ナタリー PowerPush - ムック

バンドの多様性を凝縮した2年ぶり新作「シャングリラ」

「ありがとう」という気持ちが強くなった

──今作の曲作り自体は大変でした?

ミヤ バンドの中ではなんでもありになってきているから、それほど大変でもなかったですね。曲によってはツインボーカルにしてみたり、地味にちょこちょこ新しいことにもチャレンジしてるんですよ。「MOTHER」(テレビアニメ「NARUTO」のエンディングテーマ)はムックではあまりやってない曲調なんですけど、歌っていることは10年前と変わらない内容なんですよね。ただ、同じことでも今歌うと全く出てくる言葉も違うし、大人になっているので……。悲しさよりも、感謝の気持ちのほうが大きくなっているんですよね。その自分の変化に、歌詞を書いてるうちに気付けたんですよ。だから、まだまだいろんな感情があるし、やれることはいっぱいあるんだなと思って。「NARUTO」のストーリーの背景も知って、そことリンクしたきっかけもあり、自分もこういうことを思っていたんだなって。

──それはどういう感情ですか?

ミヤ 「ありがとう」という気持ちが強くなった、ということじゃないかな。「ありがとう」と言える人がいるうちに言っておかないと、後悔するなと思って。そういう気持ちは、昔はなかったですからね。例えば飲みに行って友達と楽しんだ次の日にその友達が死ぬとか、あり得ることじゃないですか。いきなり来る事件みたいなものに対して、何ができるかと言えば、何もできないですからね。バンドもそうだと思うんですよ。明日死ぬかもしれない中で精一杯生きたいし、やれることをやっていきたい。今が良ければいいんじゃん、というのがあながち間違ってないんじゃないかな。

──今できることを最大限にやり切ろうと。

ミヤ 伝えたいことがある人にためらって、明日電話すればいいかじゃなくて、思ったときに行動に起こそうというのはありますね。

日本語の歌詞でしか出せないものを大切にしたい

──歌詞の面では、「見猿 聞か猿 Jesus Christ」(「狂乱狂唱」)とか、随所に遊び心も散りばめられてますね。

逹瑯 結構、歌詞では遊びましたね。

ミヤ 海外の人が聴いたらどう思うんだろうなって(笑)。一応アルバムには英訳も載ってますけどね。「見猿 聞か猿 Jesus Christ」の部分はどう訳されてるんだろうなと。

アーティスト写真

逹瑯 宗教関係の人が怒らないかなって(笑)。まあ、あまり根を詰め過ぎずに息抜きをしたときに見えてくる遊び心は、ここ何年か大事にしてますね。潜り続けていると息苦しくなりますからね。息継ぎしたときに潜ってるときの苦しさもわかるし、その対比というか、いろんなアプローチを使えるようになりました。

ミヤ より良いものを作りたい、という気持ちはあるので。アルバムは自分とって鏡なんですよ。さかのぼって聴くと、そのときの自分や気持ちがわかるし、日記みたいなものですからね。15年やってきて、33歳になって、今はこういう気分なんだなって。この次はどうなるかわからないし。いろんな表現方法があって、いくらでもディープになれるし、逆にいくらでも薄っぺらくやれると思うんですよ。特に日本語という言語、その表現の幅はすごいと思う。日本語の歌詞でしか出せない言い回しや雰囲気をもっと大切にしながらやっていきたいですね。

──日本人らしさ、みたいなものをより大切に?

ミヤ 日本人らしさは出ているとは思うけど、海外の人が聴いたときにどう思うのか。その辺もより意識するようになりましたね。

バンドや自分の人生に対してリアルなものが作れた

──今作の後半は特に懐かしいメロディであったり、フォークっぽいニュアンスも感じます。

ミヤ それは出てしまうし、逆にもっとやりたいと思うようになりましたね。コントロールしているところと言えば、そういうところかもしれない。

──というのは?

ミヤ 何も考えないで作ると、フォークっぽくなっちゃうんですよ。フォークっぽい曲を作らないようにしようと、ここ何年か心がけてきたから。

──今作ではそれもOKにして?

ミヤ 出したつもりはなかったけど、結果的に出ちゃったものはいいかなと。

逹瑯 歌詞よりも音像に添って歌うことが多いので、その手法自体がまさにフォークなんですよね。昔のフォーク、そこから派生した歌謡曲も大好きだから。ジャンルはどうであれ、情緒的な音楽は好きですね。

──確かに1曲1曲から風景や情景が浮かびやすいし、ストーリー性を帯びた曲調ばかりで。「純粋さを 曖昧さを 全部越えて行け そのままで」(「シャングリラ」)という歌詞がありますが、今作の内容を象徴した言葉だなと思いました。

ミヤ それは仮歌詞をそのまま入れたんですよ。イメージで鳴ってる音の歌詞がそれだったので、これでいいかなって。バンドの中の季節の移り変わりという意味で、もう何周も何周も回ってるけど……決して同じ日はないじゃないですか。何かを目指す過程で生まれてくるものが面白くてやってますからね。何かを表現しようと、決めて作るものではないと思うんですよ。今回はバンドや自分の人生に対して、リアルなものが作れたと思います。

──わかりました。あと、最後のシークレットトラックがすごく気になるんですが。

逹瑯 発売当日に買った人だけがわかる隠しトラックですね。おまけのような、悪ノリみたいな感じですね(笑)。

CD収録曲
  1. Mr. Liar
  2. G.G.
  3. アルカディア featuring DAISHI DANCE
  4. ニルヴァーナ – Shangri-la edit -
  5. ハニー
  6. 終着の鐘
  7. ピュアブラック
  8. 狂乱狂唱~21st Century Baby~
  9. Marry You
  10. 夜空のクレパス
  11. YOU & I
  12. MOTHER
  13. シャングリラ
完全限定盤CD収録曲
-MUCC 15th Anniversary year Live(s)- 「97-12」2012.09.16 Zepp Nagoya
  1. 梟の揺り篭
  2. アンジャベル
  3. 絶望
  4. 幻燈讃歌
  5. 友達が死んだ日
  6. 4月のレンゲ草
  7. 25時の憂鬱
  8. 月の夜
  9. 雨のオーケストラ
  10. 狂った果実(笑)
初回限定盤CD収録曲
-MUCC 15th Anniversary year Live(s)- 「97-12」2012.09.13仙台Rensa
  1. 黒煙
  2. FUZZ –Thunder Groove Ver. –
  3. 月光
  4. 燈映
  5. 娼婦
  6. 心色
  7. 暁闇
  8. 家路
  9. 流星
  10. 優しい歌
ムック

1997年に茨城で結成された4人組ロックバンド。日本語にこだわった文学性の強い歌詞と、従来のヴィジュアル系サウンドに欧米ヘヴィ / ラウドロックからの影響をミックスした独自の音楽性が高く評価されている。インディーズでの活動を経て、2003年5月にシングル「我、在ルベキ場所」でメジャーデビュー。2006年には初の日本武道館公演を敢行した。また2007年7月にはGUNS N' ROSESのジャパンツアーでオープニングアクトを務め、話題となる。2008年には海外のバンドと北米、ヨーロッパ、日本を回る大規模なツアー「Rockstar Taste Of Chaos 2008」に参加するなど、海外でのライブ活動も積極的に行っている。2011年11月、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ移籍第1弾シングル「アルカディア featuring DAISHI DANCE」を発売。2012年6月には幕張メッセで結成15周年ライブ「MUCC vs ムック vs MUCC」を開催した。同年11月、約2年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「シャングリラ」をリリースする。