ライブの現実とそれぞれの手応え
──結成から5カ月ほど経った2017年8月には大阪・北堀江club vijonで初ライブを行うと同時に、1stデモCD「タイフー!」を発表しました。
藤田 うまくバンドを運営するのがこれまでの経験上、大前提にあったので、初ライブに合わせてMVも公開しました。
朝日 DIYでレコーディングしたデモ音源でしたけど、名刺代わりになるものがあったほうがいいですからね。
──その後ライブへの出演やデモ音源のリリースを重ねていくわけですが、手応えは感じましたか?
藤田 「だけじゃないBABY」(2017年11月発表の2ndデモ)を出したとき、MVの反応はけっこうよかったんですけど、集客には直結してなくて。それでも「ワンマンライブをやろう」って話になり、2018年3月に「オシャレ大作戦」のMVを公開したときに一気に注目度が上がって、そのあたりでやっと手応えを感じました。
タケイ ライブの手応えと言うと、お客さんの数は多かれ少なかれ、1人ひとりにちゃんと届いている印象でした。お客さんの様子を見て、この方向で間違っていないと思えたし、自分たちもすごく楽しんで活動できていたし。
朝日 演奏したときの手応えで言えば、もう最初のスタジオの日からずっと感じてます。タケちゃんはその日遅刻したんですけどね。
タケイ このタイミングでその話する?(笑)
もっさ 4、5時間遅刻してきたんです! はじめましての日だったのに! とんでもない人やと思いました(笑)。
タケイ いや、3時間や。
藤田 大遅刻だよ、それ(笑)。
タケイ もっさは最初のスタジオでめっちゃ怯えてたんですよ。肩がガチガチで。
もっさ ただ「めちゃくちゃ楽しい! いいバンドになりそう!」とは思ってましたよ。ようやくホッとしたのは最初の企画のとき。それまでの私からしたらお客さんがめっちゃいる状況だったんです。赤字だったとしても、私からしたら「こんなにお客さんがいてすごい!」って気持ち。
朝日 確かに結成して半年もないバンドの自主企画に50人来てくれたらそれだけで万々歳と言う見方もあるね。でもあのとき、藤田がすごく悲観的な顔をしてたのは覚えてる。人一倍、数字を気にするから。
藤田 集客を現実的に見るとやっぱり厳しかったので。
もっさ それでも私は楽しかったです。
楽曲の振れ幅を楽しめる多彩なMV
──MVは新たに公開されるたびに大きな反響を生んでいます。楽曲の世界観をふくらませる意味でも、ネクライトーキーの魅力の1つと言えそうです。
朝日 単純に今のリスナーはYouTubeでバンドの音楽を探すことが多いので、バンドの見せ方を考えるうえでは大事な要素ですね。昔はラジオ、テレビ、ライブハウスのフリーペーパーが情報収集のメインで、興味を持ったらCDを買うか借りるかして聴いてたと思います。自分の場合、アルバムやシングルを聴いて、カップリングとかの代表曲以外の面白い楽曲に触れるのが楽しかったんですよ。だけど今って、気になったバンドがいたらYouTubeで探せば済んじゃうから、アルバムを聴く機会が減ってる気がするんです。YouTubeでMVを出すとしたら、一般的にはリード曲が多いと思うので、代表曲だけが広まるって状態で。言うならばくるりもスピッツもアルバムを聴いたら代表曲とは毛色の違う、とがった曲もある。そういう振れ幅が楽しかったから、ネクライトーキーでは代表曲になりえない面白い曲もMVにしたかったんです。普通のバンドなら「許せ!服部」みたいな曲でMVは作らないはず。
──確かに「オシャレ大作戦」から一転して、この楽曲はシュールな雰囲気でした。
朝日 普通だったら「アルバムを手に取った人だけに届くマニア向けのアルバム曲だよね」と思われそうな曲でも、MVにしたほうが絶対に面白くなると思ったから。いろんな曲を聴かせたいと気持ちから、MVがどんどん増えていってます。
──新曲「めっちゃかわいいうた」「こんがらがった」「明日にだって」のMVを10月から3カ月連続でアップする企画もそういった思いからだったんですね。
朝日 「こんがらがった」はようやく昨日完成しました(取材は10月下旬に実施)。作ってくれてる人(映像ディレクターのKona Ryohei)の家に泊まり込んで、ああでもないこうでもないと言いながら。でもバンドの制作物に関する負担はもっさのおかげでずいぶん楽になったんですよ。CDのジャケットデザインとかブックレットのイラストはもっさが描いてくれたので。
もっさ めっちゃがんばって絵を描いたので見てほしいです。これはCDを買ってくれた人だけの楽しみだと思うので、手に取ってくれたらうれしいです。
「オシャレ大作戦」を超える曲を
──今回のアルバム「ONE!」を作るにあたってテーマはありましたか?
