京(Vo / DIR EN GREY、sukekiyo)、yukihiro(Dr / L'Arc-en-Ciel、ACID ANDROID)、ミヤ(G / MUCC)、antz(G / Tokyo Shoegazer)、高松浩史(B / The Novembers)からなるロックバンド・Petit Brabanconの2nd EP「Seven Garbage Born of Hatred」が、本日8月7日にリリースされた。
「Seven Garbage Born of Hatred」には、2023年12月に配信リリースされた「a humble border」を含む7曲を収録。凶暴性と精緻さが同居したアンサンブル、怒気をあらわにした噛み付くような京のボーカルと、このメンバーだからこそ作り得る強烈なサウンドが詰め込まれている。
個々の活動もある中、5人はどのようにPetit Brabanconというバンドと向き合っているのか。音楽ナタリーではコンポーザーとしてサウンドの中核を担うミヤとantzの2人に、初ライブから約2年半が経ったバンドの現在地、使用ギターにまつわるエピソードなど多岐にわたって話を聞いた。
取材・文 / 岡見高秀撮影 / Victor Nomoto(METACRAFT)、青木カズロー、尾形隆夫(尾形隆夫写真事務所)
徐々に形作られた“バンドPetit Brabancon”
──約14カ月ぶりとなるスタジオ録音作品「Seven Garbage Born of Hatred」がリリースされました。Petit Brabanconにとって本作は2作目のEPとなりますが、まずはここまでの道のりについて聞かせてください。多岐にわたるキャリアを持ったメンバーが集ったPetit Brabanconですが、コンセプト的にセッションプロジェクトではなく、あくまでもバンドとして機能させる必要があったと思います。2021年12月の初ステージから2年半、バンド内にはどのような変化があったと感じていますか?
ミヤ(G) それぞれのやり方を集約する形で始まったので、メンバーによってスピード感が全然違って、通行止めみたいになることが多くて大変でした。
antz(G) 自分はプロジェクトが動いてから参加して、しかもメンツがメンツなので、様子をうかがっていたんです。周りがやっていることを見聞きしながら動くみたいな感じですかね。ただ実際には、そんなに頻繁にメンバーとやりとりをしているわけではなかったので、当時は「本当にやるのかな? やっぱりこの話はナシになるのかな?」と思っていたこともありました(笑)。
──その動きが顕著になってきたと感じたのはいつ頃ですか?
antz 1stアルバム(2022年8月リリースの「Fetish」)を作るときかな。ミヤさんの作った5曲ぐらいがメンバーに共有されていたんですけど、それをどう形にしていくか、みたいな話をして。
ミヤ 目標が具体的に決まってからは早かったような気はします。最近はわりと長い目で見ていて、動く予定が半年後であっても作曲を始めたり、そういうことは以前より円滑にできているかな。
──作曲時に「このバンド用の曲を書くぞ」というスイッチはあるものですか?
antz 自分は完全にスイッチを切り替えていますね。日々いろいろなネタを集めていて、デモの制作期間に掘り起こしたりもするんですけど。
──掘り起こしてくる素材というのは、そもそもPetit Brabanconを想定して作っていたもの?
antz でも「Mickey」に関してはアイデアとしてはすごく昔からあったので、プチブラを想定していたわけではなかったです。
ミヤ 僕はantzさんとは真逆で、「作るぞ!」とならないと一切作らないです。必要な分しか作らないから、ストックもないです。形にすると怖いんですよ。
──と言うと?
ミヤ そこに“何か”があると、逃げ道になっちゃう。だから形になるまでは、絶対頭の中以外には残さない。頭の中で消えたものは、消えるべくして消えているんで。
──記憶から消えていく曲は、そこまでの曲ではなかったということですか。
ミヤ そうですね。逆に元ネタ……「このアーティスト、カッコいいな。次はこういうオマージュをやってみたいな」とか、そういうプレイリストはあります。
音楽家同士の定番の違いを楽しむ
──お二人の作曲方法には、そういった違いもあるんですね。バンドが進行していく過程で、目指している形に近付いていったのか、それとも自然と変化していったのか、それぞれどう感じているのでしょうか?
ミヤ 最初は90年代のラウドミュージックをやりたくてプチブラに入ったんですけど、曲を作ってみると「それとはまた違う音楽だよね」というイメージでしたね。それがなぜなのか最初はよくわからなかったけど、結局メンバーの個性で自分のイメージと違うものになっているから、最初はそのギャップが埋まらなくて「なんでこういうふうにならないんですかね?」みたいなことばかり言っちゃっていた気がします。
──それはメンバーに対して?
