みたいなイメージを持っていたときもありますね。初期の頃は特に。好きだからシャッフルの曲は作りやすいんですよ。だからバカのひとつ覚えになっちゃいそうで、封印しているんです。

伝染する大橋のイズム

──「Lady(2020)」はツアーメンバーと再レコーディングした音源となっています。

これ、去年のライブでバンドバージョンをやったんですよ。もともとは弾き語りの曲なので、リメイクするなら楽器を増やしたバージョンにしようと考えていたし、去年のライブと同じメンバーでやれば、すでに1回やってるから早いな、と思って。でも、結局レコーディングにはめちゃくちゃ時間がかかりました。マイクのセッティングとか、音作りにもかなり時間をかけたし、アレンジ的にも微妙な変化をどうやって付けていくか悩んで。最後にチェロを足したんですけど、「適当に弾いてもらえれば」くらいの感じでオファーしたので譜面を用意してなかったんです。でも、いざ始まると「そこ、そういう流れだったらこっちのメロがいいな」みたいなこだわりがどうしても出てきちゃって。やり始めるとこだわりたくなってしまうタイプなので、結局その場で譜面を書いて「これ弾いて」って渡しました。

──けっこう現場で作っていったんですね。

この曲を録るのに丸1日かけちゃいましたね(笑)。ただ、レコーディングは苦しかったわけではなくて。確かド年末にレコーディングしたんですけど、年の瀬なのにみんな集まってくれてすごくうれしかったですね。

──初回限定盤のDVDに収録されるライブ映像から「sing sing」がYouTubeで公開されていますが、素晴らしい演奏でした。今のバンドに相当自信がおありではないですか?

うん、今まででは一番ですね。ここ2年は1人2人の入れ替わりはありますけど、ほぼ同じメンバーでやってます。みんな忙しいからスケジュールを押さえなきゃいけなくて、メンバーは1年前に決めなきゃいけないんですよ。ツアーを回りながら来年のツアーのメンバーを考えるっていう(笑)。その段階では次のアルバムのイメージもまだないじゃないですか。だからすごく難しいんです。でも一方で、ツアーのメンバーを先に決めてるから「今回はあいつがいるからこういう曲をやろうか」という発想になることもあって。「今はこの程度のギターしか入れられないけど、ライブではあいつがもっとバリバリ弾いてくれれば絶対映えるぞ」みたいな。ツアーで演奏して完成するような曲も今作には多いかなとか。いろんなことを考えてますよ。

──話が逸れますが、年末に大橋さんがプロデュースしているKitriにインタビューしたんですよ。事前に彼女たちの音源を聴いて、本当にびっくりしました。

わかります。最初に聴いたときは僕も驚きましたから。

──彼女たちにしてもTHE CHARM PARKさんにしても赤い靴にしても、大橋さんと近しい方々って、皆さん独特な感性を持っていると思うんです。世間の流行と関係ないところで音楽を作っている感じというか。

いつだってオリジナリティはないとダメだと思うんです。流行は追いかけていたらその時点で過ぎ去ってしまうものなので、僕はそこには興味がない。流行りものの中には必ず一番すごい人がいるから、よっぽどじゃないとそこには届かないし。だったら独自のことをやって目立ったほうが絶対いいに決まってるんですよ。楽しいしね。

──大橋さんが仲間を選ぶときの基準もそのあたりにあるのですか?

意外とそうでもないんですよね。自分で言うのもなんですけど、一緒にやってるうちにイズムが伝染していくみたいなことがある気がします。そんな感じになったらうれしいですよ。「あ、伝わってんだな」みたいな。神谷なんておべっかかもしれませんけど、いつも言ってくれるんですよ。「大橋さんみたいな人、マジでいないっすから!」って。

──最後にアルバムでアピールしておきたいことはありますか?

特にはありませんけど、「This is music too」はアナログも楽しみにしてほしいですね。なんなら僕自身はそっちのほうが力入ってるんで。大音量で聴いていただきたいです。