ネクライトーキー「TORCH」インタビュー|リスナーに寄り添う音楽、広がる振り幅

ネクライトーキーが2月21日に4thアルバム「TORCH」をリリースした。オリジナルアルバムとしては2021年5月発表の「FREAK」以来およそ2年9カ月ぶりの新作となるこの作品には、Netflixアニメ「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」のオープニングテーマとして日本のみならず海外でも人気を集める「bloom」など14トラックが収録されている。

音楽ナタリーでは楽曲のバリエーションが幅広い新作の完成を記念して、メンバー全員にインタビュー。アルバムタイトルに込めた思いや、「俺の、私のこの音を聴け!」というテーマで作品の聴きどころを語ってもらった。

取材・文 / 田中和宏撮影 / 雨宮透貴

リスナーに寄り添うアルバムが完成

──4thアルバム「TORCH」は、オリジナルアルバムとしては2021年5月発表の「FREAK」から約2年9か月ぶりの新作になります。

藤田(B) ほぼ3年。そんなに経つんですね。

──2022年にセルフカバーミニアルバム「MEMORIES2」、昨年8月にEP「踊れ!ランバダ」とリリース自体はあったので、そんなにひさしぶりという感じもしませんね。今作のタイトル「TORCH」は“松明”みたいな意味ですか?

朝日(G) まさに松明的なイメージです。自分の中で「FREAK」が内省的というか、極端な言い方をするならリスナーを突き放すような内容だったので、今作は聴く人の気持ちに寄り添うような、安心できるアルバムにしたかったんです。それで、収録曲の「bloom」を作った頃から、「TORCH」というフレーズがぼんやりと浮かんで。バンド名に“ライト”というワードが入ってることもあって、「光について歌いたい」と思ったんです。でも「LIGHT」だとそのまますぎるし、「TORCH」なら火の温かみも意味するからふさわしいタイトルだなって。実際、リスナーに寄り添える曲ができてきたなと思ったところで、メンバーにはこのタイトルでいきたいと話しました。だいたいアルバムが半分くらいできたタイミングで。

朝日(G)

朝日(G)

──今作は「bloom」を含む既発曲が4曲、残りが新曲で14トラック入りとまさにフルアルバムというボリュームで、振り幅の広い内容になりました。ツアーで各地を回るタイミングもある中、じっくり制作できたんですか?

カズマ・タケイ(Dr) 2023年の1年を目一杯使いましたね。「bloom」が完成したのは去年の3月頭でしたし。

──「踊れ!ランバダ」の収録曲もほぼ2023年に作った曲とのことなので、去年は制作にかなり時間が使えたんですね。

もっさ(Vo, G) EP「踊れ!ランバダ」はアルバムの制作中に「これも出すか」という話になり。でもアルバム曲だけだと曲数的に寂しいからEP用の曲をプラスで作ったんですよ。

朝日 いやあ、去年はいっぱい作りましたねえ。

もっさ ツアーもフェスもあったし、ずっとレコーディングとライブをし続ける生活だったね(笑)。

──ちなみに、ネクライトーキーのInstagramストーリーズにあるライブ映像の一部が載っていました。「オシャレ大作戦」の間奏で朝日さんがかなり激しくお客さんを煽ってる姿を見て、隣のもっささんが笑っているというシーンがシュールでした(笑)。

もっさ 「なんか変だな?」と思った瞬間、笑っちゃうんですよね(笑)。

中村郁香(Key) 後ろからだと俯瞰で、「お客さんを煽ってる朝日さんを見て笑い出すもっさ」が面白いので、そのパートになるとついもっさを見ちゃう(笑)。

朝日 慣れへんの?

もっさ だっておかしいんだもん(笑)。朝日さんに目を向けなければ真剣に歌えます!