ミヤ そう。このバンドに対しての僕の経験値も、最初はもちろんないので。例えばブレイクしたいところでブレイクしない、みたいな違いが生まれる。音楽家同士の定番の違いってあるじゃないですか。
──それは、こういった経緯で集まったバンドならではの違いでもありますよね。
ミヤ そこを探るのが最初は難しくて。でもこういうメンツが集まっているバンドをやるからには、そういう違いが5人分あるものなんだと思ってやっていったら、自分も楽しめるようになりました。
antz 僕の場合は「プチブラは得体の知れないところで激しい音楽をやる」ぐらいのイメージしかなくて。それが形になったときに、率直に「こういうことになるんだ」と納得しました。本当にお互いがどんなプレイヤーなのかも全然わからない中で、想像がつかない音楽ができた……みたいな。そしてライブやレコーディングを重ねていったことで、だんだん想像ができるようになってきたというか。
──メンバーの違う感性がひとつになっていくことこそ、まさにバンド化するということなのかなと思います。音楽のスタイルでは、大別するとインダストリアルコアというか、90年代のバンドキッズが見ていた近未来的な音楽……文化としてのパンクを内包したラウドミュージックを標榜していると感じます。ある意味、当時の日本では根付かなかったスタイルでもありますが、ここでPetit Brabanconが改めてこの路線を開拓していくぞ、という気概をお持ちだったりするんでしょうか?
antz 僕は特にないです。インダストリアル感も自分が好きだから入れている……くらいの感覚です。別に意識してやろうとしているわけではなく、“染み付いちゃっている”とよく言うんですけど、たぶんそういうことなだけだと思います。
ミヤ 自分もないですね。染み付いているインダストリアルコアのサウンドで言うと、THE MAD CAPSULE MARKETSとかになる。今回のEPでは、その部分じゃないところが僕の担当だったのかなという感じはあります。例えば「BATMAN」は単純にMinistryっぽい曲を作りたいな、とか。激しいサウンドにシンセが入ってくるイビツな感じがそういう世界観につながるんでしょうね。
京さんは“歌いたいときに歌いたい”というスタイル
──改めて「Seven Garbage Born of Hatred」について聞かせてください。まず、今作をフルレングスではなくEPにした理由とは?
ミヤ 別にアルバムでもいいけど、アルバムにこだわる必要はないよねという話だった気がします。
──昨今の海外シーンでは特に顕著ですが、リスナーが曲に触れ合う環境が変わってきている分、“シングル+α”や“数曲入り作品”を発表して、ツアーをして、という形態が主流になっています。アルバムは、それのベスト盤というか。そういった考えもありますか?
ミヤ うーん……アルバムって形は嫌いじゃないし、アルバムにはアルバム自体の流れがありますけど、果たして自分がその流れで今音楽を聴いているかと言ったら、たぶん聴いていない。好きなアーティスト……例えばレッチリ(Red Hot Chili Peppers)がアルバムを出したら盤で買いますけど、それって4、5年に1回じゃないですか。それ以外はCDを買わないし、ほぼサブスクで完結するので、その流れにまったく違和感はないです。
──では自身のリリース形態においても?
ミヤ はい。だから楽曲の先行配信もしっかりやっているんだと思います。アートワークに関しては面白いものが好きなので、フィジカルを出すときはいろいろ作ってはいますけど。
──それこそ、本EPのサイバーパンク的アートワークやタギング調のタイトル文字など、そこからどんな音が聞こえるのかワクワクしますよね。そんな今作の収録曲ですが、先の話を聞くに、ある程度早めに作られていたのでしょうか?
ミヤ メンバーそれぞれのプロジェクトが動き出す前に、全部終わらせていましたね。
antz 曲が完成したのはけっこう前だった。
ミヤ でもギター以外はメンバーが集まらないので、レコーディングが始まってから完結するまで、期間的にはすごく長いんですよ。ミックスのときに初めてみんな集まるくらいで……京さん以外は。
──そういった制作プランは、個人のスケジュールが詰まっているということ以外に、コロナ禍での活動経験も影響しているんでしょうか?
ミヤ 理由の全部ではないですけど、その影響もあってそれぞれの自宅で録音したものを集めてアルバムを作ろうという話になったと思うんですけど……京さんはコロナじゃなくてもたぶんスタジオに来ないですよ(笑)。
──な、なるほど。
ミヤ 京さんは“歌いたいときに歌いたい”というスタイルなんで。例えば「今、調子が悪い。この喉の枯れている状態で歌いたい」みたいな。でもそれはすごくいいなって。スタジオの時間にも左右されないし。
──結果として、そういった制作方法のほうがうまく進む部分も多分にあるということですね。
ミヤ デモを作る段階はパパパパッとできるんで、走り始めたら形にするのはすごく早い。ただ、そこからが長いんですよ。各メンバーの音に差し替えるのも、スタジオで顔を合わせてやっていたらその日だけで済むんですけど、メンバーごとにやっていくと何日もかかる。まあ、丁寧にやっているという意味では、別にいいのかなとも思いますけど。
──先行配信された「BATMAN」はライブですでにプレイされている楽曲ですが、配信後の感想もすでに届いているのでは?
ミヤ 最近あんまりSNSを見てないんですよね(笑)。「ライブよりパワーアップしている」みたいな意見はちょこちょこ見ましたけど。
──いいですね。一般的にはライブのほうがパワー感を感じやすいですが、それをスタジオテイクで超していったという。
ミヤ アーティストによってはライブでの再現率がすごく高いけど、プチブラっていい意味でライブのほうが音が悪いし、演奏も荒い。でも、そこがよさだと思うんです。ライブ先行で聴いてもらって、音源でクリアになって「こうやってたんだ」とわかる。
antz あとはライブを経てブラッシュアップされているし、アレンジもプラスされてますからね。
──そしてもう1回ライブに行って、改めて五感でバン!と食らうのがいいんでしょうね。
ミヤ そうですね。その五感で食らうっていうのが似合うバンドなんで。
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ミヤ、antzは作家気質