大橋トリオ コラボベストアルバム「off White」インタビュー|新たな才能から得たエッセンス

大橋トリオがデビュー15周年イヤーを締めくくるコラボレーションベストアルバム「ohashiTrio collaboration best -off White-」をリリースした。

本作には2011年発表の「モンスター feat. 秦基博」「Be there feat. BONNIE PINK」から2021年発表の「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」まで、大橋自ら選んだほかのアーティストとのコラボ曲8曲と、新たに制作した4曲、計12曲が収録されている。新曲でのパートナーはりりあ。、JQ from Nulbarich、kojikoji、Kenta Dedachiという新鋭ぞろい。新鮮なコラボが両者の未知の側面を引き出している。

音楽ナタリーでは新曲の話題を中心に大橋トリオにインタビュー。それぞれの楽曲の制作について語ってもらうことを通して、彼にとってのコラボとは何かを浮き彫りにする。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 須田卓馬

人生初ラップ

──4曲の新曲はそれぞれ成り立ちが違うと思うんですが、「7番通りの曲がり角で feat. kojikoji」の場合、大橋さんが昨年、kojikojiさんに「はぐれ雲」(2022年8月リリースのアルバム「Mining」収録)を提供したのがきっかけですよね。

「あ、こんな素敵な声で歌う子なんだ」と思ってたんです。レーベルが一緒で、ライブに来てくれて「何かやりましょう」みたいな話をしていて、「じゃあまず曲提供から」という感じでできたのが「はぐれ雲」ですね。

──「はぐれ雲」はヒップホップ的な曲が並ぶアルバムの中で異彩を放っていました。

そうでしたね。一番オーガニックな雰囲気だったかな。アルバムの中の1曲というよりは単曲でリリースすることが前提での依頼でしたけど、どんな経緯で曲調が決まったんだったかな。いつも先方がどんな曲を求めているかが僕は気になるんですよ。ちょっと踊りたくなるような元気な曲なのか、美メロのオーガニックポップスなのか、それとも弾き語りなのか……とか。いろいろ探ることが多いんですけど、kojikojiには一方的に送りつけた気がします(笑)。

大橋トリオ

──「はぐれ雲」を“大橋トリオ寄り”とすると、「7番通りの曲がり角で feat. kojikoji」は比較的“kojikoji寄り”というか、彼女の本来の持ち味に寄せた感触があります。

「はぐれ雲」がああいうオーガニックな曲だったことを踏まえて、今回は自分の作品に来てもらう機会なので、大橋トリオの音楽に何か新しいエッセンスを入れてもらうという意識が強かったんじゃないですかね。

──ラップもしていますし。

最初は予定になかったんですよ。彼女が普段、楽曲にラップを取り入れているという情報は得ていたから、わりとレコーディングの終盤で提案しました。人生初ラップです(笑)。ささやかなものですけど。レコーディング自体は彼女がうちのホームスタジオでやりたいって言うので来てもらって録ったんですけど、そのときに「ラップも入れたいね」という話をして、彼女が「じゃあ家で録って送ります」と言って送ってきたものに、僕が合わせてラップしました。

──いい味を出してました。サウンドもユニークですね。

トラックは神谷(洵平)に全部任せたんです。僕が関わった部分というと、デモでベースを打ち込んだのがそのまま残ってるぐらい。神谷にひさびさにちょっとチャンスを与えようか、みたいな気持ちもあったかな。最近、彼に対して「近寄ってくれるな」みたいなオーラを出していたので(笑)。

日本人独自の物作り、JQはすごく賢くてセンスのある人

──「La La La feat. JQ from Nulbarich」のトラックはJQさんプロデュースですが、大橋さんがドラムを叩いているんですね。

アウトロに一瞬出てくるところだけですけどね。僕が作った曲をJQに投げて、メロディを彼がいじって、それをさらに僕が整理して……というやりとりで作っていきました。トラックは任せましたけど。

──こういうR&Bっぽい音で歌う大橋さんも新鮮でした。

このサウンドは僕じゃ絶対やらない、できないアプローチですね。音楽制作における日本人の限界みたいなことに、僕は早々と気付いた人なんですよ。歌のうまさとか、コード進行の緻密さとか、技術的な面でいうと一番レベルが高いのはやっぱりブラックミュージックで、「そっちに行ってはいけない」と思ってずっとやってきまして。

──まあ、そもそも体格が違うよなあ、とは思いますね。

そう。声の出し方も違うんです。あれは泣いても笑っても日本人には無理で、だから独自のものを作るしかない。それは作る人みんながわかっていると思うんですけど、中でもJQは僕が知る限り一番センスよくやれてる人かなと。トラックメイキングにしても、無理のないアプローチとか、音色の選び方とかね。いろんな音楽に詳しいし、本当にブラックミュージックが好きで、ちゃんと研究して、情熱を持ってやってるんだなと思います。で、自分のできること、やるべきことをちゃんと見極めている。すごく賢くてセンスのある人だと思うので、彼ならうまく料理してくれるんじゃないかなと。