ネトフリアニメOP曲で話題に

──「bloom」はNetflixのアニメ「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」のオープニングテーマということもあってか、Spotifyでかなり再生されています。YouTubeで公開されているミュージックビデオは国内外を問わず反響がありますね。

朝日 あのアニメは、原作ファン待望の作品だったんだなと思いました。海外からの反響が特に大きくて。

藤田 そうそう。日本よりもアメリカとか海外からのアクセスが多いみたいです。

中村 MVが原作の実写映画のオマージュになっているので、それを見つけ出すのが面白かったみたいで。そういうシーンが原作ファンに響く内容になってました。

朝日 実際、この曲自体も原作映画「スコット・ピルグリム」の影響を受けていて。バンドが登場する作品ということもあって、感情移入しやすくて、すっと曲を書けました。

──ライブで海外のファンを見かける機会は増えましたか?

もっさ 去年「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」が配信されてから、「ネクライトーキーを観に来た」っていう海外の人を何人か見かけました。

朝日 YouTubeのコメント欄にも「この日のライブ観に行ったぜ」って英語で書いてあって。国境を越えてライブを観に来る行動力がすごいです。

──そういえばアーティスト写真のロケ場所である下北沢SHELTERもアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の影響で、わりとどのアーティストライブに行っても外国人のお客さんがいますね。

朝日 ライブハウスにふらっと立ち寄って飲むみたいな文化圏の人たちも多いでしょうからね。日本だとお目当てのアーティストありきで足を運ぶ場所ですけど。

ポップさよりも力強さを

──アルバムの収録曲について、「この音をぜひ聴いて!」というポイントを教えてください。

中村 面白さだと、3曲目の「浪漫てっくもんすたあ」のソロ。レコーディング中、最後のほうで演奏をミスって「もう!」と鍵盤をバーンって叩いてしまいまして……。そのバーンと叩いた音が採用されました(笑)。

藤田 ソロ終わりのバーン!のあと、冷静にロングトーンが入るのも面白かった。

──この曲は歌い出しからJ-POPのトレンドを感じる節回しですよね。

朝日 「浪漫てっくもんすたあ」は、曲自体のクセがすごいので冒頭くらいは耳なじみのいい展開にしたかったんです。

──曲の入り口は、サブスク全盛の今の時代では大切な要素ですよね。

朝日 そう。キャッチーであったほうがいい。イントロありのバージョンとかも作ってみたんですけど、どうあがいても変な曲だったので、入り口はもっさに作ってもらいました。今作はイントロ長めの曲ばかりですけど、「浪漫てっくもんすたあ」だけはイントロがないからトレンドに沿ってるかも(笑)。

──もっささんはライブでも歌の表現力が増している印象ですが、今回のレコーディングはどうでしたか?

もっさ まず「TORCH」の曲は、全体的に音程が高すぎないんです。ポップさよりも力強さに重きを置いているというか。自分の歌は「ライブで歌うときの声を収録している」って感じで、これまで盤では出せていなかったもっさが顔を出した!みたいな。歌で聴いてほしいところは、「石ころの気持ち」の歌詞にある「うるせえタコが!」の前の2行です。

藤田 前の2行は言わないんだ(笑)。

もっさ えーと、「誰かが悲しい気持ち胸に抱いたままで生きたなら」ですね。素直に「ここを聴いて!」と言いたいんですけど(笑)、さらっとした部分なので私だけのお気に入りになるかもしれません。

もっさ(Vo, G)

もっさ(Vo, G)

明るい曲調で悪態を付く

──今作はもっささんの歌声が力強いこともあってか、ポップながらブルージーな雰囲気を感じました。

もっさ 朝日さんがブルース大好きだからかな。

朝日 どうなんですかね? 今回はもっさの内なるブルースが出たのかな。もともとは労働者階級の音楽だけど、生活について歌うことが多くなったあたり、確かにブルースっぽい。だからもっさの歌を通してブルースっぽさがにじみ出ているのかもしれない。

──「悪態なんかついちまうぜ」の「ちぇちぇちぇ」というフレーズは悪態をついているさまを表現している?