朝日 自分は好きなアーティストの1stアルバムを自分はめちゃくちゃ聴いてきたので、収録曲のどれを取っても後悔のない盤にしようと。最初のフルアルバムだから挨拶代わりの作品になるよう心がけました。
藤田 「オシャレ大作戦」を上回る曲を朝日さんには作ってほしかったので、がんばってもらいました(笑)。
──「オシャレ大作戦」はオーケストラヒットの音がこれでもかと入っていてパンチが効いてますよね。
もっさ でも朝日さんはこの曲を「小パンチくらいや」って言うんですよ。
朝日 ははは(笑)。オーケストラヒットの使い方は遊びに近いですけど、もっさが歌ってこそ成立してるんですよね。もちろん曲としては楽しい雰囲気だし気に入ってますけど、俺の中にある“自分の好きな曲ランキング”だと実はそんな上位じゃないんです。比べるなら「レイニーレイニー」とか「こんがらがった」はもっと上だし、「がっかりされたくないな」もいい。「ゆうな」とか「明日にだって」も上。
もっさ ええ? 「オシャレ大作戦」めっちゃ低くない?
タケイ そのランキングどうなってるの?
朝日 「レイニーレイニー」が一番好き。「オシャレ大作戦」は12番目くらいかな。
藤田 まさかの一番下やった!(笑)
朝日 今作は特に歌詞が気に入ってますね。「助平を騙す広告だとか」みたいな面白ワードもあるし。「夏の雷鳴」は「冴えない暮らし 明日ゴミ出し」で始まって、最後は同じ歌詞のあとに「僕のことをずっと覚えていてほしい」って構成で。最初に出てきた歌詞が最後に再度出てくるあたり、三谷幸喜作品にある伏線っぽさがあって好きです。
──「レイニーレイニー」はアルバムの幕開けにぴったりな疾走感のある曲ですね。ドラムの勢いが特に。
朝日 曲を作ってるときに自分でやりたいキメのパターンとかを考えるんですけど、基本的には「タケちゃんがどうにかしてくれるやろ」って感じでお願いしてます。
タケイ 朝日がベースもドラムも鍵盤もギターもラフで打ち込んで全体像がわかるデモを持ってきて、それを各々がアレンジしてます。ドラムのデモに関しては、生演奏だと叩き方を工夫しないと再現不可能なリズムパターンがあって(笑)。でもそのフレーズを聴きながらドラムを叩いてると面白いフレーズが浮かんでくることがあって、「レイニーレイニー」のリズムパターンはまさにそのやり方です。
朝日 タケちゃんはNUMBER GIRLかZAZEN BOYSのどっちかと言ったらZAZENキッズなんで。変なフレーズであればあるほどノリノリになってくれます(笑)。
──明るい曲調の楽曲が多いですが、歌詞に関してはネガティブな印象も受けました。「めっちゃかわいいうた」はタイトルこそポップですけど、「どつきまわせ、鉄で殴れ」とけっこう強い表現もさらりと歌われていますね。
朝日 この曲はマニアックな曲調なのでできるだけキャッチーにしたかったんですけど、最終的に「曲名がキャッチーならOK」というジャッジで落ち着きました。明るい曲調に対して相反する暗い歌詞の曲は、もっさと一緒にやるようになってから、自分の中では過去にないくらいハマってる。普段この子はアホ面だけど、たまに「それをするのはバンドじゃない!」みたいに骨太なことを言うようなところがあるんです。そんな二面性みたいな部分がネクライトーキーとしての魅力になっていけば、もっと面白くなると思います。
──インパクトのある言葉をフックとしてありつつも、楽曲の全体を捉えるとしっかり情景が浮かびました。
朝日 それはBUMP OF CHICKENとかthe pillowsを聴いていた影響かも。わかりやすい言葉を使いながらちゃんと詩的になるようにしてます。自分が歌わないからこそ自由に書けるというのも大きくて、例えば「25を過ぎたら死ぬしかない」(「オシャレ大作戦」より)なんて、「25を過ぎても生きていたい」っていう後半の歌詞につながるから救われる感じにはなってますけど、自分で歌うにはしんどいから(笑)。
次のページ »
もっさの思い描いたメロディと歌詞の裏側
- ネクライトーキー「ONE!」
- 2018年12月5日発売 / NECRY TALKIE
-
[CD] 2500円
NCJD-10002
- 収録曲
-
- レイニーレイニー
- こんがらがった!
- めっちゃかわいいうた
- タイフー!
- 許せ!服部
- オシャレ大作戦
- がっかりされたくないな
- だけじゃないBABY
- ゆうな
- 遠吠えのサンセット
- 明日にだって
- 夏の雷鳴
- ネクライトーキー
- もっさ(Vo, G)、朝日(G)、藤田(B)、カズマ・タケイ(Dr)からなる4人組バンド。2017年に結成された。結成から1年9カ月の間にデモCDが合計500枚を超えるセールスを記録したほか、2018年3月末に公開した「オシャレ大作戦」のミュージックビデオがYouTubeで177万回再生を突破。ワンマンライブのチケットは即日ソールドアウトするなど、ライブの動員数も伸ばし続けている。2018年12月に初の全国流通盤としてフルアルバム「ONE!」をリリースする。