──なるほど。大橋さんのボーカルの感じもいつもと違いますね。

そうですね。ちょっと彼に寄せる意識もしましたし、ミックスでさらに寄ったかなって感じもしています。

天使の歌声のリズムを強調

──ほかの2曲は大橋さん主導ですね。僕が今回の新曲4曲の中で一番好きなのが「アーモンド feat. りりあ。」でした。まずドラムがカッコいい。

ドラムは僕です(と挙手する)。

──4分の4拍子なのに一瞬、奇数拍子みたいに聞こえるのも面白くて、「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」にも通じる独特さを感じました。

ピアノのリズムが食ってるからかな。これは先行配信もあったので最初に制作したんですけど、リリースまで時間がなくて、勢いでバババーッと流されるままに作らざるを得ない状況になってしまったんですよ。だから例えば「ミルクとシュガー」のときのように「ここを聴いてくれ!」みたいなこだわりポイントを言えないのが申し訳ないです。もちろん時間がないなりに、いろんな試行錯誤はしているので、そうして魅力を拾ってもらえるのはうれしいですし、ラッキーだなって思いますけど。

──いい曲だと思いましたよ。ご自身としては勢い任せで細部を詰められなかったという思いが強いのかもしれませんが、いちリスナーとしてアイデアとパフォーマンスには冴えを感じました。

普通のアプローチはしたくないというのは常にあるので、どうしたらより早くほかにないものに組み上げられるか、と普段からずっと考えてます。

大橋トリオ

──より早くなんですね(笑)。りりあ。さんの歌もとっても素敵です。

天使の歌声ですよね。「ミュージックステーション」で彼女のパフォーマンスを観たとき、顔は映ってなかったけど、生でちゃんと歌っているのがわかったんですよ。TikTokで人気があると知って聴いたときは、ピッチは機械みたいに正確だし、ビブラートもきれいに均等にかかってて、「これ、どうなってんだろうな?」と不思議だったんですけど、テレビで聴いて「生なんだ!」と。

──失恋の歌を切々と歌うイメージが強い人ですが、大橋さんは彼女にこういう明るくてリズミカルな曲を歌わせてみたいと思ったんですか?

彼女に関しては、オーガニックな美メロというところで大橋トリオとそもそも通ずる部分があるのかなとは思っていたので、そういう曲を相乗効果を狙ってやるのも正解だったのかもしれないんですけど、こっちの方向に行ってみちゃった、という。計算ではなくたまたまなのかもしれないんですけど、リズムを強調した彼女の歌を聴いてみたかったんですよ。その結果、「なんでもイケるんだな、この子は」と思いました。

天使の声×年輪重ねた声、男同士のデュエットの難しさ

──「long way home feat. Kenta Dedachi」も、Kenta Dedachiさんのアルバム(「Midnight Sun」)にあったエレクトロニックなR&Bっぽい曲と感触が違って新鮮でした。

デダケンとのコラボは「Dedachiくんっていう若い子がいるんですけど」と言われて、聴いてみて「めっちゃいいっすね」「じゃあオファーしましょう」という流れで決まったんですよ。そのとき聴いて抱いた印象をいまや思い出せないくらい、この曲は彼にパチンとハマったんじゃないかなと僕は思ってます。

──なるほど、上書きされちゃったわけですね。

僕の中では。ちなみに、どういう感じに捉えましたか?

──例えばエド・シーランとかトム・ミッシュとか、R&Bをベースにしつつもアコースティックな音で歌う海外のアーティストっているじゃないですか。あのあたりのコンテンポラリーな洋楽の匂いを感じました。

あー、それは狙ったとこではありますね。ちょっとだけ工夫して、あえてオーガニックなアコギの音を入れたりはしてますけど。ずっと昔から使ってる1910年代のギターを、左右で2本弾いて。

大橋トリオ

──Dedachiさんは声がいいですね。

めちゃくちゃいい。実を言うと僕と声の相性が合わなくて大変だったんですよ、きれいすぎて。彼の歌はLAのスタジオで録って、僕はリモートで見ながらディレクションして、いい感じに録れたんですけど、さあ自分の歌を入れようとなったときに、合わない合わない。彼の声が天使すぎて、この薄汚れた、40何年の……(笑)。

──年輪がね(笑)。どうやって合わせていったんですか?

まず歌い方をがんばりました。あとミックスでならして、だいぶ寄せられたかなと。けっこう苦労しました。

──ほかの3人も天使と言えば天使ですけど、kojikojiさんとりりあ。さんは、ちょっとハスキーな要素が入っているから大橋さんとの相性がよく聞こえたのかな。

いや、たぶん男同士だから苦戦したんだと思います、デダケンの場合は。男女だったらオクターブが違うし、オクターブでユニゾンをしてたら、そんなに失敗することはないし。男同士だと、同じ音程で歌うから差が出やすいということのような気がしますね。

──同じ苦労はJQさんのときはなかった?

JQは「デュエットしてます」っていう感じじゃないんです。1番は僕、2番はJQみたいな。

2023年1月12日更新