朝日 そうです。舌打ちを繰り返しているような。アルバムの曲を全部作り終えてから、この曲は「ちぇ」がタイトルのほうがよかったなと思いました(笑)。まあ「こうすればよかったかな」という思いは曲が完成したところで際限なく湧き出てくるものです。この曲は自分の中で、まさに生活の大変さを歌っているのでブルースと言えばブルースの要素はあるかもしれません。The Beatlesの「Lady Madonna」という労働階級の女性に関する歌がありまして、それのオマージュとまではいかないんですけど、その曲を聴いて考えることがあったなっていう思考のプロセスがこの曲を作るきっかけとして確かにあるんですよね。メッセージは悪態をついている感じですけど、サウンドや曲調を楽しい感じにしているあたりは「Lady Madonna」と同じですね。

リズムに見るネクライトーキーの新たな一面

──タケイさんお気に入りの曲は?

タケイ 9曲目の「わっしょいまっしょい」ですね。さっきブルースのお話をしてましたけど、まさにそういういなたいグルーヴを感じてほしいです。ビートにはストレートなリズムと跳ねたリズムがあるんですが、この曲ではちょうどその間くらいの跳ね具合に落とし込めたなと。その面白いグルーヴ感と、ベタすぎる“ザ・ドラムソロ”みたいなフレーズがあるので、楽しんでほしいです。

──セッションしながら作ったんですか?

タケイ そうです。バンドでセッションしながら作っていった曲がいくつかあって、そのうちの1曲ですね。

カズマ・タケイ(Dr)

カズマ・タケイ(Dr)

──「わっしょいまっしょい」はストレートとシャッフルの間のノリが出せたということですけど、タケイさん的にはどっちが得意ですか?

タケイ どストレートなリズムが得意だったんですよ。激しいロックバンドの音楽を聴いて育ったので。でも20代前半からファンクとかルーツミュージックにハマって、そういうバイブスをリズムで表現したいという思いがあって個人でずっと練習してたんです。で、その成果を生かす機会がこの曲でできたという。

──10曲目「ねぇ、今どんな気分?」のドラムはなかなか激しくてロックだなと。

タケイ 手数が多くて派手です(笑)。この曲は朝日が作ったデモに自分のエッセンスをいかに落とし込んでいけるかっていうところで。

朝日 けっこうデモから変わったよね(笑)。

藤田 この曲、レコーディングの前日にデモが上がって、朝日さんから「これがやりたいです」って連絡が入り……。

タケイ 送られてきたのが前日の夜だったでしょ? だからデモを聴いてほぼ半日でレコーディング(笑)。決まり切ってないからこそできることも多いと思うので、実際はけっこうときめいていて、ワクワク気分で叩きました。

朝日 今までは120BPMくらいだと優しめの曲が多かったんですけど、そのテンポ感でタケちゃんのフルショットを叩いてもらうというのが、これまでにないネクライトーキーの新しい一面とも言えます。

──この曲、ボーカルのリバーブ感がパートごとに露骨に違ったりして、なんか面白いですよね。

藤田 やりすぎかもってレベルで遊んでいるんですよね(笑)。私は11曲目「紫」をぜひ聴いてほしいです。ベースがメインになっていて、イントロの歪ませた音のベースラインは「ソロっぽいやつを入れてほしい」という朝日さんの意見を受けたもので。サビ終わりのブレイクはベースソロっぽくなってるんですけど、プリプロの段階ではギターもキーボードもリードを弾いてたはずなんですよね。

もっさ 誰のソロにする?みたいな話になって、ギターを弾いた記憶があるけど、「なんか違うね」ってなった気がする。

タケイ 結果的にベースが目立つ曲になった(笑)。

藤田 曲の後半にシューゲイザーっぽく展開するのもネクライトーキーになかった感じなので、ぜひ聴いてほしいです。