今作のテーマは「脱・ナルシスト」

──ここまでの活動で自分たちの音楽が示せた、打ち出せたことに対する自負もあると思うんですけど。それをこのタイミングでちゃんと言っておいたほうがいいと思うんですよね。

ゲイリー　やっぱり「野口、久津川で爆死」っていうインディーズで出したアルバムがリスナー的にも業界的にもインパクトが大きかったみたいで。で、それ以降に出した作品がけっこう実験の要素が強くて。「やっぱ『野口～』が一番よかったです」ってすごい言われたんですよね。

ユコ　あれはベストみたいなもんだからね。

ゲイリー　でも、俺たちはまだフェスでもお客さんを集められるし、Zeppでもワンマンができるんだぞってところは自慢なんですよ。「野口～」だけだったら今頃とっくに飽きられてると思うから。

──ちゃんと音楽性を更新しながら一定の求心力を保つことができたと。

ゲイリー　そうですね。そこは誇れるかなって。

ユコ　どのステージも手を抜かなかったからお客さんがついてきたんだと思うしね。作品も常に前作をバネにして、課題を持って次の制作に向かってましたから。新しいこともそこに加えつつ。

ゲイリー　賛否両論はあったと思うけど。

──今回のミニアルバムに未発表だった初期音源を再録したのは、このタイミングで過去も全部清算してやろうという狙いだったんですか？

ゲイリー　はい。まさに第1部終了ってことで。

ユコ　そう、そういう感じですね。

ゲイリー　あとは単純に全部新曲で構成にするのはちょっとストックが足りなかったのと、ここで再録しなかったら永久にしないだろうなと思って。それがちょっともったいないなって。

ユコ　うん。ここでやらないでいつやるのってことですね。

──いびつな構成ではありますよね。

ユコ　はい。ただ、リメイクするからには今のモードで思いきり悪ふざけするって言ったらアレですけど、今の実力で昔の曲を面白く料理したかったんです。

ゲイリー　楽しかったよね！ 「この曲のテーマはモンパチだぞ！」とか「これは俺が1人Nirvanaだ！」とか言いながら。

──あはははは（笑）。わかりやすい。1人Nirvanaは「クソまみれの僕ら」だ。

ゲイリー　そうです！

ユコ　そこに「Queenをぶっ込むんだ！」とかわけわかんないこと言ってたよね（笑）。

──確かにいろんなオマージュが見えますよね。

ユコ　いい意味で初心に返ったというか。そのフレッシュさは大事にしたくて。だから悪ふざけもできたし。レコーディングも笑いの絶えない感じで。ハードスケージュルでしたけど現場は明るかったです。

ゲイリー　初期曲は25歳くらいのときに作ったもので。それを今、33歳になってやるっていうのは不安もあったんですけど、フタを開けてみたら25歳のときよりはるかにバカにやれたので。25歳のときに書いた歌詞を歌うことにもなんの抵抗もなくて。我ながらヒドいなと思う歌詞も今のほうが切実に歌えたというか（笑）。

──いいですね。

ゲイリー　いいですかね？（笑）

──今のゲイリーさんだったらこういう歌詞を書かないし、書けないだろうし。

ゲイリー　まず出てこないです、はい。

──それもわかってるから切実な熱量で歌えるんでしょうね。

ゲイリー　そう思いますね。「なんで今の俺はこんな歌詞を本気で歌えるんだろう？」ってレコーディングブースに入りながら自分で笑ってました。

──過去の自分を昇華できたんでしょうね。

ユコ　そうだよ。めちゃくちゃな歌詞だけど、過去の自分にすごく共感できたからだと思うよ。

ゲイリー　まあ、日記を読み返してるようなもんですよね。タフになったなとも思うし。

──そのなかでも「頭がクサいと君に言われ五日ぶりに風呂に入った」はめちゃくちゃいい曲ですね。

ゲイリー　ありがとうございます。これはぶっちゃけて言うと、ゲイリー史上最大の名曲だと思ってます。この曲だけは唯一、ボーカルブースに入ってるときに泣きそうになりました。

ユコ　絶対に泣くと思ったけど泣かなかったね。

ゲイリー　さすがに今の俺はもう泣かない！ 昔はレコーディング中にしょっちゅう号泣してたんですけどね。自分の歌で泣かないというのも今回のテーマだったんですよ。「脱・ナルシスト」が。

起こそうぜ、ビッグバン！

──リード曲の新曲「ハイヒールブルース」もすごくいいんですよね。トリッキーさというよりも、ソウルフルでシンプルな歌の魅力が強くあって。

ゲイリー　ちゃんと出せてます？ なんかね、この曲はモータウンみたいな曲を1曲くらい作れたらいいなと思って。結果的にそんな感じにはならなかったけど。

──でも、ニュアンスはわかる。ちょっとオザケン（小沢健二）感もありますよね。

ゲイリー　ああ、なるほど。そんなアーバンな感じが出てます？

──あると思う。

ゲイリー　ならよかったです。最近、モータウンじゃないですけど、Sly & The Family Stoneとかカーティス・メイフィールドとかをずっと聴いていて。こういうノリがよくて、歌がシンプルでハッピーな感じの曲ができたらなって。着地した感じはちょっと違うけど、休止前にこういう曲ができてよかったなって思います。

──ただ、歌詞には今の葛藤が表れてるとも思う。

ゲイリー　やっぱり希望に満ちあふれた元気なだけの曲は面白くないなと思って。現実は厳しいけど、それでも楽しいことはしたいっていう感じなのかな。ほかのバンドを見て「こいつらがなんで売れてるのかな？」って思うことも正直あるんですよ。でも、そういう気持ちがないとダメだと思うんですよね。面白い音楽なんてできない。改めて、音楽って人間性が全部出ちゃうもんだと思うし。だから、活動休止したら自分の生き方を丸ごと見つめ直したいんですよ。自分ができることとできないことをもっと見極めたいし。それで、もっとカッコいいドラムを叩けるようになりたいし、ボーカリストとしての最終的な願望としてはフレディ・マーキュリーみたいな歌を歌えるようになりたいです。

──休止後、どれくらいから3人でまた会うようになるんですかね。

ユコ　どうだろうね？

マルガリータ　ちょっとわかんないな（笑）。

ゲイリー　自然に集まりたくなるのを待ってたら一生会わない気がするので（笑）。でも、今はそう思ってるだけできっと会いたくなるんですよ。

ユコ　なるかなあ（笑）。

ゲイリー　ま、こんだけ罵り合いができる相手もなかなかいないですから。

ユコ　リスナーの皆さんがどう感じるかはわからないですけど、自分自身としてはこのバンドが絶対にいい方向に向かう確信があるので。休止後、ビッグバンを起こせるように。

ゲイリー　そうだね。起こそうぜ、ビッグバン！